2 怪物は、投げやりに答えた
怪物は、投げやりに答えた。
「はあ」
僕は、ルーレットを回すような気持ちでがむしゃらに言葉をつなげる。
こういう度胸だけは自慢できる僕だ。
「僕は魚のモネといいます。あなたは何ですか?」
「はあ?」
この質問は怪物の気に召さなかったみたいだった。怪物の口が裂けて、二倍の大きさになった。ちらと見えた牙が僕の目のまえにそびえ立った。
僕はまたコインを投げた。
「亀ですか?」
「ワニだ。」
鰐!鰐か!僕は興奮してきた。鰐に会うなど思いもしなかった。鰐は、アフリカの大河に仲間と大群で棲む生き物のはずだった。
「なんで海にいるの。海に何の用なの。」
今まで、そのその重量感たっぷりな尻尾は、だらんと垂れさがっていた。僕に何の興味もない印だった。だからこそ、いつその牙に串刺しにされてもおかしくなかった。
でも、今、その尻尾は持ち上げられ、はっきりと怒りを示している。
鰐は完全に怒っていた。僕が口を開くたび、ボルテージが上がっているようだ。
「仲間はいないの?ひとりなの?」
「なぜそんなことをきく。お前も一人のくせに。」
鰐は、突然の大声で僕を怒鳴りつける。鰐の声量のせいで僕は吹き飛ばされた。僕はいそいで泳いで戻ってきたが、何がなんだかわからなくなってしまった。
今の僕のあたりまえの質問に、こんなに怖く言い返す意味がわからない。
暗い暗いえたいの知れない森の中に、無邪気に踏みこみ過ぎたようで気が遠くなる。一人、と指摘したのが図星すぎたのだろうか?
僕はもう帰れないのかもしれない。
僕は言った。
「ごめんなさい。おじさん。」
「は?」
鰐の年齢など、どこで見分ければいいのかわからない。僕は言い直した。
「おにいさん…」
「俺は女だ。」
えええええええ、これには一番驚いた。やっぱり、本物に触れると想像を超えることがたくさんある。
鰐はさらに言った。
「名前はコーワニー・ラヴ。略してワニコだ。」
僕は、一生懸命言葉をさがして言った。
「可愛い名前でよかったね」
この言葉が、なぜかついに鰐の逆鱗、撃鉄、に触れる。
「お前、俺を怒らせたな。」
なぜだろう?ほめたのに。
鰐は、わざと心の底から意地悪な声をだして、僕の一番傷つくことを、傷つくタイミングで、一撃でしとめるためにだけ言った。
「おまえ、くまのみのくせに、ひとりなんだな。」