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水海村ダンジョン⑧深淵銀と依頼完了

深淵銀、貴重な素材で高値で取引されるのだが、その取り扱いには注意が必要となる。

 深淵銀の特徴は、触ると精神が不安定になるというもの。その性質から呪術系のスキルの触媒として使用される。

 冒険者や一般人の中には呪術系スキルに悪いイメージを持っている人もいる。呪術系スキルそのものに問題はないが、呪いというだけで一部の人は悪いものと誤解している事実が存在する。

 取り扱いを間違えると、水海村ダンジョンが非難の対象になったり、封鎖を求める声が上がる可能性がある。

 事は慎重に運ばなければならない。

 その上、深淵銀は採掘できる場所が限られており、採掘量も少ない。深淵銀を求める過激な冒険者と呪術系スキルに悪いイメージを持っている人の対立が起きることも考慮しなければならない。

 鯉登はこれから頭を悩ませるだろう。


「深淵銀のことで頭を悩ませているところ申し訳ないのですが、私たちが調べられたのは六階層までです。水海村ダンジョンは全十階層です」

「……っ! それより下にはもっと貴重な素材が眠っている可能性がある、ということですね?」

「はい」


 七階層以降で採れるアイテム次第では全国から、もしくは全世界から冒険者が押し寄せてくる可能性がある。

 効率が悪くて地元の人から見向きもされないダンジョンが一転、世界の中心のダンジョンになることも考えられる。六階層までの素材を考えると、七階層以降も似たようになる可能性は高い。

 もし貴重な素材が眠っていたら、鯉登一人で対処できるレベルを超えている。迷宮省と足並みを揃える必要があるだろう。

 逆に七階層以降には貴重な素材がない可能性もある。どっちに転ぶかは今後の調査次第だ。


「蘇鳥さんは、もっと貴重な素材が眠っているとお考えですか?」

「可能性は十分あるかと。氷織はどう思う?」


 氷織は一般的な素材の知識はあるが、専門的な知識はない。それでも冒険者として数々のダンジョンに潜ってきた。その経験から、何か気づいたことがあるかもしれない。


「うーん、…………わかんない」

「あっ、はい」

「でも、面白そうな気がした」


 氷織はどちらかというと天才肌タイプの冒険者。具体的に何が面白そうなかは謎だが、何かしら隠されているかもしれない。


「だそうです。上級冒険者の勘を信じるかは鯉登さん次第ですね」

「ははっ……」


 鯉登から乾いた声が漏れる。はたして、氷織の直感は当たっているのだろうか?

 ちなみに、蘇鳥はダンジョンを調べるスキルを持っている。それによって、世界でも類を見ない貴重な素材の痕跡を確認した。

 確証を得られていないので、鯉登どころか氷織にも話していない。

 もし痕跡が本物だったら、水海村ダンジョンは世界の注目の的になるだろう。


 蘇鳥が水海村ダンジョンで見つけた痕跡は、時砂。


 時砂は時間に干渉することができると言われている素材。アインシュタイン先生もビックリ仰天する素材だ。

 もしかしたら、時砂によってタイムマシンが完成するかもしれない。研究者の間では存分に期待されている素材だ。

 しかし、本当に時間に干渉できるかは解明されていない。まだまだ調査段階だ。もしかしたら世界中の研究者が的外れな考えをしている可能性も考えられる。

 そんな時砂だが、深淵銀以上に貴重な素材となっている。しかも、現在採掘できる場所はダンジョンの奥深く。上級冒険者の一握りしか行くことができない場所でしか採掘ができない。

 しかし、水海村ダンジョンなら上位の中級冒険者や下位の上級冒険者でも攻略ができる。貴重な時砂の採掘ダンジョンとして世界に名が知れ渡るだろう。あくまで採掘できるのなら、というもしもの話だが。


「これから水海村とダンジョン、どうなるのでしょうか?」

「さあ? なんとも言えません。全国から冒険者が押し寄せてくるかもしれませんし、今までと何も変わらないかもしれません。それは水海村と鯉登さん次第でしょう」

「たはは、無責任ですね」

「無責任と言いますが、ダンジョン再生屋の仕事は価値がないと思われているダンジョンで新しい価値を発見することです。ダンジョンの活用法やダンジョンの運営については仕事の範疇じゃあありません」

「私たち、ちゃんと仕事した」


 鯉登はこれからのダンジョン運営を助けて欲しそうにしているが、蘇鳥の仕事ではない。ダンジョンを効率よく運営するコンサルタントは請け負っていない。門外漢だ。

 ダンジョンの運営について考えたいのなら別の人に依頼してください。蘇鳥はできない仕事を受ける気はない。


「鯉登さん、こちらからの報告は以上となります。特に質問がなければ、依頼を終えたいのですが?」

「うん、帰りたい」

「あー、そうですね。ダンジョンについては改めて調べてみないといけないので、質問することは……特にないですね。えーっと、この度は水海村の依頼を受けていただきありがとうございました」

「いえ、どういたしまして。こちらこそ、ありがとうございます」

「うん、楽しかった」


 楽しかったという感想はどうなのだろうか? 仕事が苦しいよりはいいのかもしれないが、わざわざいう必要はあるのだろうか、そんな疑問を抱く蘇鳥だった。

 鯉登も気にした様子がなかったので、まあいっか、となるのだった。


「それでは、外へどうぞ。お見送りさせてください」

「すみません。最後に一つだけ、お願いが」

「どうしました?」

「駅まで送ってください」

「駅、遠い。歩きたくない」

「あー、そうですね。駅、遠いですよね」


 鯉登が遠い目をする。田舎の交通は本当に不便だ。特に足の悪い蘇鳥だと、大変さが割増しになる。

 冒険者はダンジョンの中だと無類の強さを発揮するが、ダンジョンを出てしまえばただの一般人。遠い距離を歩くのはしんどい。一般人に比べると冒険者は体力があるが、限度がある。

 駅まで歩くのは体力的な問題もあるが、時間的な問題もある。あまり女性を夜遅くまで連れまわすのはよくない。そういった意味でも駅までの送迎は求められる。


「えっと、私はこれから、ダンジョンのことを報告したり、これからの行く末を検討する必要があるので、手が空いてないんですよね。ですから、鈴木さんに送ってもらいますね」


 鈴木さんとは鯉登の代打として挨拶した水海村の職員。

 もしかして鈴木さん、都合のいい存在として仕事を振られているでは? と蘇鳥は邪推する。

 鈴木さんの立場がどうであれ、二人には関係のないこと。役場を出た二人は鈴木さんの車に乗り込み、駅まで送ってもらうのだった。

 そして、電車を乗り継ぎ、自宅に帰るのだった。


 後日、蘇鳥の口座には依頼達成の報酬が支払われた。その報酬から護衛料を氷織に対して、しっかり支払いました。

 はたして、水海村ダンジョンはどういった選択を選択したのだろうか?


 水海村がどういった選択を取ったかは、いずれ語る機会があるかもしれない。


TIPS

深淵銀

くすんだ銀色の鉱石。採掘できる場所が限られており、採掘量もかなり少ない。貴重な素材。

メンタルが弱いものが触ると精神が不安定になる。もっぱらの活用方法は呪術系のスキルの触媒。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマーク登録や感想、評価をよろしくお願いします。小説を書く活力になります。


水海村ダンジョン編は今回で終わりです。次の章の投稿は数日後となります。楽しみにお待ちください。

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