第3話「死神との日常・家での会話」
第2話「死神との日常・家での会話」
芽衣が家の扉を開けると、薄暗い部屋の中にいつもの静けさが漂っていた。電気をつけても、生活感のない空間が広がるだけだった。芽衣はカバンを下ろし、買ってきた夜ご飯を机に置く。
レイはそんな部屋を眺めながら、ふわりと浮き上がる。まるで重力がないかのように、リラックスした様子で宙に漂っていた。
レイ
「おいおい、お前……親はどこにいるんだ? こんな家に1人って、なんか変だろ。」
芽衣はレイの言葉に少し驚きつつも、気だるそうに答える。
芽衣
「……親はいるよ。一応、母親だけだけど。母子家庭なの。」
レイ
「母親だけか……じゃあ父親は?」
芽衣は黙り込んだ。少しの間、沈黙が流れた後、ぽつりと答える。
芽衣
「幼いときに、事故で亡くなったの。」
レイは眉をひそめ、短く呟いた。
レイ
「そうか……それは災難だったな。」
芽衣は何も言わずにコンビニで買ったパンを開け、黙々と食べ始めた。レイは宙に浮いたまま部屋の中を見渡す。
レイ
「……にしても、何もない家だな。殺風景っていうか、生活感がほとんどないじゃねえか。」
芽衣はレイの指摘に少しだけ苦笑いを浮かべた。
芽衣
「……お母さん、仕事ばっかりしてるからね。家にいる時間なんてほとんどないの。だから、こういう感じになっちゃうんだよ。」
レイ
「ほーん……でもさ、お前1人でこんな家にいるのって退屈じゃないのか? 娯楽もなさそうだし。」
芽衣はパンを一口噛みながら、しばらく考えるように目を伏せた。やがて、小さな声で答える。
芽衣
「……退屈とか、そういうの考えたことないかな。ただ、帰って寝るだけ。朝になったら学校に行く。それの繰り返し。」
レイ
「そりゃまたつまんねえ人生だな。何かやりたいこととか、楽しみとかないのかよ?」
芽衣は少しだけ視線を上げ、レイを見た。その目には、どこか諦めの色が宿っている。
芽衣
「やりたいことなんて……わからない。小さい頃は、お父さんと一緒に遊ぶのが楽しかったけど……今は別に、何もない。」
レイ
「……ふーん。そうか。」
レイはしばらく宙に浮いたまま無言になり、再び部屋を見回す。
レイ
「それにしても、お前んち、テレビもねえのか? 本とか映画とか、そういうもので暇を潰したりもしないのか?」
芽衣は首を横に振りながら、少し笑って答えた。
芽衣
「……一応テレビはあるけど、ほとんど使わないかな。本もあんまり読まないし……。私、家にいても何かするってことがないんだよね。」
レイ
「それでよく今まで生きてこれたな。俺なら3日で飽きるぞ、こんな生活。」
芽衣はパンを食べ終えると、ペットボトルのお茶を開けて一口飲んだ。その後、ふっと力を抜いたように言った。
芽衣
「……慣れればこんなものだよ。別に期待もしないし、誰かに頼ることもない。そうすれば、傷つくこともないから。」
レイは芽衣の言葉を聞いて、一瞬眉をひそめる。だが、それを隠すように軽く笑った。
レイ
「お前、妙に達観してんな。高校生らしくねえっていうか……ま、いいか。けどさ、少しは楽しいことでも見つけろよ。どうせ半年間は生きるって約束したんだろ?」
芽衣
「……それができたら、苦労しないよ。」
芽衣の言葉には重みがあり、レイは少し黙り込む。それでも彼は宙を漂いながら、ふっと笑みを浮かべて言った。
レイ
「まあ、これからは俺がいるから、少しは退屈しなくなるかもな。お前の生き様を見てやるんだから、せいぜい面白いもんを見せろよ。」
芽衣は思わず苦笑しながら、ぽつりと呟いた。
芽衣
「死神に面白いって思わせるのって、なんだかプレッシャーだな……」
そんな会話をしながら、芽衣は少しだけ胸の奥に温かいものを感じていた。それは、長い間味わったことのない「誰かといる安心感」だった。