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HANDle my love  作者: 宍井智晶
27/36

27.「ネバーランドにかえして。」

 「船長、はやく!」

 レオが、海賊船から叫ぶ。


 「ワ・・・」

 船長は、船と地面の間を見つめながら、つぶやいた。


 「ワ?船長、ワってなんですか」

 レオが叫んでいる。

 フック船長は思う。

 ワニがいる気がする。この暗い亀裂のあの隅に。


 「船長、いったい、どうしたんですか!」

 フックは、両腕を広げ手のひらを天に向け、

 「ワ・・・わーお。」

 と言った。

 「は?!ふざけてる場合とちがいますよ」

 その時、世界を揺さぶる衝撃があり、フック船長は頭蓋をこん棒で撲られた。頭をおさえて屈むと、血がべっとりと手についた。


 海賊たちの悲鳴があがる。

 「フック船長!」

 船から飛び降りて迎えにきたレオが、フックを抱えて飛んだ。

 フックの血も、弧をえがいて宙を舞う。

 その背後で、敵船は大渦に飲みこまれていった。



 「安静に!」

 料理長から言い渡され、寝室に閉じ込められたフック船長は落ちこんでいた(医食同源ゆえ、この船では料理長が医者も兼ねる)。

 結局、仲間の往復運動に助けられたのか。

 船長なのに、人の足を引っ張ったなんて。


 だが、おちこんでもいられない。

 部屋を一歩出ると、海賊船は子どもの公園と化していた(船長は、医者のいうことはあまり聞かないタイプ)。


 フックは子どもたちにすぐさま発見され、取り囲まれる。

 子どもは、こちらの都合などおかまいなく騒ぎ立てるいきもの。

 赤いベルベットのジャケットを引っ張られた。

 「船長、その服貸して」

 「なんで」 

 「船長、遊ぼう」

 「やだ」

 「船長、どこいくの?」

 「トイレ」

 子どもたち爆笑。

 トイレだってートイレだってート・イ・レ♪トーイーレッ♪

 

 何がおかしいというんだ。

 歌うな。

 俺だってトイレくらい行く。いかせろ。

 もううんざり。


 そうこうしている間に、子どもたちの勢いに押されて、身動きできないまま、いっきに船のへりまで追い詰められるフック船長。

 気づけば背後は、何も無い。海だけ。

 

 「全員、白線の内側を歩け!」

 フック船長が怒ると、子ども達は蜘蛛の子をまき散らすように逃げていった。

 あとには、肩で息をする船長だけが残される。



 臓器密輸船で助けた子どもたちのほとんどは、「お母さんに会いたい」と、国に帰っていった。

 だが、一部の子どもだけは、泣きながらそれを拒否して、船に残っている。

 彼らは、綺麗な英国語で、海賊たちに訴えた。


 「ネバーランドにかえして。」

 どこだ、それは。

 フックの聞いたことのない地名だった。子どもたちは言った。

 「ピーター・パンのいるところだよ。」

 「ピーター・パン?」

 子どもたちは堰を切ったように口々に言い出した。

 ピーター・パンは魔法の粉で、空を飛ぶんだ。

 僕らはロンドン塔まで一緒に飛んだ。高く高く。

 ピーター・パンは人魚と仲良し。

 インディアンとも遊ぶ。

 妖精と暮らしている。

 帰るところなんてないことはわかっている、

 大人の足かせのように扱われるのはもう、いやなんだ、

 さびしかった僕らを迎えに来てくれた、ピーター・パンがいれば大丈夫なんだ。


 「だからネバーランドにかえして。」

 フックは思う。どんなスーパー保父さんだ?ピーター・パンってやつは。

 魔法の粉じゃなくて、怪しい粉なんじゃないか。

 でも、目の前の子どもたちは健康そのものだし、頭も悪くない。

 

 海を知り尽くしているはずの、自分の知らない島で

 子どもたちの心をとらえて話さないやつが、いるらしい。 

 

 しばらく考えたあと、子どもの言うことに懐疑的な海賊たちに向かって、フックは言った。


 「ネバーランドへ とり舵いっぱい」

 海賊達は驚愕して言う。

 「本気ですか」

 「会ってみたくなった、ピーター・パンってやつに。」

 子どもたちは飛び跳ね、歓声をあげ、フック船長に抱きついた。

 

 フック船長は、さっと会って、さっと帰ってくるつもりだったのだ。

 このときは。

ネバーランドにいくぜー!(やっと!)

ひゃっほう。


長いのに、ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ほんとうに感謝感謝です。

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