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第五章3

 ★


 体の節々に疲労を感じている。今すぐベッドに入って寝たい。こういうとき、自宅謹慎はいい。どうせ明日だって休みだ。何を用意する必要もない。無理しても、別に明日のことを気にする必要もない。余計なことは考えずに済む。

 早くVRが欲しい。それは本音だ。おっぱいが触ってみたいのだって本音だ。流石にあのおっぱいと比べるのはゲームのキャラクターと製作者様に申し訳ないが。

 おっぱいはおっぱいだ。みんな等しく平等におっぱいだ。二次元も三次元もない。VRは一体何次元なんだろうか。

 けれど今となっては、こことは別の世界に没入できるという感覚の方にこそ興味があった。ゲームの中だったら、少しは今の気分もマシと思えるんじゃないか。そうだ。今より虚しいってことはきっとないはずだ。そこに、誰かがいるという感覚さえ得られればいいのだから。

 リアルは面倒臭い。

 心の底から面倒臭い。

 お腹が空いている。牛丼屋にでも入ってちゃっと済ませたいが、そうも言っていられない。健康な心は健康な体にこそ宿る。そう言うだろう。気持ちは綺麗に保たねばならない。迷惑を掛けるのは懲り懲りだ。牛丼に栄養が無いとは言わない。牛乳飲んで、肉食べて、野菜食べて、ついでに果物でも食べておく。その方が牛丼よりは遥かに体に良いはずだ。何より人と会わなくて済む。今日は汗水垂らして仕事までこなした。これくらいやっておけば心も体も綺麗に保てる。

 けれど、性欲はどうにもならない。

 何度も何度もオナニーしたってどうにもならない。健康の証だとみんな言う。でも自分にとっては邪魔なだけ。

 だから打開策を、

 違う! そんなんじゃない!

 浮かんでくる思考が煩わしい。何も考えたくない。良識も常識もいらない。どんな組織にだっていたくない。無になりたい。けれど、人恋しい。誰かと話していたい。だけど、言葉を重ねれば重ねるほど相手は離れていく。相手の本音は知りたいが、自分の本音は聞きたくない。本物なんかいらない。嘘と偽善と欺瞞が欲しい。

 涎が垂れた。

 慌てて拭った。


 両手に、ぎゅうぎゅうに詰めたスーパーの袋。これを持って、階段を駆け上がるのは流石に酷だ。今日はエレベーターで行こうか。

 袋を片手に持ち替えて壁面パネルの数字を押す。スライドドアが開いて、中へと入る。後ろで何か音が聞こえた。

 嫌だな。エレベーターで誰かと一緒になったら。

 重たい袋を床に置いて、エレベーターのスイッチを押してる間に階段を駈け上がる足音。この前の自分と同じような人がいる。健康的なのは良いことだ。頑張れ。心の中で鼓舞した。

 エレベーターが到着して乗り込む。どうしてマンションのエレベーターは妙な臭いがするんだろう。汗か。そんなことあるか。どうでもいいか。

 上をぼーっと見上げて、7の数字が灯るのをひたすら待つ。この時間はちょっと好きだ。ぼーっと出来るところが好きだった。短いのが残念だった。

 やがて到着する。

 廊下を進み、自分の部屋の前へと到達。

 袋を廊下に置き、カードキーを差し込み、扉を大きく開けて留めておく。

 もう二十三時前。部屋の中は真っ暗闇だ。外に置いていた袋を中へと運び入れる。靴を脱ぐ。閉め忘れた扉を閉めるべく、玄関の框から体を斜めにして、扉に手を掛けた。ちょっとだけ力を入れる。扉がゆっくりと動き出す。自然に閉まるに任せた。

 袋を冷蔵庫の前に置いておく。

 マスクを外して捨て置き、手探りでリビングの電気を点ける。

 パパッと遅れて灯る青白い光が目に沁みる。

 汗を吸って気持ちの悪いYシャツを脱ぎ捨て、次いで中に着ていた∨ネックのシャツも脱ぐ。春。まだまだ肌寒い。途端に汗が乾くのが心地良い。

「ふ~。ただいまー。聞いて


「お帰り」


 女の人の声がした。


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