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水海村ダンジョン⑥職員に報告だ

●●●


「アイス、うまー。蘇鳥ははさんー」

「アイス奢ったくらいで破産せんわっ! どんだけ貧乏人だと思われてんだよ」


 ダンジョンを脱出した二人はすぐには役場に向かわず、小休憩を取っていた。

 ダンジョンでアイスを奢ると約束したので、それを果たしているのだ。

 ちなみに、氷織は値段の高い濃厚なアイスを三つも頼みました。美味しそうにペロリと平らげました。


「幸せそうでなによりだよ」


 休憩もそこそこに、二人は水海村の役場に来ていた。もちろんダンジョンで得られた情報を報告をするためだ。


「はじめまして、水海村ダンジョンを担当している鯉登と申します。本日は、同行できずに申し訳ありませんでした」

「こちらこそ、ご依頼いただきありがとうございました。はじめまして、ダンジョン再生屋の蘇鳥です。こちらが護衛の氷織です」

「うん、よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


 鯉登さんはスーツを着こなす女性の職員。眼鏡をかけた真面目で知的そうな女性だ。

 簡単に挨拶を済ませたら、さっそく本題に入る。


「蘇鳥さん、水海村ダンジョンどうでしたか? 噂にたがわず、効率の悪いダンジョンだと思いましたか?」

「そうですね。確かに出現するモンスターはどれも効率がいいとは言えません。モンスターを倒しているだけだと効率が悪いです。それこそ波の冒険者なら赤字になることも多いでしょう」

「その通りです。ハードトータスは硬いですし、クレイゴブリンとは戦いたくない、サンダーゴブリンはスキルが強力なので怪我したら大変です。オドロトカゲとユメキツネはそもそも倒すのが難しいです。六階層以降はそれなりにアドがあるんですが、そこを攻略できる実力があるなら他のダンジョンに行きます。……はあ、考えれば考えるほど、水海村ダンジョンは不遇です。不遇の極みです」


 はっきり言って水海村ダンジョンのモンスターで稼ぐのは効率が悪い。費用対効果、コストパフォーマンス、タイムパフォーマンス、いずれも最悪に近い。

 モンスターで稼ぐのは愚の骨頂だ。

 鯉登は自らが所属する地域のダンジョンの効率の悪さに頭を抱えて俯いてしまう。


「落ち込まないで。なんか、稼げるらしいよ?」

「氷織、あまり適当なことを言うな。とはいえ、水海村ダンジョンが稼げるのは間違いないですが」

「……えっ!? 本当ですか?」


 鯉登の顔が上向き、表情がパッと明るくなる。どうしようもないと思っていた所に希望が現れて、蘇鳥にキラキラの眼差しを向ける。


「まさか、ハードトータスを簡単に倒す方法でも見つけたのですか?」

「すみません、そんな都合のいい方法は知りません」

「では、クレイゴブリンと汚れずに戦う方法ですか?」

「ごめんなさい。それも分かりません」

「じゃあじゃあーー」

「落ち着いて」


 見ていられなくなったのか、氷織が割って入る。

 はしゃいでいる姿が恥ずかしくなったのか、鯉登は顔を赤らめて、肩をすくめる。

 希望がないダンジョンに希望が見えて興奮するのは分かるが、はしゃぎ過ぎたようだ。大人として恥ずかしく感じ、穴があったら入りたい気分だ。


「すーはー、すーはー、すみません、取り乱しました。それで、話を戻しますが、本当に水海村ダンジョンで稼げるのですか? 本当ですか?」

「はい、本当に稼げます。ただし、モンスターで稼ぐのではありません。水海村ダンジョンには、貴重な素材が眠っています。はっきり言って、素材の宝庫です」

「あのダンジョンに貴重な素材ですか? まったく心当たりがありません。何もなかったと記憶していますが……」


 心当たりがないのも無理ない。気づいていないのだから。


「鯉登さんは水海村ダンジョンに入っているんですよね?」

「ええ、担当者として定期的に入って何か変化がないか確認しています」

「では、壁を見たことがありますか?」

「壁? 壁というのはダンジョンの壁ですか? もちろん壁を見たことはあります」


 蘇鳥は鯉登に水海村ダンジョンの壁について聞く。

 壁を調査したことがあるのか→ない。

 壁の色を気にしたことがあるか→ない。


「これだけ壁について聞くということは、壁に何かが隠されている、ということですよね?」

「その通りです。実は水海村ダンジョンの壁の中には素材が眠っています」

「本当ですか!?」

「はい、たとえば一階層には鉄が眠っています。しかも、少量ですがレアメタルが含まれているようです。詳しく調査できませんでしたが、鉄以外の金属も存在すると思います」

「鉄、ですか」


 鯉登のテンションが一気に下がる。

 素材が眠っていると言われて、出てきたのが鉄では仕方ない。

 鉄も素材として重要だが、値段が安い。仮にダンジョンに大量の鉄が眠っていたとしても冒険者が運べる量では大した稼ぎにはならない。

 重機を導入するにしてもダンジョンの狭さが問題になる。

 鉄が採れたところで、効率が悪いダンジョンの汚名は返上できない。

 レアメタルなら鉄に比べて貴重だが、少量しかなければ稼げるほど採掘するのは難しい。結局効率が悪いという事実は覆せない。


「鯉登さん、早とちりしないでください。あくまで一階層では鉄が採れるという話です。二階層以降はまた別のものが採れます」

「本当ですか? 蘇鳥さん、それを早く言ってくださいよ、お姉さんを弄ぶだなんて趣味が悪いですよ」


 勝手に早とちりしただけだろ、というツッコミは口に出さない蘇鳥だった。相手は依頼主、機嫌を損ねるわけにはいかない。


「水海村ダンジョンでは、二階層は紅蓮鋼、三階層は氷河鋼、四階層は雷鳴鋼、五階層は颶風鋼が採掘できます」

「それ、嘘じゃないですよね?」

「マジです。嘘をついても仕方ありません」


 鯉登のトーンが下がり、真剣みが増す。蘇鳥の話が本当なら、水海村ダンジョンに大挙として冒険者が押し寄せる可能性がある。

 鯉登はダンジョン再生屋に「あはは、なにか新しい発見があったらいいなぁ」と軽い気持ちで依頼した。何も見つからなくてもいいと思っていた。他の人にも効率が悪いダンジョンと断言されたら諦めもつく。

 期待していなかったのに、お宝の宝庫と言われたのだから、頭を抱えるしかない。いい意味で。

 これから水海村ダンジョンはどうなるのだろうか?


TIPS

鯉登そよぎ(こいのぼり・そよぎ)

水海村の職員。担当はダンジョン。休日には冒険者としても活動している。

眼鏡をかけた真面目で知的そうな女性。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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