7 わかった、昼食にしよう。食べながら話すから。
「お前ら、文句言いにきたんじゃん。」
フック船長は、うんざりしたように言った。
「はいそうですよ。みんなこの島から離れたいっていう気持ちですから。」
双子の一人が、あっけらかんとみんなの代表として言う。
もう一人の双子は、「あれ?」と何かに気づいて、ポロ選手に訊いた。
「あいつはどうした?」
「またいないみたいね」
ポロ選手は、にっこり笑って答える。双子が言った。
「ちゃんと監督しとけよ、後輩を。」
「それは無理。彼は詩人だもの。」
ポロ選手はまた、にっこり笑う。双子は、「とにかく」と言って続けた。
「もう、俺たちやなんですよ。」
みんなお茶らけているようで真剣だ。しかしフック船長は、首をたてに振るかわりに、元アイドル三人組から取り返した小瓶を、右手で握りしめて、言う。
「わかった、昼食にしよう。食べながら話すから。」
扉のそばのかぐや姫が、廊下の先をみて細い顎をあげた。向こうから、少し怒り気味の料理長が、海賊たちを呼びに来ていた。
フック船長の号令で、海賊達は席につく。
食堂がいっぱいになる大きさの丸テーブル。
四十人近くいる海賊ファミリーにはちょうどいい大きさだった。
ピーターとの戦いで焼け落ちた天井のかわりに、大空が海賊たちをおおう。そしてそんなことは誰も気にしていない。大胆にして優雅な食事のはじまりだ。
船長の右手のそばには、あの小瓶が置かれている。並んだカツオの活け造りをみて、小瓶の中のリボンは気を失いかけた。
料理長が、トマトとかつおの和風グラタンと、かきと小松菜のクリーム煮を運んできた。
「これは船長の。」
そういって、フック船長の前に、どんと皿をおく。海賊たちは一斉に言った。
「えーー。」
フック船長自身も心外だ、という顔をして料理長を見た。
料理長は、しかし、構わず海賊たちに言った。
「船長は手が不自由だ。お前らの食い意地とまともに張り合ってたら痩せちまう。」
フック船長は言った。
「大丈夫だけど、俺。」
船長だからといって食事で特別扱いしろと命じたことは一度もないし、そんなに気を使われるほど弱々しくなっているつもりもなかった。
しかし料理長は言い放つ。
「そういうことは、もっと太ってから言うんだな。最近痩せたんだよあんた。」
この船の乗組員は、事情があって地上にいられなくなり、海に居場所を求めた者ばかりで、根っからの海賊は少ない。唯一、料理長だけが、海に生まれ海で育った海賊だった。数多くの船に乗り込み、妥協のない料理をだし、味のわからない奴は誰であろうと見下しながら、船を渡り歩き、フック船長の船に辿りついて初めて腰をすえた。
「みいみい」
ひときわ体の大きい、角刈りの、眉毛の太い男が、船長にごはんをとられたと泣きだした。いつもお腹がすいているのだ。両隣の年下の海賊たちが頭を撫でている。
双子たちが、気まずい沈黙を打ち破って言った。船長が抱え込んで痩せるほど悩んでる秘密を、白日の下にさらすタイミングだと思った。
話し合うタイミングはもうないかもしれないから。
「船長、ほんとうはけっこう、ピーターのこと気にいっているんでしょう?」
双子の隣に座っていた、黒猫みたいな彼が震える声で、
「先輩、まずくないですかそれ。いくら食べ物のうらみでも…」
と言って止めようとする。けれども、テーブルの反対側でも声があがった。ポロ選手だった。彼は、銀のナイフとフォークを静かにおいて言う。