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林護町ダンジョン①エリクサーって知ってる?

投稿を再開しました。

新しい章をお楽しみください。

「すっかり夏だな」


 季節は既に夏。現在は、とても暑い平日の昼。

 蘇鳥は氷織と一緒に大学の食堂でお昼ご飯を食べていた。

 蘇鳥は醤油ラーメンを、氷織は麻婆豆腐をむしゃむしゃ食べている。

 普段なら、蘇鳥は片手でも運びやすい料理を選ぶのだが、今回は氷織もいるので甘えた形だ。ラーメンの丼は片手だと運びにくい。氷織に持ってきたもらった。

 そんな氷織は麻婆豆腐を汗一つ流さず、クールな表情で食べ続けている。

 素直に熱くないのだろうかと疑問が浮かぶが、汗をかいていないということは熱くないのだろう。


 さて、蘇鳥と氷織、二人がする話といえば、大学のことかダンジョンのことしかない。最近見た動画の話だとか、色恋に関する話題は一切ない。

 で、大学については特に何も話すことはない。学部も違うので、そもそも話すことが少ない。

 そうなると、内容はダンジョン界隈の話題に限られる。


「エリクサー見つかったってホント?」

「らしいな。まあ、俺達には関係のない話だ」


 エリクサーとは万能の回復薬。

 どんな病気や怪我も治してしまう、最強の回復薬だ。肉体の欠損も治してしまうし、病気に侵された体も健康になる。寝たきり状態から、一夜で完全復活した事例もある。

 それこそ、蘇鳥が使えば、左足は元通りになるし、左腕は完全に動くようになる。文字通り万能なのだ。

 医者の仕事を不要にしてしまうエリクサーが見つかったのだ。

 エリクサーだが、過去にも数例見つかっている。今回が初めてではないからこそ、皆はエリクサーの効果を知っている。最強の回復薬の効果が保証されているため、世界中でお祭り騒ぎが起きている。


「エリクサー欲しい?」

「ん?」

「エリクサー、あったら、欲しいの?」


 氷織の視線が蘇鳥の左腕を捉える。

 仮にエリクサーが手に入れば、蘇鳥の体の欠損も元通り。エリクサーを欲しがっても不思議ではない。


「まあ、そうだな。欲しくないと言えば嘘になるが、どうしても欲しいって程じゃない。それに学生が買えるような値段でもない。たとえお金があっても、争奪戦に参加できるコネもない」


 エリクサーの効果は素晴らしい。蘇鳥だって貰えるなら欲しい。だが、エリクサーは高い。

 学生が買えないことはもちろん、普通のお金持ちでも手出しできないくらいに高い。

 前回のエリクサーは天文学的な値段で取引された。今回のエリクサーも似たような値段になるだろう。世界でも有数の金持ちが金の力を使って手に入れるに違いない。

 仮にオークションが開催されるにしても、その会に参加できる人は限られている。普通の大学生が参加することは不可能だ。


「冒険者、やりたくないの?」

「冒険者……か。まあ、やりたい気持ちはある。でもな、今の生活も気に入っているんだ。……いや、冒険者をやっている時以上に充実しているかもしれん。もしエリクサーが手に入ったとしても、ダンジョン再生屋は続けるだろうな」

「……そう」


 氷織は蘇鳥の回答に満足したのか、短く返事をするのだった。

 もう、エリクサーの話はおしまいだ。


 パカッ。

 蘇鳥にスマホに通知が届く。蘇鳥のスマホの通知音は宝箱を開けた時の効果音を採用している。

 重要な情報ほど、豪華な宝箱を開けた時の効果音に設定されている。

 今の音は普通の宝箱を開けた時のもの。友達からの連絡は重要度を高めているので、仕事の連絡かもしれない。


「悪い、スマホを確認する」


 一言断りを入れてスマホを確認すると、案の定仕事の連絡だった。

 ざっと確認すると、次の依頼はかなり遠い場所のようだ。日帰りできない距離なので、泊りになる。しかも調査するダンジョンが複数ある。ダンジョンランクも3と4となので簡単に行くこともできない。

 護衛がいないと厳しい。つまり、氷織の出番だ。


「新しい仕事が入ったんだが、ダンジョンランクは3と4みたいだ。氷織には前みたいに護衛を頼みたい。予定は6月の終わりの土日だな。頼めるか?」

「ムリ」

「……え? マジ? 本当の本当にムリなの?」

「マジです。その日はもう用事が入ってる。だから、ムリ」

「オーマイガー!」


 既に予定が埋まっているのなら仕方ない。決して、蘇鳥と二人で泊りが嫌だったわけではない。

 ラブコメ漫画ではないのだから、ホテルは別の部屋。年頃の男女が一緒の部屋でお泊りなんてシーンはない。

 当てが外れた蘇鳥は他の護衛を探すしかない。一人でダンジョンランク3や4のダンジョンを調査する余裕も実力もない。護衛は必須となる。

 蘇鳥とて、氷織以外にも冒険者の知り合いはいる。だからこそ、日本人が普通はしないリアクションをする余裕があるのだ。


「さて、誰に護衛を頼もうか」


 氷織と別れた蘇鳥は早速護衛を探す。

 かつては冒険者をしていたのだ。その時に知り合った人もいれば、ダンジョン再生屋を初めてから知り合った冒険者もいる。誰かしら護衛を引き受けてくれるだろう。

 もし護衛が見つからなければ、仕事を引き受けることができない。安全が確保できない状態で引き受けようものなら、仕事どころではない。

 氷織に断られて少しだけ追い詰められている蘇鳥であった。


「まずは誰にしようかな」


 スマホに登録されている連絡先をスクロールしながら、護衛を引き受けてくれそうな相手を探す。


「おっ、いい奴発見。神倉楓斗、キミに決めた!」


 プルルルル、プルルルル。通話をかけて、呼び出す。


「はい、もしもし、神倉です」

「オレオレ、俺だよ」

「オレさんですか。はじめまして、何用でしょうか?」

「ダンジョン行くんだけど、一緒に来ない?」

「行きません。…………ふぅ。で、茶番はこれくらいでいいか?」


 神倉楓斗。彼は蘇鳥が冒険者をしていた頃、一緒にパーティを組んでいた仲間の一人だ。

 パーティは蘇鳥が怪我したことによって事実上の解散を迎えた。それでも神倉は冒険者を続けているし、関係も切れていない。


「俺がダンジョン再生屋をやっていることは知っているよな?」

「まあ、一応。詳しくは知らんが」

「そこに新しい依頼が入ってな。次に行くダンジョンはランクが3と4なんだ。一人で行けないから、護衛してほしい。日付は6月の末の土日だ。もちろん、護衛料はたっぷり支払うぞ」

「そうか、久しぶりに蘇鳥とダンジョンに行くのも悪くないな」


 でも、と神倉は続ける。


「悪い。用事が入っている」

「お前もかよっ」

「お前も? ……ははーん、さてはお前、既に断れた後だな。だから久しぶりに連絡したのか」

「うぐっ!」


 神倉も既に用事が決まっているらしい。氷織と同じ理由で護衛を断られる。

 同じ理由ということもあって、蘇鳥は少しだけ仲間外れな感覚に陥る。しかし、氷織と神倉に接点はない。理由が被ったのは偶然だ。

 まあ、冒険者は忙しいのだろう。

 しかし、連絡した理由を見通されるとは、鋭い視点を持つ仲間だ。


TIPS

神倉楓斗かみくら・ふうと

蘇鳥の高校時代の同級生。華鳥楓月の一人。

冒険者になったのは蘇鳥に誘われたから。現在は他の冒険者とパーティを組んでダンジョンを探索している。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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