26 光る箱
少しぐろい表現があります。ご注意ください。
満月の夜。豪雨がすぐそこまで来ていた。
蛇のような形の黒い雲がとぐろを巻いて、何重にも空にふたをしている。
船に乗り移ったフックたちは、暗闇の中で戦った。
正確な敵数が把握できず、倒しても倒しても船の底からあふれてくる気がする。
そして敵は、何か訓練を受けてきたかのように強く、死ぬ時は機械のように無言で倒れていく。
敵の顔はみな同じように見え、妙に印象が薄かった。
そして、船の床には、足首を凍らせるような、冷気があふれ出していた。
こいつら何者だ、とフックは思う。
気味が悪い。
「フック船長、この扉の奥です!」
「スクラムで押せ!」
フック船長は仲間と肩を組み、いっせいに突っ込んで行った。扉は破られる。その奥の暗がりに、そびえたつ金庫があった。天井まで届く大きさで、ゴーゴー音をたてている。
「この船にしてはずいぶんでかい金庫じゃねえか。」
双子のひとりが、鉈を握りなおしながら、つぶやく。
この船全体の冷気は、この箱から流れ出てくるようだった。
海賊たちが、鉈で金庫の鍵を壊した。バネが飛ぶ音がして、ばくっと金庫が開く。
海賊達の全神経が、開かれた箱から漏れる光に集中する。
フックの見開いた目に映る、大小の瓶と、その中の・・・・・・
フックは言った。
「こいつは、金庫じゃない。冷蔵庫だ。」
光る箱のなかみを目の当たりにした海賊達は吐き気をもよおした。
金庫ならぬ箱の中には、きれいに瓶詰めされた人間の内臓が、目玉が、陳列されていたからだ。
煌々とした光に照らし出される、まるでまだ生きているかのようなそれら。
「臓器売買の船か。」
フックは、ちくしょう、といって冷蔵庫の扉を蹴り閉めた。
とたんにあたりは真っ暗になり、海賊たちはおちつきをとり戻す。
フック船長は、全体に向けて指示した。
いいか、写真を撮れ、
船のブラックボックスを回収しろ、
できる限りこの船の情報になるものを集めろ、
全部、この船の敵国に売り払ってやる!
そして、言った。
「船の底に捕まった子どもが閉じ込められてるはずだ。全員保護を最優先しろ。」
しばらくして、フック船長の部下が子ども達を発見。
同時に、船の左舷部が崩壊。自爆だった。
船は傾き、爆流がなだれ込み、ぐぐっと沈み始めた。
おそらく、この臓器売買の船にはバックについている組織がある。フックが秘密に触れた以上、彼らは船ごと証拠隠滅する気だった。
「おまえらあほか。自分らの船、自分らで沈めるなんて。」
船員達は、全く攻撃を緩めない。兵器のように攻撃を続ける。
「生きる気がないなら、おとなしく死ねよ!誰のためにこんなことしてるんだよ!」
海賊達は、子どもが海賊船に乗り移るのを援護するため、敵の波状攻撃をくい止める壁になった。
フックはその先頭に立つ。
敵はじりじりと、たゆまず前進。
顔前まできた。
「船長、限界っす」
「子どもたちは?」
「今、全員乗り終えました!」
背後で待機している海賊船から味方が叫ぶ。
その報告を受けて、仲間は船から船へ飛び移ていった。
次々と海賊船へ帰る仲間達。
フックは残り、ロボット船員をクラッシュし続けた。そして、最後にふり返る。
「今いく」
ふり返って気づいた。
こちらの船のへりと、海賊船のへり。その間にあるのは氷河雪渓のクレバスか。
裂け目には、ほの暗い水がたゆたっていた。
水際にそろえた足が微かに震えた。味方が彼方で叫ぶ。
「船長、はやく!」