林護町ダンジョン③ハズレのダンジョン
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後日、蘇鳥と氷織は林護町にやって来た。
林護町が今回の依頼主であり、ダンジョンを有する自治体だ。
林護町には四つのダンジョンがある。区別するため、N、E、W、Sと分けられている。
四つもダンジョンがあるのだが、どれもこれも微妙な内容らしい。まったく冒険者がいないことはないが、どれもこれも人気はない。他に行くのも面倒だから、仕方なく選んでいるという人が大半だ。
今回の調査に案内人はいない。日付を変更したこともあり、先方の予定が空いていない。調査は自由に行って構わないとの言質は頂いている。
その代わり報酬は成果に応じて支払われる。何も成果を得られなければ報酬はない。氷織に護衛料を支払わなければならないし、交通費や宿泊費もかかる。大赤字確定。
というより、ちょっとした成果でも赤字になる可能性が高い。失敗したら支払いのためバイトでもするしかない。案外、追い詰められている蘇鳥だった。
「どこから行くの?」
「うーん、そうだな。最初はやっぱりNかな。ここが一番オーソドックスらしい。基本的な方針を決めるためにも、Nから行きたい」
「ふーん。どこでもいいから、関係なかったや」
「もう少し自分の意見を主張してくれてもいいんだぞ……」
林護町ダンジョンNは林護町にあるダンジョンの中で最もオーソドックスなタイプ。故に冒険者もそれなりの数入っているが、どうも微妙に報酬が悪いらしい。
冒険者の感想は「全部が下振れしているダンジョン」だ。
出現するモンスター、魔石、宝箱、魔道具、素材など、どれもこれも他のダンジョンでも見つけられるものばかり。その上、他のダンジョンではハズレと言われるもの。
ハズレが寄り集まったダンジョンが林護町ダンジョンNだ。
ダンジョンランク2ということもあって、そもそもが稼げない。そこからさらに下ブレるのだから人気がないのも当然だ。
ちなみに、世の中にはすべてがアタリで構成されているダンジョンも存在する。林護町ダンジョンNとは真逆のダンジョンも存在する。何もしなくても冒険者が勝手にやって来るダンジョンもある。
残念ながら世の中は平等ではない。
「本当に何もなかった。これほどまでに不遇なダンジョンも珍しい」
「うん、つまらないダンジョンだった。ふぁぁ、暇すぎて眠くなるダンジョンだった」
早速調査を済ませた二人はダンジョンから出て、探索した感想を漏らす。
事前情報通り、林護町ダンジョンNはハズレしかなかった。出現するモンスターはダンジョンのランクの割には微妙に強いし、落とす魔石は微妙に質が悪いし、採取や採掘できる素材も微々たるもの。
まさにハズレを詰め合わせたダンジョンだった。
しかも、それ以外に特徴らしい特徴もない。
もし、蘇鳥がどうしてもこのダンジョンの活用法を探らないといけないのなら、冒険者の記憶に残らないダンジョンとして売り出すことだろう。特筆すべき点がないのだから仕方ない。
いや、一つだけメリットがあるにはある。それは探索が楽ということ。オーソドックスを詰め込んだようなダンジョンだ。攻略法は確立されていると言っても過言ではない。
氷織からすると簡単すぎてあくびが出るくらいだ。楽すぎるのも問題かもしれないが、冒険者の基礎を学ぶのに使えなくもない。
頑張れば、無理矢理価値を見出すことは可能だ。しかし、活用できるものではない。
はっきり言って、林護町ダンジョンNでどうこうするのは難しい。切り捨てるのが最善だ。
「気を取り直して次のダンジョンに行こう。四つあるうちの一つがダメだったくらいでクヨクヨしてられん」
「オッケー。次はどこに行くの? 次は眠くないといいな」
「次はEに行くぞ。残念なことにここもNに負けず劣らずのダンジョンらしいぞ」
林護町の東側には森が広がっている。その森の中に林護町ダンジョンEは存在する。
町から外れていること、さらに内容がNとほとんど変わらないことから、N以上に人気がないらしい。一応、Nに比べるとハズレが減って、アタリが少しだけ多いらしい。とはいえ、微々たる差なので、わざわざEに来る冒険者はいないらしい。
場所が場所なので、後ろ暗いことがある人、新しいスキルを秘密裏に試したい人などが、時おり利用することがある。不人気ゆえの利用法だ。
「本当に何もなかった。これほどまでに不遇なダンジョンも珍しい」
「うん、つまらないダンジョンだった。ふぁぁ、暇すぎて眠くなるダンジョンだった」
道から外れ、藪をかき分けた森の先に林護町ダンジョンEはある。それの調査を終えて、ダンジョンから出てきた二人は感想を漏らす。
つい数時間前にも同じことを言った気がするが、仕方ない。だって、NとEでダンジョンの内容がほとんど変わらなかったからだ。内容が同じなら、感想が同じになるのもやむを得ない。
ぶっちゃけ、ダンジョン探索は再放送だった。
探索中に「あっ、これ、前に見たことある」が何度も起きた。初めて入ったダンジョンなのに不思議なことだ。
林護町ダンジョンのNとEが双子のダンジョンだと言われても納得するくらいには類似していた。幸か不幸か、そのおかげで調査自体は捗った。
ただし、成果はない。調査がスムーズに進むことと、価値を見つけることは同義ではない。
「いったんホテルに向かうか。時間もいい感じだし」
時刻は夕方前。
ダンジョンを二つ調査したら、それなりに時間は経過する。
氷織がいかに優秀な冒険者だとしても、蘇鳥の移動速度が遅い以上、調査に時間がかかる。また、気になることがあれば、それも調べなければならない。どうしても調査は時間がかかる。
そのため四つのダンジョンを一日で調査することは不可能だ。二日に分けて調査する必要があからこそ、泊りがけの仕事なのだ。
二人は予約しているビジネスホテルに向かう。
当然だが、二人の部屋は別々だ。予約のミスで二人が一緒の部屋になる、なんてハプニングも起きない。
もし現代でそんなミスが起きようものならSNSでさらされて炎上するだろう。システムの不備なんてそうそう起きない。
残念ながら二人にラブコメは期待できない。
TIPS
林護町
地方のそこそこ大きな都市。
ダンジョンを四つ有しているが、どれも価値が著しく低く、冒険者からの人気がない。
駅前は賑わいがあるが、駅から離れると途端に田舎となる。
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