5 輝く金色の鈎針
ちょうどその頃、海賊船の中では─
輝く金色の鈎針が、小瓶の頭のコルクをひっかけて宙吊りにしている。
小瓶の中には、ピンク色の花びらが浮かんでいた。それが、小魚モネの恋人、リボンである。
フック船長は、大きな目でリボンをじっと見つめていた。フック船長の瞳の星が、硝子の中で揺れる水に映る。
「ちょっともう、まぶしい」
とリボンは思った。透明の壁の中は明るすぎて、息苦しい。
船長の右手は、なめらかな細いあごの下にある。もう片方の腕は、机上に無造作に投げだされ、手首から先がザックリと無かった。左手のかわりについているのは、猫の頭くらいの大きさの鈎針だ。
長いそでの下に隠れながら、華やかに光る、金色の、尖端。
フック船長が針先で小瓶を揺らした。ぐらんぐらん。そのたび、恋を叶える伝説の魚は「ちょっと、やー」と小さな悲鳴をあげる。けれど、その声は誰にも届かなかった。
船長室の外では、早朝から、金槌とドリルの音が鳴り響いている。海賊船は目下、大修理中である。今、船はピーター・パンというネバーランド島にすむ少年との戦いの最中にあった。
フック船長は、眠くて目を閉じた。最近よく眠れないのだ。
船長室の扉がノックされる音がする。
「俺らです」
フック船長には、それが誰の声なのかすぐにわかった。
「あうん、なに」
最近では、こういう時に返事をするのも珍しくなっていた。返事をしたのは、フック船長がいまきた彼らに特別の信頼をおいているからだ。
船長室の扉が開き、三人の海賊が工事の轟音と一緒に部屋に入ってくる。
海賊の一人は、ゆきとどいた格好をした、金髪の少年だ。海賊というよりも、ボーイスカウトか、ポロの選手か、狐狩りにいく貴族のように見える。
あとの二人もまた、同じくらいの歳の少年だった。ただしこちらは、浅黒い肌に日焼けして茶色っぽくなった髪、足首には刺青、めちゃくちゃに着崩した高価な黒服。二人は双子のようによく似ている。
彼らの容貌からもわかるように、フック船長の海賊船には、さまざまな経緯で人が集まっているのだ。
双子が入って来たのに続き、
「しつれいします」
ポロ選手が部屋に入ってくる。
「船長、いいっすか?」
双子の一人が聞いてきた。フック船長が、
「うん、なにが?」
と言うのを待たずに、彼は、
「はいっていいって」
と扉の背後に向って声をかける。彼が手まねきすると、大勢の海賊たちが部屋になだれこんできた。