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いのちの詩(仮題)

冬の花火

作者: 浮き雲

詩というよりは、事実の列挙に心象的事実を少し加えた日記のようなものです。



晴れ渡る空を、目には見えない寒波が覆う


マスク越しの白い息が目の前をかすませて、すぐに消える


左手に海を見下ろす真直ぐな坂道を上っていく


時刻は、午後8時過ぎだ


しばらく家並みが続いて、隙間から、かすかに海が匂う


さっきみた入江には、赤い月が昇っていた


海原には月の色が映り込んでいる


まるで、白熱電球の仄暗い明かりが揺らめくようだ




僕は、じっと、海を見詰めない


暗い海は苦手なのかもしれない


そこに月の光が宿ることで、一層、海の底の闇は深くなる


だから、僕は、空を見上げる


今日も風が強い


雲が流れて空は晴れ渡る


オリオン座が綺麗だ


小三連星の中に、普段は見えない散開星団が見える気がする


ふたご座、小犬座、大犬座がオリオンを囲んでいる


なぜだろう


僕は、やがて遅れてくる星座たちに思いを馳せる




突然、何かが破裂する音が聞こえた


地響きのような低い振動が重なる


屋根の上から花火が上がった


続けざまに、冬の澄んだ空に大輪の花が咲く


少し足を速める


やがて、家並みが途切れる


見下ろせば、町並みの向こう側、数百メートル先は一面の海だ


その堤防から打ち上げているのだろう


いつも見上げていた花火が、目の前に咲く


次々と咲いては散っていく


どこかで見たようでいて、でも、初めての体験だ




煙は、風に流れて海のほうに消えていく


その澄んだ輝きを濁らせることはない


不思議なことに、この坂の途中には誰もいない


目の前に次々と打ちあがる花火が、まるで僕のためのように思われる


光の線が空間を切り裂く


光の粒が、滲みなく自己を燃焼する


一瞬が凍りつき、永遠に思われる


永遠は幻想で、刹那に砕け落ちて消えてしまう


その美しさと儚さに魅入られて、寒さを忘れる


呆然と立ち尽くした10分間


でも、感覚は時間どおりに流れてはいかない


そして、時間は感覚を押し流してはゆけない


一瞬は永遠の奇跡で、永遠は一瞬の軌跡なのだ




海へと風が吹き抜ける


硝煙が、少しだけ匂って海に消える


冬の花火のあとの耳鳴りのような静けさも消えた


僕は奇跡のような10分間を抱えて、また、歩き始める





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