17 「待て」
フック船長は、連れられてきたレオの目を見た。探るように。
レオは、フックの目を見返した。せめて、船長の前だけは誇り高くみえるように。力を入れて。睨むくらいに力を入れて。
フックは、告げた。
“船への放火は、一番重い罪。
両足を撃ちぬかれて、腕を縛られて、海に投げ捨てられる“
ワニコは、船が燃えている間、なすすべなく海から船を見あげていたという。もしも、レオ君が墜ちてきたら、責任をもって、背中に乗せ無人島へ連れて行こうと思い、船の周りを巡って待機した。それは、海賊達の恐怖を煽るのに効果的だったことは言うまでもない。
銃撃隊が、レオをとり囲んだ。
レオは、足元をみつめて立っていた。
灰をかぶった金髪が、太陽の下で白くなり、口元までたれている。黒い影が顔を隠した。
構えの姿勢をとる銃撃隊。ぎっ、従鉄を引き起こす。照準はレオの下半身に。
「待て」
鋼鉄の輪の中に躍り出した者がいた。船長だ。
銃撃隊の前に両手のひらを見せていう。
「おろせ」
隣を見合うが、銃撃隊は銃の向きを変えない。
「いいからおろせっていってんだろ!」
フックは、手近な銃撃隊の銃をもぎとって、投げ捨てた。
そして、全員武器を捨てろ、と言った。
「捨てない奴はぶん殴るっ」
フックが二度全身で凄むと、海賊たちはみな、どたどたと武器を落とす。剣やら銃やらが床に転がる。振動が足に伝わった。
フックは、振り返り、レオに言った。
「死ぬ前に、お前に5分だけやる。」
フックは、自分も二本の剣をほうった。
そして、レオに、銃をさし出した。
「好きにしろ。」
レオは頭をたれたまま、ゆっくりそれを受けとった。
フック船長は、胸から懐中時計を取り出して、握り締めた。
金色の心臓みたいな、鎖つきの、温かい、時計。
戦慄の濁流が船を襲った。大逆転劇が展開されようとしている。いまや、いじめられっ子の手の内に全権力があるのだ。
フック船長はなぜこんなことを。
レオのことを予感していたからだ。何も知らなかったら、船を焼いた奴を海の藻屑に宇宙の塵にして雄叫びをあげてた。でも、本当は知っていたから。本気で止めなかったから。助けなかったから。
レオは、ぐらりと体を傾けて、一歩踏み出した。手負いの獅子・・・舞みたいな足取りだった。滑稽なほど不安定な一歩ごと、世界に色が戻ってきた。