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HANDle my love  作者: 宍井智晶
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6 「あ、船長、独り占めしてる!」

 「あ、船長、独り占めしてる!俺らが捕まえたピンくま!」


 ポロ選手の背後から現れた、三人組の海賊たちが、フック船長からピンくまの入っている小瓶をとりあげた。

 彼らは、かわるがわる手にとり、小さな万華鏡を覗くようにして、はしゃぎだす。


 瓶のわずかな水が、激しく揺れた。瓶の中の小魚リボンはうめいた。「うぅー」

 水中で酔うなんてピンくまのリボンにとっては初体験だった。



 三人組の海賊は、口々に言った。

 「可愛いなあ。」

 「あっ今、口をぱくぱくってして、お尻をふりふりってした。」

 そう言うと、なりきって実演してみる三人組。その場で、簡単な振り付けを作って小さなダンスを踊ってみせる。

 彼らは、もともとブラウン管に映るアイドルだった。

 「ちがう、もっとこうだろ。」

 「こっちのほうがよくない?」

 海賊船の中には、彼らにダンスを教わっているものがたくさんいた。いつの間にか元アイドルたちのダンスの輪は大きくなっていく。

 リボンは「苦しいんだってば!」と叫ぶが、外には聞こえない。

 「あ、またパクパクして、手をヒラヒラしたぞ。かわいい。」

 と熱心に真似されるばかり。


 小さな熊のぬいぐるみ(みたいな海賊)が彼らのダンスの輪に入ろうとして、一緒にいた赤毛の海賊に腕を強くつかまれ、ひき止められる。


 元アイドル三人組は、ステップをふむのをやめて振り向くと、フック船長に真顔で言った。

 「次の港に、いつ出発するんですか」

 なんで?とフック船長は言う。答えを避けるため、白々しい質問を返した。

 「港で思うぞんぶん踊りたいなって」

 「船せますぎるし」



 「さんせーーーーえ」

 さっきからダンスの輪に入らずにいる赤毛の海賊が、あごをしゃくりあげ、フック船長をにらみながら言う。

 彼はいつもスプレーで赤毛を逆立てて、一日に何度も「いつかぜったいフックを超えてやる」と言っていた。熊のぬいぐるみを抱きながら。

 「いつから、タイクツなせんこうみたいになったんすかマジで」

 赤毛に抱かれている熊のぬいぐるみ(みたいな海賊)も足をばたばたさせる。

 ふたりは、同じ施設で育ち、そこを抜けだして一緒に海賊船に乗り込んできた幼なじみだ。



 緊迫しつつある空気の中、

 「もっと恋したくない?」

 双子の背後から、するりとみんなの前に出てきた海賊が言いだした。

 双子とよくにた夜の街をふらつく不良のような雰囲気をもつ、もっと若い彼は、黒猫みたいに目を光らせて言う。

 双子の一人があきれたように言った。

 「おまえだけは、やめとけ。どれだけ女で失敗したら気がすむんだ?」

 黒猫は、双子に向かって「だって」と言って、続けた。

 「だって先輩、この島はひど過ぎですよ。人魚か、超気が強いインディアンの娘か、ガキか、ムカつくピーター・パンしかいない島なんて。」

 ネオンの街で働いていた黒猫は、トラブルに巻き込まれ、はじき出され、港で殺されるのを待っていたのを、双子達に拾われたのだった。


 彼は、フック船長に同意を求めた。

 「船長だって、そう思いますよね?俺らとあんまり年が変わらないんだから。」


 けれど、船長の視線は遠く、部屋の扉の向こう、を泳いでいる。

 部屋の入口のところには、一人の海賊が立っていた。かぐや姫みたいに、長い長いまっすぐな黒い髪をした海賊だった。

 すっとした体を、開いたままの扉にもたれかけて、うつむいている。入ってくるわけでも出ていくわけでも、笑うわけでも睨むわけでもなかった。


 えたいの知れないこの感じは、本当に異星人なのかもしれない、とフック船長は思っていた。フック船長は、まだ一度も、彼と直接話したことがない。それは仲間を大切にするフック船長にとって、珍しいことだった。


 最近は、得体の知れない悩みにとりつかれていて、仲間への関心が薄くなっているとはいえ。

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