躑躅ヶ谷うらら
なんて不快な男なのだろう。
こちらのパーソナルスペースにずかずかと入り込んで来て、踏み荒らして、そして帰って行く。
溜息、貧乏揺すり、髪をかきあげる。言葉にするのは苦手である。だから、態度で示しているつもりだ。なのに。それでもあの男は平気な顔して入ってくる。
まるで十年来の親友のように。
それがまたうららを不快にさせる。男の表情が。態度が。存在そのものが。
つまらない話を延々と聞かされ、こちらの時間を奪ってくる。奪い去って行く。逆に、男の方は楽しそうだ。それがまるで、うららの存在を吸収されているようで――、あんなつまらない男に、そんなことを感じている自分自身に嫌悪を抱いてしまう。ああ、こんなことを考えている間も、そうだ……。うららの時間は奪われているのだ。あいつが目の前にいなくとも。目に見えて減っている。目に見えずとも減っている。うららの時間が。
不快だ。
不快だ。
男はバイト先の人間、年齢問わず全員と仲良くやっているようだった。よくやる。あんな、汚らしい、汗臭い男たちと。近くにいるだけで鼻をつまみたくなるというのに。
だが――、
ああいう人間が大成するんだろう、とも思う。
八方美人というのか、恩着せがましいというのか、世渡り上手というのか。
知らないけれど。
いつかあの高飛車な――なんと言うんだったか――女と一緒に歩いていたことを思い出す。入学早々もう交際しているようだった。
学校、狭い社会。すでに噂は広まっている。
お似合いだ。
ああいう、自分とは別次元にいる人間たち。
それと正反対な自分。比較して死んでしまいたくなる。
誰とでも仲良くなれるんだったら、いっそ自分のような人間には関わらないで欲しい。惨めになるだけだから。お情けで寄って来られているようで死んでしまいたくなる。
死ねばいいのに。あいつが死んだらこの不快感も収まるというのに。
そういうわけにいかないのは理解しているけれど。
何か、
何かないものか。
あの男を陥れるような、なにか。




