28.着岸する、なんとしても。
やっと出てきたよ!
地図にないネバーランドへ、方位磁針の代わりに、子ども達の“勘”だけを信じて航海する。
子ども達が、「あの星」と指差す方へ、舵をとる。とり続ける。信じ続けて。
遥かな、静かな海。
水平線に突起は現れないまま、太陽は幾度も沈んでいった。
ある時、海賊たちは、目指す星の光が変化していることに気づく。
強く大きく、ますます白く。
船が近づいていくと、星は、ひょいとかわすように揺れ、にじむように消えた。
あれ、と思って望遠鏡をのぞいた海賊、黒猫、は、驚いて叫ぶ。
「船長、あれ人です」
なんだって、と隣のレオの首の望遠鏡を奪い、自分もそれをのぞくフック船長。
見えたのは、空を飛ぶ影だった。
それが、ぐんぐん近づいてきて、男か女か、大人か子供か、曖昧な人影になり、
凝視している間に、少年らしい手足と首筋が、くっきりと現れ、
風の中で、真っ黒い髪がなびき、真っ黒い目が光り、薄い唇の端があがり、
すんっ
という音がして、フックが望遠鏡を外したら、目の前に、いた。
空から、船の欄干に降り立った少年は、望遠鏡で眺めたのと同じ顔をして、こちらにウィンクを飛ばしてくる。
「なんなんだお前は」
フック船長が、できるだけ冷静に、と思いながら問うと、
船長の背後から走り出てきた子ども達が、彼の名前を呼んだ。
「ピーター・パン!」
「おまえが、ピーター・パンなのか?」
空から降りてきた少年は、船の縁にたち、見渡して言う。
「大きな船だな。よく浮くなあ。」
そして、駆け寄ってくる子ども達に、あっというまに囲まれた。目をきらきらさせた子ども達の腕が彼の体にからみつく。
「ピーター・パン、迎えにきてくれたんだね!!」
ピーターは子ども達をみて、驚いて言った。
「あれ、おまえたち何してんの、こんなところで!すげ-な!この船、おまえたちの船だったのか」
子どもたちは口々に言う。
「うん、そうだよ。ピーター、遊ぼうよ」
フックは言った。
「ちがう-!(俺の船だ)」
ピーターは、今までのところ、フック船長の言葉をすべて無視している。
「いいよ、なにやる?あれやる?」
「あれやろ-!」
「じゃあ、早くネバーランドへ行こうぜ」
そう言うと、ピーターは、船の縁から後向きに、ちょちょっと飛び降りた。
そして、舳先に取りつく。
むぐぐぐぐぅ。
ピーターは背中をまるめて、力の限り、船をひっぱっり始める。
舳先の飾りが、ばきっと音をたてて取れそうになった。
「何するんだー」
と海賊たちはおもう。やばいことになりそうな気がしてたまらない。
…まさか…とフック船長が思ったとき、船はぐぅっと動きだした。
風や波を無視して、船は、そのまま直線に加速。
海賊たちはおののいて言う。
「船長、このままだと、浅瀬にぶつかり座礁します!」
そして涙声で、
「船長、先端のぶっ飛んでる奴、殺していー?」
と悲鳴をあげる。
まて、と言うと、フックは、舳先の欄干に飛び乗り、海に突き出た梁を走って、ピーターの真上に立った。(真下の海が怖くて震えがくる)
「そこのきみ!!」
フック船長は、無視される。
フック船長は、辛抱強く、もう一度言う。
「ピーター・パン殿。俺の話を聞け。五秒だけでもいい。」
ピーターは顔を上げる。フック船長と目があった。フック船長はすかさず言う。
望遠鏡で、少年の背後の海の彼方をさし、
「海の色をよくみろ、薄いところは底が浅い。このままじゃ座礁しちまう。」
「ざしょー?」
「壊れるんだよ、船が」
「もったいないかも」
「そうだ、だから!」
「どうすればいい?」
フックは、これ以上ないくらい明確な言葉を、ピーターに伝える。
「今すぐ船を右に寄せろ」
「みぎ?」
「ちがう、俺からみて右、あんたからみて左、」
「?」
「こっち!」
フックは、右手を大きくふりかざした。
ああ、とピーターはいって、体重を左へ傾けた。船もぐらん、と揺れる。
「右へ!」
「左」
「もっかい左へ」
ネバーランドの沿岸は、ベニス港のあるアドリア海みたいに入り組み、まるで、迷路のようだった。
少しでも気を抜けば、船底に穴があき、水が、鰐が、浸みこんでくるだろう。
必ず死ぬだろう。
「おもしろいな。次は?」
「すぐ左!!」
フック船長は叫ぶ。
着岸する、なんとしても。
しばらく、間があいてしまって、すみませんでした。
ここまで読んでくださっているかた、もしいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます!!