1 HANDle my love
HANDle my love
海賊フック船長の船を追いかけている。過去・現在・未来を、変えるか壊すかしかねない、危険な手段を持ち去ったフックを。
僕の恋人は、僕と恋に落ちたとき、特別な能力を開花させた。
その彼女の恐るべき力を知ってか知らずか、フック船長は僕の恋人を遠くへ連れ去った。
僕にとって、反撃の行動をおこすことは簡単すぎたけど、それは僕が勇敢だからではなくて、何も考えたことがないからだと思う。
備えよ、学べよ、身につけよ、という言葉たちは、なぜいつもあっさりと僕の前を素通りするのだろう?
僕は僕で、それをにこにこと見送ってきた。
新しい波と波の間に、さらわれるたび、洗い落されて、僕の頭は白いお皿になる。
生まれた場所を出て行くために、大きな一歩を踏み出した爽快感さえ、なかった。
べつに誰にも抑えつけられていなかったからだろう。
どこに誰といても、僕はたぶん、こんな調子でぴかぴかと楽しい。
だけど、自分の目的だけは、はっきりと最初から変わらずにあった。フック船長の奪い去ったものを取り戻すこと。
太陽が出てくるときに思い出すピンク。太陽が沈んでからも懐かしむピンク。そんな、ピンク色がいつも心の真ん中にあった。ピンクは、彼女を思い出させる色だ。
今日もまた、冷えた青い空に、小さく残った太陽が桃色の水晶みたいに輝いている。
そして、今日もまた、暗い波にそっと力強くピンクをにじませていた。
追いかけている海賊船の大きなお尻が、ぶあつい波のカーテンの向こうにぼんやりと見えてきた。
僕は泳ぎの最終ギアを入れる。体を思いきりひきしぼったその時、
ボグワァン、ボグワァン、ボグワァン
僕は、巨大な、ボコボコした、無骨な、不細工な、ぶさいくな、ブサイクなものに激突してしまった。
「いっ・・・」
ビリビリ体を震わせていると、頭上から声が降ってきた。
「おい、魚」
しわがれた低い声のする方を見上げると、緑色の大きな口の生き物がいた。そいつが僕に言う。鮮やかな赤い舌と牙をちらつかせながら。
僕は思った。最初に登場したからって、物語の主人公とは限らないんだな。
ほんとに、また調子にのっていたみたいだ。
ここで終わりなのかな。どうしたらいい?
怪物は、冷たい目で僕を見ていた。僕を丸のみするタイミングだろうに、ただ疲れきったような、うつろな様子で動かないでいる。こんな風に、不可解な行動をとる自分より強い生き物ほど怖いものはない。
僕は、言った。
「こんにちは。魚です。」