25.ワニの着ぐるみ
ワニコは口を大きく開けて、僕を吸い込んだ。
シッポを一振りすると、船のエンジン・プロペラの中に、つっこんでいく。
ワニの着ぐるみを着たカクレクマノミになった僕は、ヤケ気味にいろいろなものを諦めた。そして、少し凶暴なワニみたいな気持ちになる。
ワニコと僕は、エンジン動力部の配管迷路を次々とクリアしていった。金属管を伝わって、どこかから声が聞こえてくる。男二人の声だ。誰だろう。
「フック船長と、もう一人は、たぶんピーター・パンだな。」
ワニコはそう言うと、早足で奥へと進む。僕には、ワニコの心臓がどきどきしているのがわかった。鰐の舌に乗っている身の僕は、今、ワニコと一心同体だ。ワニコは言う。
「この船にピーター・パンが来るなんて。何かが起こりそうだ。」
僕は、ホンモノの二人を見られると思うと、少し楽しみになってきた。どんなヤツなのだろう。今までの強引な展開に食傷していたくせに、僕は嫌なことをすぐ忘れる。
「フック船長が追いかけているピーター・パンってどんなやつなの?」
ワニコは、ピーター・パンとフック船長の出会いについて話し始めた。
僕らの心臓の音は、高鳴っていく。
ワニに手を喰われて以来、だいぶたってもまだ、フック船長は、手を失った理由を誰にも話さないでいたそうだ。
自分でも、何がどうしてこうなってしまったのか、わけがわからなくて、言葉にならなかったからだろう。その代わりに、
「そうだ、船襲おう」
と宣言して、海賊たちをひっぱり、船を襲撃した。
強引に手のことを忘れさせようとするみたいに。
だが、船を潰すたび、フック船長の左手が無くなったことと、フックの調子が何かおかしいことは、噂となり広まっていった。
そして、最後のターゲットとなった奇妙奇天烈な船が、フックの曲がり始めた運命を決定付けたという。
満月の夜。豪雨がすぐそこまで来ていた。