8 「だとしたらどうする?」
「ピーターって、俺たちと似ているところありますもんね。」
フック船長は、彼の青い瞳をまっすぐ見て、あえて訊いた。
「どこが?」
「海賊になる前の我々の、子ども時代とですよ。目的もない、親もない、勇気もない、強い奴に牙だけむいてればいいと思っている子ども。違いますか?」
「知らないなあ。」
フック船長は、はぐらかすが、ポロ選手はあきらめなかった。一度、唾をのみこみ、言葉を声にする。今こそすべての膿みをだしきる覚悟だった。
「船長、まさか、ピーターを仲間にしようなんて思っていませんよね?」
フック船長は、待ち受けていたように言った。
「だとしたらどうする?」
海賊たちが、一斉に騒ぎだした。
赤毛が叫ぶ。
「あいつとは、絶対に仲好くできねえし」
黒猫も言う。
「女ったらしだし」
ブラウン管のアイドルたちも。
「自分勝手で残酷すぎる」
「島から出たことないんだぜ。視野狭すぎ。」
「海賊になる素質ないでしょ」
やだやだやだやだ、あーだこーだあーだこーだ、みいみい、やだやだやだやだ。
フック船長は、海賊たちの、いちいち的をえた言葉を聞きながら、別のことを考えていた。
「この瓶をピーターにあげたいなあ」
ポロ選手が、立ちあがり、上の空の船長につきつけるように言った。
「船長、この島を離れませんか。潮時だと思うんです。もっとはっきり言えば、俺たちは、船長をピーターにとられそうで怖いんです。」
いつからだろうか?フック船長の側に、海賊たちの思いをはねかえす壁ができたのは。それまで師匠のように兄のようにフック船長を慕ってきた海賊たちの踏み込めない領域が、船長の中に生まれている。
ピーターのこと以外にもあった。例えば、腕の先。今も、片手だけで器用に食べて見せているフック船長の、あの不格好な鉤爪のこともそうだった。
フック船長が、左手を失くした夜。船長が、食事のテーブルにあらわれた時の恐ろしさを海賊たちは忘れられなかった。
フック船長は、ディナーに少し遅れて微笑みながらあらわれ、席に座ると、無駄なことは喋らず、姿勢を正しくしたまま、一皿綺麗に食べ終わった。片手だけで。
その笑顔だけで、同じテーブルについた誰もが、不用意に口を開いたら殺される、とわかった。
だから、あの時いろんな思いを飲み込んだ。
「どうして片手がないの?」
「何があったの?」
「なぜ不細工な鈎針をつけるの?」
「どうして?」
「どうして?」
「どうして?」
だから今、海賊たちは、持てる限りの勇気をもって、力を合わせてフック船長の柔らかい壁に切り込んだのだ。