【短編版】男子大学生の僕、ストーカーから助けた女子高校生に付きまとわれている
連載版です
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僕の名前は香西陽人。今年、大学に通うために上京して一人暮らしを始めた。田舎の実家でずっと暮らしていたため、始めは大変な日々が多かったが、一か月もすれば新しい生活にも慣れてきた。
ピンポーン
インターホンが鳴った音がする。昨日ネットショッピングで頼んだのが届いたのだろう。僕は特にカメラなどで誰が来たのかを確認せずに扉を開いた。
「香西さん、こんにちは!」
予想外の人物に唖然としてしまう。宅配の人ではなくお隣に住んでいる井上琴美さんだ。
「井上さんどうしたの?」
「肉じゃが作り過ぎちゃったのでおすそ分けと思って。中に入ってもいいですか?」
「え、別にいいですけど…」
女子高校生を家に連れ込む男子大学生という構図が頭をよぎって心配になったが、僕の心配をよそに井上さんは「お邪魔します!」と部屋に入ってしまった。
「お部屋綺麗にしているんですね。失礼ですけど男性の一人暮らしって部屋が散らかっている印象があったのですが」
「友達が泊まりに来る予定があったから掃除したばかりなだけだよ」
「でも掃除するだけ素晴らしいですよ。一応聞いておきますがそのお友達というのは女友達ではないですよね?」
「もちろん、残念だけど僕に女友達はいないよ」
「それは良かったです」
「よくないよ」
軽い談笑をしながら、ついでにお互い夕食がまだだったため一緒に食事をした。井上さんの作った肉じゃがは絶品だった。毎日作ってほしいくらい。
「改めて先日はありがとうございました」
食事をして後片付けが終わった後、井上さんはぺこりと頭を下げてきた。
先日というのは井上さんがストーカー被害にあっていたことだろう。
井上さんは高校三年生なのだが一人暮らしをしている。井上さんはアイドルや女優顔負けの容姿をしており、たまたまマンションから出てくる井上さんを見た四十代の無職の男が一目惚れをしてストーカー行為におよんだ。
都会というのは怖いもので若い女性が一人暮らしをすると狙われやすいそうだ。
夜中にゲームをしていたら隣の部屋から悲鳴が聞こえた。恐る恐る悲鳴が聞こえた隣の部屋の前に行くと、鍵が開いているものだから部屋に入った。するとおっさんが女性を襲おうとしていたから必死に戦った。
そしてなんだかんだあって無事におっさんを警察に引き渡すことができた。
ちなみにこのときが井上さんとの初対面だった。
「本当にあのとき香西さんが来てくれなかったらどうなっていたか」
「いえいえ、井上さんが無事でよかったです」
僕はなんだか照れくさくて井上さんに頭を上げてもらうようお願いする。
「何かお礼をしたいのですが…」
「全然気にしないでください。さっき肉じゃがを頂きましたし大丈夫です」
「それでは私の気が収まりません」
困ったな。あくまで井上さんはストーカーをされた被害者なだけで本来は僕がお礼される立場ではないんだけどな…。あ、そうだ。
「なら今日みたいに作り過ぎちゃったときだけで良いのでおすそ分けしてもらってもいいですか?」
「え?」
「今日の肉じゃがすごくおいしかったです。恥ずかしながら料理が苦手なので」
「わかりました。それではまた美味しい料理を作ってくるので待っていてください!」
井上さんも納得してくれたみたいで良かった。
しかし僕は知らなかった。これをきっかけに井上琴美さんに付きまとわれるようになるなんて。
◇
第二言語の講義。この大学では外国語の講義は高校の時と変わらず狭い教室で三十人ぐらいの固定のメンバーだ。高校でいる一年一組みたいないわば大学のクラスみたいなものだ。
「なんかお前彼女できた?」
「は?僕に女友達がいないの知っているだろ」
二限の講義中、隣に座っている友達のケンタが話しかけてくる。ちなみに泊まりに来る予定の友達とはこいつのことだ。
「いや、なんというか…雰囲気が出てる」
「どんな雰囲気だよ」
「最近健康そうだし、彼女ができて幸せな日常を送っている雰囲気」
「別に普通な日常だよ」
朝起きたら井上さんが二人分の朝食を作って訪ねてきて一緒に食事をする。大学で講義を受ける。部屋に帰ってきたらゲームとかをして過ごす。夕方になったら井上さんが二人分の夕食を作って訪ねてきて一緒に食事をする。ゲームをして眠くなったら寝る。その繰り返しだ。
「あれ…普通な日常なのか…」
なんか井上さんが日常に入り込んできてないか!?
「お前なんかありそうだな。昼休み学食でたっぷり聞かせてもらうからな」
確かに始めは抵抗があった。なんか夕食毎日持ってくるなって。でも美味しいから仕方ないじゃん。ようやく毎日夕食を一緒に食べることに慣れてきたと思ったら最近朝食も持ってくるようになった。そして気づいたら次の日一限じゃなければ徹夜でゲームをしていたのに、毎日早寝早起きをして親鳥が餌をとってくるのを巣で待つ小鳥のように井上さんを出迎えている。
僕なんか洗脳されていないか?
「よし、講義終わったし学食行くぞ。事情聴取だ」
「え、あ、うん」
とりあえず考えるのをやめてケンタと学食に向かおうと立ち上がった時、勢いよく教室の扉が開かれる。
「香西さんはいらっしゃいますか?」
講義が終わりガヤガヤとしていた教室が静まり扉の方へと注目する。
井上さんが高校の制服姿で立っていた。
男女ともに井上さんの容姿に見惚れてしまっていた。ただ一人僕だけは「なぜここにいる!?」と度肝を抜かれていた。
「あ、香西さん!」
唖然としている僕の方へと小走りで向かってくる。教室のみんなの視線が井上さんから僕へと切り変わる。いや今はそんなことよりも
「ど、どうしてここにいるの?」
「わたし実はこの大学の付属高校に通っているんです。今日の授業は午前中だけでもしかしたら香西さんに会えるかなと思って来ちゃいました!」
説明を受けたがついていけず混乱していると隣にいたケンタに肩をがしッと掴まれる。
「お前女子高生に手を出すのはどうかと思うぞ」
「手を出すわけないだろ!?」
「しかもこんなかわいい子に…羨ましい!!」
「それはそれでどうかと思うぞお前!?」
僕がケンタと言い争っていると、徐々に周りのクラスメイトがガヤガヤし始める。
「かわいいけど香西君の彼女?」「めっちゃかわいい」「アイドルかな?」と様々だ。
「香西さん、三限はありますか?」
「いやないけど…」
「丁度良かった。なら一緒に学食食べましょ!あとついでに大学の案内をしてほしいです。わたし来年からこの大学に通う予定なので」
そう言って井上さんは僕の腕をつかんで学食へと向かっていく。
教室を出るときクラスのみんなから「あとで詳しく聞かせろよ!」と言われた。
あるいみクラスの人気者になってしまった。
◇
「合コン?」
「ああ、一人男子が来れなくなったからきてくれ」
ケンタと一緒にボイスチャットをしながらいつも通りゲームをしていると大学生らしいワードを言われた。
「うーん、どうしようかな」
「別に井上さんとはそういう関係じゃないんだろ?なら参加しても問題ないだろ」
「そういうことじゃなくて合コンみたいなのが苦手なんだよ」
井上さんとはお互い友達、なんなら井上さんは僕への感謝の気が済むまでの関係に過ぎないだろう。井上さんは義理堅いのだ。
僕が問題に思っているのは女性とのコミュニケーションだ。あんまり得意ではない。彼女は欲しいのだが合コンに参加しても場を冷やしてしまわないか心配だ。
「お前は容姿は良いんだからこれを機に慣れていこうぜ」
「確かにな…せっかくの大学生活だし行ってみるわ」
「おっけー、じゃあ明日の午後六時に駅集合な」
通話を切って今日はお開きにする。それとほぼ同時に趣味部屋に井上さんがノックをして入ってくる。
「失礼します。大丈夫ですか?」
「全然気にしなくていいのに。それにちょうど終わったよ」
「そうでしたか。あっこれ面白かったです!」
井上さんは持っている漫画の表紙を僕に見せながら目をキラキラとさせていた。最近、夕食を食べ終わった後も井上さんが部屋にいることが多い。一緒に映画やアニメを見たり、僕が友達とゲームするときは大抵僕が集めている漫画を隣の部屋で読んでいる。
特に土日はお互い学校がないため、金曜日と土曜日は長居することが多い。
「それは良かった。あ、そういえば明日は夕食大丈夫だよ」
「どうしてですか?」
「友達とご飯を食べに行くことになった」
「そうですか。あの…女の子とかいますか?」
これまでクラス会などで女子も出席するものに参加するとなぜか井上さんは不機嫌になる。だから合コンということは黙っておこう。
「男友達だけだよ」
「そうですか。なら明日は朝食と昼食だけですね」
「うん。一緒に食べよ」
「はい!」
◇
「服どれにしようかな」
持っている服を並べて考える。やっぱり第一印象で決まるようなものだから見た目には気を配りたい。そして女の子の友達を作りたい。あばよくば彼女を作りたい。
「どうしたんですかそんなに悩んで?」
ベットに横になって漫画を読んでいる井上さんに声をかけられる。
「服どれにしようかなと」
「…今日は随分気を使うんですね」
ギクッと心の声が漏れそうになる。合コンだということをばれないようにしなければならない。
「い、いや最近お洒落に目覚めてね。服装から改めたいなと…」
「ふーん…なら私がコーデしてあげます」
「ほんとに!」
一緒にお出かけをした時に何度か井上さんの私服を見たのだがお洒落なものばかりだった。井上さんのファッションセンスにかかれば女子ウケ抜群の物にしてくれるはずだ。
「これとこれを着たら清潔感のある感じでかっこいいと思います」
「なるほどちょっと着替えてくる」
僕は部屋を出て井上さんに指定された服を着て、再び部屋に入る。
「どうかな?」
「かっこいい…」
「え、なんて?」
「いえ、すごくいいと思います。今度一緒に服とか買いに行きませんか?」
「いいね、コーデしてほしい」
「もちろんです。香西さんも私のコーデしてくださいね?」
「僕にはファッションセンスないんだけどな…いいよ!」
「やった!」
時間になると井上さんは自分の部屋に戻っていき、僕もケンタが待つ駅へと向かった。
「お待たせ」
駅に到着するとケンタのほかに共通の男友達二人が待っていた。
「来たな、早速行くぞ宴の場に」
「絶対ここで彼女を作ってやる!」
「狙いが被っても恨みっこなしだからな」
みんな気合に満ち溢れている。心なしかいつもより服装などに気を配っている気がする。今日は負けじと僕も心を強く持つ。
「…」
◇
「今日はみんな集まってくれてありがとう乾杯!」
「「「乾杯っ~!!」」」
主催者であるケンタが音頭を取り、男四人女四人の合コンが始まる。席としては男四人と女四人で対面になっている。そしてとりあえず自己紹介をする流れになった。
「じゃあ主催者である俺から。●大学の溝渕健太です。ケンタとかケンちゃんって呼んでください。趣味はスノボーとかウィンタースポーツです。お願いします!」
嘘つけっ!お前の趣味はエロゲとエロゲレビューだろうが。しかしここは合コンだ。チームプレーが重要になってくる。ここは黙っておいてやろう。
男性陣が順番に自己紹介をしていく中、最後に俺の番になる。
「●大学の香西陽人です。人数合わせで初めての合コンに参加しました。なのであまりこういう場に慣れていないのですが今日は楽しんでいこうと思います!趣味はゲームと漫画、映画鑑賞です。お願いします」
正直、あまりオタク趣味は出さない方がよさそうだが下手にケンタとかみたいに嘘をついてボロが出るのは嫌なので正直に話す。まあこれで女子に冷められても価値観が最初から合わないとわかるため丁度いい。
そして女性陣も順番に自己紹介をしていく。
終わった後早すぎないかと思ったがケンタが早速席替えをしようと言い始めた。これでそれぞれが狙った女性の隣に行くのだが…
「陽人くんどんな漫画読むの?わたし最近ツーピース読んでるよ!」
「あはは…最近映画とかもすごいですよね」
「映画とか何見てるの?こんど一緒に宇宙の中心で愛を叫ぶ見に行こうよ!」
「いいですね…これを機に恋愛映画も見ていきたいです」
「ファッションセンスいいよね。すごいかっこいい」
「ありがとうございます。〇〇さんもすごくかわいいですよ」
「陽人くんの好きな女性のタイプ聞きたいな~。年上とかも大丈夫?」
「年齢は考えたことないですけど、一緒にいて安心できる人がいいです…」
どうしてこうなった。僕は女性人たちに囲まれる形になってしまった。さっきから女性人たちは僕にしか話しかけてこないし、ケンタたちを見ようともしない。
ケンタたちががっくりとしてジュースを飲んでいる。そして僕を怨念がこもった目で睨んでくる。
いや僕も困っているから助けて。
「陽人君良かったらさ、二人で他の店に行かない?」
「何抜け駆けしようとしてるの。陽人君の読んでる漫画気になるな。今から陽人君のお家行ってもいい?一人暮らしなんでしょ?」
などととりあえず一緒に抜け出して二人っきりになろうというお誘いばかりくる。本来ならうれしいしそういう状況を望んでいたのだが、いざ本当にこういう状況になるとやはり混乱してしまう。しかも四人同時だ。女友達がいた経験のない僕には対応しきれない。
「明日は暇でしょ。何ならこれから…」
と一人の女性が僕の腕を組もうとしたとき、誰かが僕の背後からその女性の腕をつかんだ。
「やめてもらっていいですか?」
いきなりの登場に女性陣は唖然としているが、同じ大学である男性陣は驚きの声を上げる。僕は嫌な予感がしながらゆっくりと振り向くと、今までの温厚な印象からは考えられないほど暗い闇を纏った表情の井上さんが立っていた。
「香西さんに指一本触れないでください」
「は、はい…」
完全に場は井上さんに支配された。女性陣はおろか、男性陣もみんな正座をしている。もちろん僕も正座をしている。さっき以上に大変な状況になってしまった。
「私は香西さんに大切なお話があるので香西さんを連れて帰りますが問題ありませんよね?」
「「「はい…」」」
みんな井上さんにおびえ切ってしまっている。もちろん僕もだ。「なぜここに?」と言える状況じゃない。僕は井上さんに腕を引っ張られて部屋へと連れて帰られる。
「あの女の子誰?陽人君の彼女?」
「いや彼女じゃないんはずなんだけど…でも今ので確信した。陽人がニブチン野郎だってことが」
◇
僕は今部屋のベットの前で正座をさせられている。ベットにはご立腹な井上さんが座っている。
「香西さん」
「はい…」
「わたしは男友達とのご飯と聞いたのですが、なんで女性がいたんですか?」
嘘をつきたくてしょうがないのだがそれは得策ではない。もう正直に答えないと殺されてしまいそうだ。
「実はその…人数合わせで合コンに呼ばれて…大学生だからそういうのに参加してみるかと興味本位で…」
「そうですか。モテモテで楽しそうでしたね」
「いや、そんなことは―――」
「言い訳は聞きたくありません」
「はい…」
なんで僕こんなにも怒られてるんだろう。確かに嘘をついたのは悪いことだ。でも井上さんには何の問題もないことだ。別に彼女という訳じゃないし、浮気でもないし…
でもそんなこと言ったらさらに怒らせてしまいそうだし、今は許しを請うしかない。
「今回は許してあげます。私は寛大な女なので」
「はい、ありがとうございます」
「だけど条件があります」
「条件とは?」
「二つあります。一つ目は女の人と食事をするときは必ず正直言うこと。できれば行ってほしくはないですが…」
「はい」
後半なんて言ったかよく聞こえなかったがとりあえず返事をする。本当は聞こえていないのに返事をするのはダメだろうけど今は許してほしい。
「そして二つ目は…その…」
「?」
なんかもじもじしはじめた。心なしか顔が赤い気がする。怒りで顔が赤くなっている。やばい反抗したら何されるかわからない。
「…合鍵をください」
「えぇ!?」
「文句あるんですか?」
「仰せのままに」
再び光のない黒いまなざしで睨まれたため、土下座をして詫びる。そして予備で作っていた鍵を井上さんに手渡す。鍵を受け取った時の井上さんの表情は今までで一番うれしそうな表情をしていた。
「これで許してくれますか、井上さん?」
「…もう一つ条件があります」
「まだある―――仰せのままに」
「条件が多すぎる」と文句を言おうとしたが睨まれたらいつの間にか「仰せのままに」と言ってしまった。
「私よりも付き合いが短い人が香西さんのことを陽人君と呼んでいました」
「呼んでいましたね」
「これからわたしは香西さんのことを陽人さんと呼びます。なので陽人さんも私のことを琴美と呼んでください」
「えっとそれは全然いいんですけど、最初から呼び捨てはハードルが高いの琴美さんで許してくれませんか?」
少しほっぺを膨らませて不満そうな表情をする。
「…まあ許してあげます。呼び捨てはいつかの日までお預けしておきます。じゃあ呼んでくれますか陽人さん?」
「えっと…琴美さん」
そう言うと琴美さんはようやくいつも通りの笑顔に戻ってくれた。やっぱり琴美さんは優しい表情が似合っている。
「あと私今日はここに泊まります」
「えっ!?」
「今日の決定権はすべてわたしにあります」
これからさらに琴美さんに付きまとわれてしまいそうだ。
続編希望があれば連載・もしくは短編を投稿します。
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