3 「見ればわかるだろ。」
そう、ふつう、くまのみは恋人といつも一緒にいる魚。夜はイソギンチャクのベッドで折り重なって眠る。素敵だろう。だけど今は、
「見ればわかるだろ。」
一撃をまともにくらった僕は、涙がこぼれないように、わざと怒って言った。
「恋人は持って行かれちゃったんだ。」
あの日、小さな珊瑚礁に海賊があらわれた。
イソギンチャクや岩の中まで、のぞきこみ、ひっかきまわした。
白い埃をまきあげた。
そして、僕の恋人のリボンだけを連れ去っていった。
リボンは海賊の手の中に閉じこめられ、僕は、その指に喰いついたけれど、小さな隙間さえつくることができなかった。
海賊たちの乗り込んだ小船には、海賊フック船長の旗印が揺れていた。大きな影になって。
「僕は、恋人を守れなかったから、だからここにこうしているんじゃんか。」
リボンに会いたいなあ、そう思ったら悔しくて泣けてくる。
「リボンに会いたいなあ。」
いつも心にあった言葉を口に出してみたら、涙がでてきた。
「だけど、ほら、追いかけてきたフック船長の船はどんどん遠ざかっていくよ。そして、僕はあんたに食べられてもうすぐ死ぬんだよ。お・わ・り、だよね。」
ワニコはしばらく黙っていた。何を考えているのか、相変わらずよくわからない。
薄く開いた口は、何か言いたそうにも、にたにた笑っているようにも見えた。
僕が涙をこらえるのに必死になっていると、ワニコからやっと言葉が返ってきた。
「モネ、背中に乗れよ。俺もフック船長の船をおいかけてる。」
あっという間だった。ワニコは、そう言うと、太い尻尾で僕の体を引き寄せ、ふんわりと背中に乗せる。そして、フック船長の船に向かって、力強く滑らかに泳ぎだした。
ワニコの考えていることはまだよくわからないけれど、ただの意地悪で怖いワニではないみたいだと思った。僕を背中に乗せるときとても優しかったから。
僕は言った。
「どういうこと?」
「なにが」
「フック船長の船をおいかけているって。」
僕はまた調子に乗ってききだす。
ワニが、アマゾンの河から海へひとりで出てくるほどの理由は何だろう?と思った。けれど、ワニコは僕の質問を無視して言う。
「おまえはいいな。わかりやすくて。」
「どういうこと?」
僕がきくと、ワニコは
「ほめているんだ」
と、しみじみと言う。そして、
「愛し合ってる恋人がいる、恋人を助けに行く、だからここにいる。わかりやすい。」
とワニコは言った。そして、
「人のことを知りたいなら、まず自分のことを話せ。」
と、言った。ワニコは自分のことをはぐらかしたれど、怒られるよりいいかな。
「知ってる?ピンクくまのみの話。」
僕は、話し始めた。