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HANDle my love  作者: 宍井智晶
12/36

12 漂流する自治区を創るんだ

 ずだん、という鈍い音がして、イボイノシシ船長が檻の中に落ちてきた。


 ワニコはその瞬間、自分の眼の奥に火がついた気がしたという。

 ワニコは今まで封印していた俊足で迫った。たが、鎖にひっぱられ、寸でのところで動けず、口が裂ける。ぎゃーん。鎖が張りつめる大音響。

 

 フック船長は、仲間から斧を受け取ると、両手を振り上げ、ワニコの鎖を切った。

 イボイノシシを噛み砕くため、ワニコは相手の頭に飛びかかった。


 戦いが終わったとき、背後で歓声があがった。ワニコが振り向くと、檻の外では、密猟船の乗組員が皆、縛りあげられ固められていた。その周りでバンザイしているフック船長の部下たち。彼らの目が、血まみれ顎のワニコを見つめていた。楽しそうに。




 密漁船は碇で繋がれ、大綱でひっぱられた。

フック船長の海賊船は、この小さなオマケをくっつけて、優雅に海を渡った。

 オマケの方は、波に揺さぶられながら本筋に戻されながらおろおろ進んだ。落ち着きの無い小犬の散歩みたいに。

 囚われていた動物たちは、船の上で解き放たれた。かわりに、密猟船の人間たちは檻に入れられたり、縛られて甲板に転がされたりした。

 燦燦(さんさん)と太陽の光が降り注ぐデッキの上を、ゾウやサイや孔雀がぶらついた。ワニコもはりきって歩き回った。一日中、上を向いて、揺れながら。おもしろかった。


 ワニコは、くりかえしくりかえしあの晩の船を思い出していたという。

 船の甲板にサバンナがあふれるみたいに、海賊たちが暴れた夜のにおいにが好きだった。

 ワニコは、密漁船の船長の頭に噛みついて鰐の本性を出しすぎたと思って苦しかったけれど、激情の後、我に返った時にみたフック船長と海賊たちの拍手と笑顔のおかげで、その後悔を忘れることができた。

 そして、満月を背景に現れたフック船長が、ワニコの鎖を断ち切った音になんどでもうっとりした。



 海賊船に捕獲された船は、次の港で中古品として売りに出された。

 乗っていた人間も、ついでに売りに出された。まさに、骨の髄まで、だった。


 フック船長は、悪い奴らから資金を奪い取り、世界中を旅するという夢のためにつぎ込んでいる。その代わり、奴らの身包みを剥いで二度と船に乗せないようにしてしまうので、海軍も見逃している。けれどもこれは、権力となれあっているわけじゃない。


 フック船長は、漂流する自治区を創るんだ、と言っている。

 そのために、あらゆる知恵を絞るんだ、と。


 世間にわかるように翻訳すると、俺達は海賊だ、ということになってしまうけれど。

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