表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/38

林護町ダンジョン④キムチ鍋と作戦会議

●●●


 二人は現在、鍋料理屋に来ていた。ビジネスホテルでは食事が提供されていないので、荷物だけ置いて近くのお店に晩御飯を食べに来ている。

 二人が、というより氷織が所望したのは鍋料理。近くの鍋料理屋を探して入店した。注文したのはキムチ鍋。

 テーブルの中央に置かれた鍋から、ぐつぐつと湯気が立ち上っている。鍋の中ではキムチが煮込まれており、辛さが鼻孔を刺激する。

 他にも豚バラ肉、豆腐、えのき、ニラも見え隠れしている。どれもこれも辛さをその身に蓄えている。だが、どれも美味しそうだ。


「いただきます。ふーふー、はふはふ。……あちゅい、でもウマー!」


 まずは先陣を氷織が切る。熱々のキムチに息を吹きかけて冷ます。パクっと口に含むが、まだまだキムチは灼熱。熱々と格闘しながら、咀嚼する。噛むたびにじわじわと辛さが溢れるが、それが美味しい。


「いただきます。……からっ、でも美味いな。……くぅ、やっぱ辛い。水くれ、水っ!」


 蘇鳥が食べたのは豚バラ肉。柔らかく煮込まれた豚バラ肉は簡単に噛み切れるが、中から辛さが襲ってくる。体が熱くなり、汗が吹きだす。思わず水を一気に飲むのだった。

 氷織は黙々と食べ進めているが、汗をかいている様子はない。氷織は辛さに強いみたいだが、反対に蘇鳥は辛さにかなり弱いみたいだ。

 二人は激辛のキムチ鍋を堪能する。


「今日入ったダンジョンではまったく収穫はなかったんだが、氷織は何か気になることがあったか?」


 二人が一緒にキムチ鍋をつついているのは、単に晩御飯を食べるためでない。今日探索したダンジョンの感想を聞いたり、もしくは反省して、翌日以降の探索に活かすためだ。

 要するに作戦会議。キムチ鍋おいしー、だけではない。


「今日の? うーん、何かあったかな? つまんないことしか覚えてない」

「なるほどね。じゃあ、護衛のほうはどうだった?」

「モンスターも弱いし、罠もない。護衛した気はない、かな」


 所詮はダンジョンランク2だ。氷織が苦戦するようなことはない。それもつまらない要因の一つなのだろう。


「でも、大丈夫なの? 何もないと仕事にならないんじゃない?」

「まあ、問題ないといえば問題ないし、問題があるといえば、問題がある。ダンジョンの情報を集めてた時から、今日入った二つのダンジョンには何もない予測が立ってからな。予想の範囲内の結果だよ」


 林護町には四つのダンジョンがあるわけだが、そのどれもに新しい価値を見つけられると思っていない。一つでも価値を見つけることができれば十分だ。

 蘇鳥の本命はまだ残っている。


「明日行く林護町ダンジョンWについて、氷織はどれくらい知ってる?」

「まったく」


 悪びれる様子もなく答える。少しくらいは情報を仕入れてほしいものだ。ダンジョン探索は命がけだ。情報一つで生死が分かたれることもあるというのに。

 氷織も普段からダンジョンの情報を仕入れないわけではない。蘇鳥が調べるから、何か困ったことがあったら蘇鳥に聞けばいい。信頼と甘えがあるから、わざわざ情報を集めない。

 それに、ダンジョン探索の経験もある。よほど特殊なダンジョンでもなければ、困ることはない。

 過疎っているダンジョンである以上、特殊な事情があることも少ない。結果として、氷織は情報を集めなくても問題ない。


「まず行くのは本命の林護町ダンジョンWだが、ここは水と風のダンジョンだ。ランクは4だ」


 林護町ダンジョンWには、大きな特徴が二つある。

 一つは水だ。ダンジョンの地面はどこでも水が張ってある。高さは5センチ程度だが、移動が妨げられたり、戦闘の邪魔になる。

 その上、もう一つの特徴が常に吹く風だ。ダンジョンのどこからか風が吹いている。時折、強風も吹く。

 向かい風が吹こうものなら、体が押し戻される。戦闘中に強風に見舞われたらバランスを崩しかねない。

 とても攻略が大変なダンジョンとなっている。

 逆に言えば、攻略が進んでいないダンジョンとも言える。攻略難度の高さから、冒険者に毛嫌いされている。

 未発見の素材やモンスターが見つかっても不思議ではない。新しい価値が眠っている可能性が非常に高い。


「面白ーーじゃなくて、厄介そうなダンジョンなのね」

「おい、本音が隠せてねぇぞ。まあいいけど。ともかく水と風、両方の対策をしていない攻略が難しい。攻略ができないと、調べる以前の問題だからな」


 足元が悪いと蘇鳥の移動がネックになる。一般的な冒険者なら、不快で済む。しかし蘇鳥の場合、歩くだけ一苦労だ。

 その上、強風も吹く。これも相当厄介だ。やはり、一般的な冒険者なら強風も不快で済む。しかし、蘇鳥の場合、強風でバランスを崩して倒れる可能性が高い。

 水と風、両方の課題をクリアしないとダンジョンを進むことはできない。

 わざわざ作戦会議を開いたのは、この二つの問題をどう対処するか検討するためだ。もう一度言うが、冒険お疲れ様、美味しい料理を食べよう、だけではない。


TIPS

キムチ鍋

キムチをベースにした辛くて旨味のある鍋料理。豚肉や豆腐、野菜などを煮込んだ人気の料理。シメにご飯や麺を入れても美味しい。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマーク登録や感想、評価をよろしくお願いします。

小説を書く励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ