第二話「よくあるシチュエーション」
「う? ううん……」
なんだ? 体中が痛い。前進筋肉痛のようだ。
「……あれ?」
それになんだ? ベッドの感触がしない。これは、葉っぱか? 土の柔らかさだ。それに日差しを感じるが……。
「な、なんだこしゃぁぁっ!!??」
そして、目を開けてみれば見たことがない草原が広がっている。人工物は一切見えず、自然のままと言った印象を感じさせる。
「確か俺は家で寝ていたはずなんだが……」
どう見ても俺の家ではないし何なら俺が来たことがある場所でもない。完全に未知の場所だ。それになんで俺はこんなところに居るんだ? 周りを見回してみても俺以外に誰かがいるわけではなく、荷物なんかもない。誘拐、という線は薄いと考えていいだろう。だが、そうなると一体なんだという話になるがこればっかりは分からない。まさか今はやりの異世界転生でもしたわけではあるまいし。
「とにかくこの場にいてもしょうがない。どこか人里を探さないと……ん?」
ふと、俺の耳に聞き慣れた羽音音が聞こえてくる。それと同時に誰かが走ってくる音も。あたりを見回してみればちょうど俺の右後ろに森が広がっており、そこから何かが近づいてきているようだ。
「……っ!!」
「っ!??」
「なっ!?」
そして、ついに現れたそいつらを見て俺は固まってしまった。飛び出してきたのは4人。人間3人に、ケモ耳が生えた女が1人。……そう、ケモ耳だ。それもつけ耳とは思えない程リアルなケモ耳だ。よく見れば人間の方も女性1人の耳が長い。所謂エルフ耳というやつだ。
しかし、これはいったいどういう事なんだ? こいつらの服装は軽そうな胸当てや剣、魔法使いっぽいローブに杖等RPGでよく見かける装備をしている。コスプレ、というには違和感が感じられない。本当にこれが普段着だと言わんばかりのフィット感だ。つまり、ここはそういう事なのだろう。
「□〇▽!!」
「ー|~!!」
「____???」
何やら俺を見てひとりの男が険しい顔で俺に剣を突き付けてくる。よくよく見れば獣人の女の子以外全員がこちらをにらみつけている。はて、俺は何もしていないのだが……。
「な、なんだよ! 俺は何もしていないぞ!」
「△〇〇□!!!!」
「~~==||||!!!!」
「_、_____」
悲しいかな。彼らの言葉は何を言っているのか聞き取れない。そのせいかついには剣を振り上げるところまできた。……いやマジでやばいって! 俺何もしてないのに!
「ひ! な、なんだよ! 俺何もしてないだろ!!」
そう必死に叫び、逃げようとするが俺の体は思うように動いてくれない。パニックのあまり腰が引けてしまったのかもしれない。とにかく、このままでは俺は剣に切り裂かれて短い一生に終止符を打つこととなるだろう。それだけは避けねばならない。
「くそっ! 誰か! 誰でもいい! 助けてくれ!!!」
俺は力の限りそう叫んでいた。だが、その言葉に反応は、なく。
ブブ……
いや。
ブブブ……
反応はあったのだ。
「~~----!!!!」
「□!!!」
それは突如として現れた。こいつらがやってきた森の方より大量の羽音をはためかせたそいつらが空を覆わんばかりに飛び出してきたのだ。
黒い胴体。黒と黄の縞々をした尻尾。黄色い胴体。そして、人間を軽く超える巨体。大きさ以外は俺が慣れ親しんだオオスズメバチの姿はそこにはあったのである。それも数は10を軽く超えている。
オオスズメバチの襲来に気づいた男たちがそちらに意識を向けた。そして剣を構え、魔法らしきものを発射しようと準備を開始した。
……しかし。
「〇!!??」
「ーーー!!!」
「||||!!??」
「_____!!!!」
オオスズメバチ達はそれを察知してか尻尾の毒針を勢いよく発射したのだ。オオスズメバチの毒針は時速40キロで飛んでいくが今回のは明らかにそれよりも早い、まるで弾丸のようだった。それが一斉に発射された事で決着は一瞬でついてしまった。
剣を持った戦士風の男は頭部を一撃で持っていかれ、魔法使いらしきエルフの女性は腕や腹部に刺さって動けなくなっている。獣人の女の子も肩に喰らったようで蹲っている。最後の一人、武闘家らしき男は残りの針を全て受けて絶命している。
あまりにも一瞬の出来事に俺は何もできず、その光景を呆然と見ている事しかできなかった。不幸中の幸いなのか俺に針が刺さる事はなかったがあんなのを喰らったら俺は即死してしまうかもしれない。
そして、オオスズメバチ達は人間が動かなくなったのを確認すると1匹ずつおりてきて捕まえていく。ああ、これは得物として巣に運ばれるのだろう。そうなれば運命は蜂の、子の……。
あまりにも最悪な予想をした上に一匹の蜂がこちらに近づいてくるのを見た俺はついに耐え切れなくなり、その場で気絶をしてしまうのだった。願わくば、これら全てが夢の中の出来事であってくれ。いきなり蜂の餌なんてまっぴらごめんだからな。