19 タイムオーバー
タイムオーバーだった。
それは気迫の差だった。レオが完勝した。
肩で息をするレオは、さっと顔をあげ、空を見る。
涙がこぼれないように。
起ちあがると、レオは、フック船長からもらった銃をとって頭にあてがった。
なんのためらいもなく。
そして、爆発音。
みんな耳をふさぎ目を閉じた。墜ちてきた闇に埋まり窒息する。
けれど、レオは立っていた。二本の足で。
心臓は、まだ、バスドラムみたいに鳴り響いている。
呆然と手のひらを見つめた。
指にざらつく金属の破片。
手の中には、砕けた銃があった。
レオが視線を感じて振り向くと、フック船長が狙ったままの姿勢で立っていた。
銃を弾き飛ばしたのはフックだった。レオの銃をとっさに撃ち抜いたのだ。フックの見開かれた目、荒い息、どれもレオより勝っていた。
場を読めない誰かが、口を尖らせていった。
「え。お咎めなしなしですか。」
フックは、叩きつけるようにいう。そいつのお陰で逆に生き返ったみたいに。
「文句あるか?こいつの勇気生かしといてあまりあるだろうが。おまえら文句あるなら1対1でこい。情けねえ。」
フック船長の懐中時計はまだ鳴っていた。
時計は、フック船長の罪とレオ君の恥と、船の錆とを嘆き続けている。船長の心臓に一番近いところで。
「この時計はもう、いらないな」
フック船長は、懐中時計を海に捨てた。
船の欄干からさしだされた、フック船長の蒼白な手。長い指先から、すべり落ちる金色の星みたいな懐中時計は、光の線をすーっとひいて墜ちてきた。ワニコはそれを、口をめいいっぱいあけて受けとめた。
星を食べてしまった。
そのとき以来、ワニコの体には、二つの心臓が宿ってしまったようなのだ。