9 フック船長が小さく叫ぶ
フック船長は、食後に飲むクジラのミルク入りのカフェオレを飲みながら聞いていたが、コップを置いた。
そして、テーブルを囲む一人ひとりの目を、あの左手を失くした晩と同じ光る目で、じっと見すえる。ついに、フック船長は、最後の一人の視線をはねかえした。
その眼光は、海と陸の間にあたらしい世界を打ち立ててきた男の特別な力だった。海賊たちが、憧れて、愛してやまない力でもある。
海賊たちは、ゆるく長い溜息をつく。今日も、フック船長のその壁を切り崩すことはできなかった。
けれど、海賊たちは、落胆と同時に、船長の特別な力が以前よりも弱まっていることを感じてもいた。
フック船長は、傍らの小瓶を見た。
小瓶の中では、ピンクの小魚が花びらのように沈んでいる。
フック船長が小さく叫ぶ。
「あれ、くまのみ」
海賊たちは、一斉に悲鳴をあげた。
「ピンくまちゃん!!!」
「まったくもう船長、何したんですか!」
「このままじゃ死んじゃうよ」
「だいたい、食事どきには、おもちゃを部屋においてきてください。」
「どうしよう!?」
「新しい水を!」
小さな恋のお守りが、いまや海賊たちにとって重要な意味をもっている。この船の運命はこの小魚とともにあるように思えた。
机の隅に置かれた小瓶の中のリボン。リボンは、皿の上でぴくぴく動く蛸の足を見て、気を失いかけたのだった。瓶の中は、海よりも寒い。リボンは、ぐったりと底に横たわっていた。
その頃、ワニコとモネはー