第一話「とある養蜂家の話」
俺は昔から特殊な体質を持っていた。一体どうしてそうなっているのかは分からないが何故か蜂に好かれる体質のようだ。それもミツバチだろうとスズメバチだろうと関係なく、全ての蜂に。
この体質が分かったのは5歳の時だ。なんとうちの実家でオオスズメバチの巣が出来たのだ。しかも後から知ったが3年物の巨大な巣で今まで見つからなかったうえに被害が出なかったのが奇跡という場所だったらしい。
そして、俺が巣に近づくといきなりオオスズメバチの大群が飛び出してきたらしい。突然の事に親はパニックになったが俺はのほほんとしていたようであっという間にオオスズメバチに囲まれびっしりと張り付かれたらしい。しかし、不思議な事にオオスズメバチは襲うつもりはないようで親がはがすまでずっと俺にへばりつくだけだったらしい。
次はなんと日本ミツバチが現れて家の近くに巣を作ったのだ。ミツバチ達は犬が舐めるように近づくたびに俺にじゃれてきたようだ。そのころになると親も俺の異常性に気が付いて何度か病院にも行ったらしいが結局分からずじまいだったようだ。医者曰く「蜂が好むフェロモンでも出してるんじゃないですかねぇ?」との事らしい。
そんなわけで俺の人生には常に蜂が近くにいる事が多かった。凄い時には野生のミツバチが蜜をくれたことさえある。蜂にそんな知能はないはずなのにだ。
だが、俺はそれを生かして養蜂家になる事にした。実家をリフォームし、いろんなミツバチを住まわせたのだ。そのころになると蜂たちは俺のいう事を素直に聞いてくれるくらいにはなっており、俺も自分の特異性を受け入れる事が出来ていた。幼少期には蜂人間と気味悪がられて友達なんて出来なかったからな。
だが、養蜂家として俺は大成功を収める事が出来た。何しろミツバチ達は一番うまい蜜をくれるのだ。更にオオスズメバチは俺が言えば絶対にミツバチを襲わず、護衛のようにミツバチを狙う虫たちを追い払ってくれる。幼少期からある巣はかなりのでかさになって今も健在で一部がミツバチの巣とつながっている。俺以外の誰が見ても異常な光景だが俺にとっては見慣れた風景だ。
養蜂家として活動して早10年。今では俺が売る蜂蜜はブランド品にまで上り詰め、注文が殺到する人気商品となっている。たまにテレビ局の取材が入るが流石にこの光景を見せるわけにはいかないので断ってはいるがな。
「今日もいつも通りの日だった」
最近はこの穏やかな生活に物足りなさを感じるくらいには充実した毎日を送っている。本当なら彼女でも見つけて子供を作った方が良いのかもしれないがこんな俺を受け入れてくれるかは怪しいし、何より下手に広まって解剖行きとかはごめんだ。ならば一生独身貴族でいる方が自分の為になるだろう。
「……ああ、だけどどうせなら一度は恋愛をしてみたかったなぁ」
俺はそんなことを呟きながら眠りにつくのだった。
【……その願い、叶えましょう】