ダンジョンへ突入?
一日経ってダンジョンへもぐる準備を進めた。
そして荷物の最終確認をしているとフレイに後ろから呆れたように声を掛けられた。
「おーい、フーカ……さすがにそれは持って行き過ぎではないか?途中で歩けなくなるのが目に見えるんだが」
「おっ!よくぞ聞いてくれました!」
何を隠そうこのリュック。すっかり忘れていたけれどついさっき倉庫の奥から引っ張り出してきた魔法のリュックなのだ。なんでも入るしどれだけ詰め込んでも重くならない優れもの。なぜ今まで忘れていたのか…見つけたときは自分で飽きれてしまった。
「これは魔法のカバンでね。なんでも入るし重くならない優れものなのよ」
「ほう?そのような代物聞いたこともないな。ちょっと持ってみてもいいか?」
そういうとフレイはリュックを持ち上げる。
もちろんリュックは何も入っていなかったかのようにひょいと持ち上がった。
「おお、これはすごいな…。私も欲しいのだがこれはどこで売ってるんだろうか」
「ああー、これはね。お母さんが作ってくれたのよ」
フレイは目を丸くして驚いた。
「これをか?こちら側の価値観で言わせてもらうが…これはものすごいアイテムだぞ。」
もちろんこんなアイテムはフレイの言う通りレジェンドアイテムだ。なかなかお目に掛かれないものではある。しかしそれをで作ってしまえる母にはいつも頭が上がらないし恐怖さえ覚える。
「まあ、本物の魔法使いだし。」
「な、なるほど…まあそういうことにしておくか」
さて、準備はできた。あとは遺跡もとい、試練のダンジョンへと向かうだけ。
お願い事…考えておかないとな。
二人で外に出て家のドアに看板を掛ける。
「しばらく留守にします……っと」
「ふむ?母にか?」
「ええ、たまーにいきなり帰ってくるのよ。普段は一人なんだけどね」
「なるほどな。では向かうか」
さあ出発だ。昨日町から帰る途中に確認したダンジョンへと向う。ダンジョンは記事の通り家よりの草原方面にできていたので意外と近く道中何か起きないかと思ったが何事もなくあっさりとダンジョンの前に着いてしまった。
「ここがダンジョンよね。近くで見ると結構大きくて迫力があるわね」
「ああ、そうなんだが……」
何か少しおかしいと言わんばかりにフレイが頭をかしげる。
「どうしたの?」
「いや、試練のダンジョンとはいえ…大きすぎだ。大体は私の指定した大きさと精霊パワーで決まるはずなんだが。本来はこの大きさな4分の1くらいなはずだ」
そういわれるとめちゃくちゃデカい。
とはいえ理由もわからないのでそこは深く考えないことにした。
フレイが遺跡の中へと入っていったので私もついていく。
少し暗いので懐中電灯を付けてついていった。
「まあいい。ひとまずこっちだ……確かここら辺にあったぞ!」
フレイが入り口付近にあったレンガを一つを押し込む。
「あったぞ!帰還の石だ!コレがないと最奥に行っても帰れないからな…よかった」
「そういうことね。意外と用意ができてるのは感心するわ」
何かあったとき用の用意ができてるダンジョンって新鮮だけど、今後色々なファンタジー作品を見る時にそういうのがあるかもって思ってしまうかも……なんか複雑だ。
「さてと、では次の回に進もう。最初は簡単な試練ばかりだ。我の力がなくても問題なく進めると思う。早めにクリアしよう」
「おっけーわかったわ」
しげしげと遺跡の中を見回しながら下へ降りる階段の方へと向かう。すると鼻先に冷たい何かが当たった。
「つめたっ!なんか鼻先に当たったわ」
手でぬぐい取ると妙にネチャネチャしている。というか微妙に動いているような気がする。光を当てて確認してみる。
「えっ…なにこれ?水…?」
しかし微妙に動いているしぬぐったところが少しだけピリピリする。なんだか…すごい嫌な予感がする。急いで懐中電灯を上に向ける。
その瞬間だった。
ベチンと上から巨大な水まんじゅうが降ってきた。
「グロロロロロ!」
「な、何!?」
「グ、グレート、スライムだと!?ま、まずい逃げるぞフーカ!」
逃げる!?ど、どういうこと!?いきなりのことで足がすくんで動かない。水まんじゅうが空を飛んで私をめがけて飛んでくる。に、逃げなきゃ。そう思うが足が動かない。
「ま、まずい!!屈むんだ!フーカ!」
フレイが叫ぶ。
私は何とか体をかがめて床へと縮こまる。
「エレメンタルバースト!!!」
フレイがそう叫ぶとアタリが真っ白になった。
「いそげ!!!」
何が起きてるのかわからないがフレイに手を引っ張られていることだけがわかる。そのまま誘導されるようにダンジョンの外へと逃げ出た。そしてそのまま急いでダンジョンから離れた岩場に身をひそめることができた。
「な、なんだったの?」
「あ、あれはグレートスライムだ。所謂魔物という奴だ」
「ま、魔物…?」
頭の中は襲われた事実で内容が全く入ってこない。し、深呼吸だ。こういう時は。まずは落ち着かないと。落ち着かせるために数度深い呼吸をする。
「な、なんとかおちついたわ」
「すまない。危険な目に合わせてしまった」
フレイが謝罪する。何が起きたのかもわからないので詳しく尋ねるてみる。
「結局私は今襲われたってことで良いのね?」
「ああ、そうだ。」
「でもそれが試練ってことなんじゃないの?」
「いや違う。こんなものは試練ではない。」
フレイが顔が苦い顔になる。
「これは私が引き起こしてしまった災害だ。」
「えっ…どういうこと?」
「私が脱出に使ったエネルギーがあろうことか全てこのダンジョンに流れ込んでしまったようなのだ。つまりこの遺跡は試練のダンジョンでもなんでもない。別の何かだ」
「べ、別の何か…」
「ああ、そしてそれは…私でも想像がつかない魔物が住むダンジョンができてしまった」
魔物ってあの魔物よね。スライムとか…オークとか…本で読んだことがあるわ。ということは先みたいに襲ってくるヤバイ奴がたくさん出てくるってことよね……?
「もしかして…地上にその危ない魔物があふれ出る可能性ってある?」
「……うむ」
一瞬目の前が暗転した。いけない。気をしっかり持たなきゃ。このままだと街も自分の家も危ないということだ。でも自分では何もできない。そもそも願いをかなえてくれるというのは簡単だから乗ったわけで命がかかってるとなると別の話だ。
「どうしよう」
厄介なことになったと今更理解した。
するとうつむいていたフレイが顔を上げた。
「フーカ。無理は言わん。お前はここに居ろ。」
「えっ?」
「私がまいた種だ。私が解決しよう」
そういうとフレイはダンジョンの方へと向かってしまう。
「ま、まって!!危ないわ!!」
声を掛けたところでフレイは止まらなかった。
怖くなりながら岩陰からダンジョンの方へと視線を移す。するとダンジョンから先ほど襲ってきた水まんじゅうが飛び出てくるところだった。
「フレイ!危ない!」
なんとか交わしてフレイは応戦する。
しかしこのままだとジリ貧だどう見てもスライムの回復力が異常だということが見て分かった。攻撃した先から回復されているのだ。早くだれか助けを呼ばないといけないけど街の人たちが戦って勝てるわけがないという確信もあった。
「ま、街の人を呼んだとしても被害が拡大するだけよね……。そ、そうだ…!あの手しかない!」
不意に思いついた。母のガラクタの中に稀に危険な奴も混ざっていたのを思い出したのだ。私は急いで家へと走る。風のように草原を走り戻り倉庫の中を物色した。
「な、なにか…あっ!あったわ!」
それは以前母が酒に酔って面白がって買ってきた花火だ。なんでも半径3メートル程度には爆発する代物で手で投げて爆発させるんだとか。一体こんなもの何処から買ってくるのかと言いたくなるが今はありがたい。
「こ、転ばないように急いでもっていかないと」
気を付けながら急いで遺跡へと戻る。
「フ、フレイ!!」
思わず叫んだ。どう見てもフレイがスライムに飲み込まれているのだ。息苦しそうにフレイがもがいているのが見える。花火を構えて走り出す。一目散にスライムの前に躍り出るとそれを投げつけた。
「これでもくらえっ!!」
スライムの近くに花火が投げつけられるとそれは大きな爆発音と眩しい光が放たれた。
「グロロロロロ!?」
光が収まったころスライムが驚いてフレイを吐き出したのかごろりと転がっていた。
スライムはダンジョンの中へと逃げていくのが見えた。ひとまずさっさと運んで隠れることにした。なんとかフレイを岩陰に運んで隠れ潜む。
「フレイ!しっかりして!」
「ぬ…?フーカ?」
「よかった無事ね。いまあなたスライムに飲まれてたのよ。」
「た、助かったよありがとう…だが、どうやって?」
「母のガラクタの中から使えそうなものを投げつけたのよ」
するとフレイが何かを思いついたような顔をしてぽつりとつぶやいた。
「フーカならあいつを倒せるかもしれんな」
「えっ?倒すって?この花火で?」
思わず否定をするがフレイは続けた。
「違う、まあ話を聞いてくれ。私がエレメンタルバーストという技を使ったのは覚えているな?あの技で奴を仕留めたい。だが一度放つと大分時間がかかるのだ。その時間稼ぎをしてもらいたのだ」
「時間稼ぎね……」
「うむ、だがそのガラクタで時間稼ぎをしてもらいたいという訳ではない。フーカは精霊と親和性が高い。もしかするとエレメンタラーの素質があるのやもしれぬ」
そういうとフレイは片手を私にかざした。
するとどういうことか私の体がぼんやりと光る。体の奥の方から妙に暖かい感じも沸いてきた。
「な、何これ?」
「私が今エレメンタラーとしての力を引き出した」
「エレメンタラー?」
「よし、ではまず手を伸ばしてみろ」
何をされているのかわからないままとりあえず言われた通りにやってみる。
「こ、こう?で、これが一体何なのよ?」
すると手の方に違和感を感じた。なんだか手に暖かい物を感じる。そう思うと、次第に手の方から生き物のようにうごめく何かの感触を感じた。
「な、なにこれ!?変な感触がするんですけど!?」
「よし、それじゃあそいつをつかんでみろ。フーカ」
「えっ!?これつかんで大丈夫なやつなの!?」
「大丈夫だから、早く!」
今度は言われるがままにつかんでみる。すると今まで感触しかわからなかった力の塊が、握りこぶし程度の光の玉になって私の手に握られていた。
「こ、これは…」
炎のようにメラメラと輝く赤いエネルギー体。魔法とも違う何かが手の中にあった。
「それがエレメントだ。そいつを投げつけて時間を稼いでほしい。できるか?」
何の説明もなしにいきなりやれるか?と聞かれて少し頭にきた。今襲われたばかりなのにどうしてそんなことができるだろうか。
「で、できるかって……もしかしたら死んじゃうかもしれないのよ!?そういう問題じゃないわ!!」
「気持ちはわかる。だが……お前もわかってるんじゃないか?町の者を呼んだところでどうにもならないと……」
「うぐっ……」
なんて痛いところをつくんだ。実際魔法でどうにでもなりそうなものだが一般魔法なんてガスコンロや水道のような技術の代わりようなものだし、さっき使ってしまったグレーなアイテムなんてものを売ってるやつは逃げるのが関の山だろう。
「それにこのままだとフーカの家も危ない。」
色々言われて頭の中がぐちゃぐちゃになる。最悪だ。でもやりたくないけどやるしかない状況にいるというのは自分がわかっている。……ええい!もうどうにでもなれ。
「……はーっわかったわよ…やってあげるわ」
「ありがとう」
「でも、一つ条件があるわ」
フレイがこちらを見る。
私もしっかりと目を見て答えた。
「先に一つ願いをかなえてもらうわよ。それぐらいじゃないと割が合わないわ」
「ああ、お安い御用だ!では頼むぞ!!」
気合を入れてダンジョンの方を見る。
スライムがダンジョンの入り口から這い出してきた。今度は逃がすことなく奴を倒そう。時間を稼いでフレイに倒してもらうだけだ。大丈夫だ自分ならうまくやれる。
「フレイ!行くわよ!!」
「おう!」
グレートスライムとの戦いが幕を開けた。