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11 見せたいの 浴衣とうなじ るるるるる <峯島視点>




 おばあちゃんの家で浴衣を着つけてもらったときは、まさかこんなことになるなんて思っていなかった。

 去年の誕生日におばあちゃんが仕立ててくれた浴衣。青地に白い牡丹があしらわれている清楚なもの。


 「里佳子ももうお姉さんだから、素敵な男の子と浴衣でデートすることもあるかと思って」なんて。両親に聞こえないようにこっそりとウインクしてくれた。



 ――先生。私は先生に浴衣姿を見せたいです。



 その想いは伝えることも叶わない。だって先生は、明らかに女生徒と線を引いている。


 女子高生に対して下心を持っている男性なんてたくさんいる。

 でも先生はそういう人たちと一線を画すかのように、あえて女子とは関わらないようにしているように見えた。

 

 

 もし私が先生を花火大会に誘って、先生が私の気持ちに気付いてしまったら。





 好き。私は先生が好きです――。




 

 正直に言って、今でもギリギリのラインだと思うことが多い。

 私は『きらり、青春(アオハル)』のファンだということを半ば利用して、他の女子よりも彼の近くにいるのだから。


 2人で、皆には秘密の話をする時。それが女性アイドルのことであっても、私は嬉しくて、心臓がどうにかなって死んでしまいそうになる。

 近くにいれば近くにいるほど、自分の気持ちを話してしまいそうになるのを必死で我慢しているのに――。



 きっと先生は大人だから、間違っても女子生徒となにかが起こらないように線を引いているに違いない。

 それなら、私の想いには絶対に気付かれてはいけない。もし気付いたら、絶対私から逃げてしまうのだから――。






 本当に誘いたかった人は誘えなくて。いとこたちときた花火大会。

 ちょっと寂しいけれど、普段は嫌いな喧騒がなんだか気持ちのいい夏の夜。




 人波の中で、私は()()()を見つけた――。



 ドキリと胸が高鳴る。

 塾のある都心から離れた郊外の花火大会。まさか、先生に会えるなんて。


 こんなところで出会えるなんて、もしかして運命なのかもしれない、と高揚する気持ちに一気に冷や水が浴びせられる。



「先生……デートしてる……」



 先生は、浴衣姿の女性と手を繋いで歩いていた。




 胸が、痛い。さっきまでそれなりに楽しんでいた気持ちも全部どこかにいってしまった。

 痛い痛い痛い。胸にナイフが突き刺さっているみたい。

 息ができない――。



 見たくないのに、目が離せない。

 2人は仲睦まじく笑い合って、手を繋いで、身を寄せ合って、フライドポテトを食べさせ合ったりなんかして、

 先生は彼女が可愛くて可愛くて仕方がないのか、彼女のことをずっとカメラで撮影している。


 

 私だって、彼女と同じ浴衣姿なのに。先生の隣で笑っているのはどうして私じゃないの?

 涙は出ないのに、胸が痛くて息ができない。





 




 思うに、これは一種の自傷行為だ。


 見ていたくないのに、いとこたちと離れてまで、2人を港の端っこまで追いかけてきてしまったのだ。


 

 港の防波堤に並んで座る2人はとても仲良さげで。

 遠くに打ち上げられる花火がやけに眩しくて。


 おばあちゃんの家で浴衣を着つけてもらったときは、まさかこんなことになるなんて思っていなかった――。



「もう、帰ろう……」


 花火大会が終わって、なんだかすごく疲れてしまった。

 それに遠くから見ていたとはいえ、気付かれてしまうかもしれない。





「えっ……」



 帰路につこうとしたその時、先生と彼女はガラの悪そうな人たちに絡まれてしまった。

 港にはもうほとんど人もいない。途端に不安になる。



 彼らは言い争っていたかと思うと、音楽を流しながら激しく身体を動かし始めた。私からは遠目でよく見えない。



「もしかして喧嘩……?!」



 先生が花火を振り回して、相手を威嚇している――?!



「……っ、警察がきたっ!!!!!!」



 咄嗟に大きな声をだした。

 もちろん嘘だ。警察など呼んでいない。だってそんなことしている間に先生に何かあったら!

 助けられるのは、私しかいない!!



 捨て鉢の作戦は効果てきめんだった。

 男たちは私の言葉を信じ、大急ぎで逃げていった。



「っ……!」



 花火の煙が凄くて、先生の姿がよく見えない。

 先生、どうか無事でいて……!


 私は心配のあまり、2人の元に駆けていった。





「先生……」


「ん?」



 私が声をかけると、先生はいつもの調子で振り返った。

 塾の教室で私に呼ばれた時の自然さで――



 そして、私を目に入れて、固まる。



 まさかこんなところに私がいるなんて、思いもしなかったのだろう。

 でもそれ以上に、私も驚いていた。



「あ、あなた……」



 ずっと片側につけていたお面のせいで見えなかった女性の顔。

 それでも明らかに可愛らしいオーラを放っている彼女。

 私が手に入れたかった先生の隣を、当然かのように享受している女。


 それが、まさか――。



「どうしてらぶちゃんが、こんなところにいるんですか……」




 元『きらり、青春(アオハル)』の堤らぶ。

 いや、恋愛禁止のグループでスキャンダルを起こした裏切り者――。


 堤らぶがどうして先生といるの?!




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