今日もなんだかんだ平和な辺境の村の話
あっ、これとんでもないこと起きるんじゃなかろうか。
私がそう思ったのは、いつもの日常よりも違うことが起きたからだ。
突然だが、私には前世だか前々世だかの記憶がある。
確証を持ってどの国のどの時代の人間だったかなんて思い出せないけど、ある。
漠然と「あっ、そうそう、そういうことあるなー」とぼんやりと思い浮かぶくらいでも、あるったらある。
おかげで精神年齢は今の私の年齢だろう10歳よりもずいぶんと落ち着いている、はずだ。
よくお母さんからは落ち着きがないと言われるけれど。
ともかく。
それでもあまり怪しまれなかったのは、今住んでいる場所がとんでもない辺境の村だったこと。それに、同じ世代の子どもが少ないからだと思う。
村の人口、およそ30人。
そのうち小さい子どもは私を入れて2人。
若手というと、もうちょっと大きい青年にさしかかるくらいの少年が1人いる。私にとっては面倒見のいい兄ちゃんみたいな人だ。ほかはおじさんおばさんにお年寄り。
本当に小さい村なのだ。
それでも優しい人たちに囲まれてとっても暮らしやすい。
村のみんなは小さい私に甘いし、のんびりとした空気のこの村は好きだ。たとえいつも同じような日常が続いていても、とても穏やかで居心地がいい。ずっと続けば幸せだなあと思うくらいに。
さて、そんな日々を過ごしていると、些細な変化でも起こるとすぐにわかる。
そう、例えば。
気のいい兄ちゃんが村のお使いから帰ってきたときに、見たことのない白い髪の少女を連れていたとか。
いや、些細じゃない。全然、全く、些細な変化じゃない。
村の人たちは心根が善良すぎて心配になるほどの人たちだから、見知らぬ少女を心配したり歓迎したりと忙しい。お父さんとお母さんも新たな仲間だとにこやかに話している傍ら、私はふと思ったのだ。
辺境の村の入り口。
森から帰ってくる少年と見知らぬ少女。善良な村人たち。
これ、なんか、ゲームやファンタジー小説や漫画の始まりっぽいなって。
そう思うと何もかもがフラグに感じてならない。
兄ちゃん、名前はアルフ・ローヴィンといって、ここらじゃ珍しい名字持ち。
なぜか血のつながらない頑固者の狩人のおじさんと暮らしていて、よく近くの森に狩りにいっている。元気がよくて愛想もいい、ちょっと熱血なところがチャームポイント。
一昔前の主人公といったらこういう人物、というような人だ。
いや、普通に怪しいわ。
めちゃくちゃなんか隠された経歴あるんじゃないの?
あまりに近所の気のいい兄ちゃんだったから、全く気にしていなかった。
村の広場で、女の人を紹介しているアルフ兄ちゃんがいる。
それを家の陰から隠れて見ていると、私の様子に気づいたお母さんから肩をたたかれた。
挙動不審すぎたのかも。ごめん、お母さん。
「イーズィ、どうかしたの? 顔色が悪いわ」
「お、お母さん。ううん、なんでもないの。あのお姉ちゃん、襲われたって言っていたでしょ? それで……」
「あら、怖くなっちゃったのね。大丈夫よ。アルフが退治してくれたのですもの。魔鳥くらい、いざとなれば父さんがやっつけてくれるわ」
にこやかに笑っているお母さんに、曖昧に笑い返して私はその場を離れることにした。
そう、この世界。剣と魔法の世界である。
魔鳥と言っていたように、普通の動物のほかになんかやばい生き物がわんさかいる。草花だって動くし、当然の権利のごとく幽霊や精霊や魔物もいる。神様はわからない、たぶんいるんだろう。
あああ、フラグ。フラグ。フラグの大乱立だ。
駆け足で我が家に戻って、自分のベッドに飛び込む。靴を履いたままごろごろと転がって頭を抱える。
言葉が飛びださないように噛みしめた口からは、うーうーうなり声が出た。
やばい。
やばいやばいやばい。
予想その一。
ありふれた村で出会った少年と少女。仲良くなるにつれ、村に異変が起こる。村は滅びる。悲しみに暮れた2人は支え合い、謎を究明し巨悪を倒す。
予想その二。
ありふれた村で出会った少年と少女。少女を狙う勢力に村が襲われる。手を取り合って逃げる2人が力をつけていき巨悪を倒す。
予想その三。
ありふれた村で出会った少年と少女。世界を見て回ると旅に出るも、故郷の村はいつのまにか滅びていた。予想一と大体被るが以下略。
ネガティブに考えすぎかもしれない。
だが、RPGにしろなんにしろ物語が始まると大抵故郷の村は焼かれるか滅びるか呪われる。ドラマティックな主人公の出生に彩りを添えて、悪を倒す軸とする理由もあるかもしれない。
辺境の村の主人公の家は焼かれがち。前々前世くらいからテンプレートな展開である。
嫌だあ! 若い身空で死にたくない!
しばらくグルグルとベッドでじたばた暴れてから、ノロノロと頭を上げる。
多分、すぐ展開は進まないとは思う。もしかしたら物語のようなことはおこらないかもしれない。
だが、しかし、それでも心配はつきない。
こうなったら。
「なんとか、しないと」
口に出して小さな決意を固めて、私は両頬を軽くたたいて気合いを入れる。
とはいえ、何ができるのだろう。
今の私は小さい子ども。10歳で旅の仲間に加わるなんてことは、ゲームではあるかもしれないが、私には多分無理だ。眠れる不思議な力とかない。
年の割に落ち着いていて、可愛くて、あと計算読み書きができて、ちょっとだけ生活魔法が得意。ただの無力な女の子だ。
今生の私は、センターアイドルだって目じゃないくらいのプリティガールなイーズィちゃん。
だけどそれだけだ。
お母さん譲りの栗色のサラサラストレートと、お父さん譲りの新緑のくりくりした瞳が自慢のスウィートな美少女だけど、勇者にはなれそうにない。魔法少女はワンチャンあるかもしれない。
親は私を愛してくれても、子どもの戯言と笑って済ませる可能性が高い。
いや、多分私がその立場だったら9割信じない。
大雑把で落ち着きのない性格と言われる私と、親の性格は似ているのだから。あの親から生まれたらこういう性格にもなろうというものだ。
それならどうすれば足掻けるのか。
私は死にたくない。無駄死にしたくない。できればお母さんお父さんも、村の人も平和に過ごしていきたい。
焦燥感が胸をかき回しても絶望しないのは、一応理由がある。
トコトコ小さな足で歩いて少しすると見える家。
辺境村は家がまばらで、やや間隔があいて民家が建っている。だから子どもの足で村の中をぐるりと回るのも一仕事だ。その中でも一番我が家と近い家に私は向かうと、ノックをして口を開いた。
「コルキデ、いるかしら?」
おおらかなお母さんの口調をまねていたら、いつのまにか私が覚えているいつかの記憶の私よりも優しい口調になってしまった。女子力がうなぎ登りのイーズィちゃんだ。困っちゃうわね!
入り口前で待つこと数秒。
ゆっくりとドアは開かれて、私とおんなじくらいの年の男の子が顔を出した。
「いるよ。僕の嫁」
相変わらずの淡々としているのかぼんやりとしているのかわからない感情の起伏が少ない顔で、私の前に立つ男の子。言っていることは大分変だが、こういうやつだ。
コルキデ。
私の一つ下の男の子。同世代がいないから結婚相手だと顔合わせされて以来、こう呼ばれている。
多分、おそらく、めちゃくちゃ好かれているのだとは、思う。
同じ村で若手のアルフ兄ちゃんに「イーズィは僕の嫁になるから、兄さんは別の人を見つけて」と牽制のように何回も言っているし。かくいう私もまんざらじゃない。
焦茶のふわりとした柔らかな短髪に、榛色の瞳は柔和な下がり目。美少女イーズィちゃんたる私の可憐な可愛さと並んでも遜色ない美少年である。
もちろんコルキデの両親も美しい。元吟遊詩人と元踊り子の美形カップルだ。なお私の両親はお父さんいわく町一番の美女であるお母さんを浚った凄腕冒険者のカップルらしい。
「名前で呼んでほしいわ。嫁って名前じゃないのよ、私」
「知ってるよ、イーズィ。でも、君は僕の嫁だもの」
だから、嫁って言う。僕のだ。
なんでもないことのように呟いて、こてんとコルキデは小首を傾げた。それから手を取って、私を家に迎え入れてくれた。
所有欲なのかもしれないが、嫌われるよりは何倍もマシだ。そう思いながらニコニコ微笑んでみると、若干脱力したような顔をされた。何故。
「それで、どうしたの」
とことこ二人で歩いて、コルキデの部屋のベッドに腰掛ける。小さな村の家々の子ども部屋にソファや椅子が複数脚なんて贅沢なものはない。いつかの記憶と比べて不便ではあるけれど不満はない。住めば都だ。
さて、どうして私が婿のコルキデのところへ来たかというと、だ。
「ねえ、コルキデ。あなたの力を借りたいの」
「今度は何? 浄水に不備があった? 風呂が沸かない? 家の警報器が作動……はしていないね、異常があったら僕のところのアラートが鳴るし」
はい。
なんとなくこの言葉だけでコルキデの異様さがわかるだろう。
一般的な子どもと比較したら、おそらく浮くはずの私が異端視されないのも、ひとえにコルキデのおかげだった。
私よりも子どもらしくない子ども。
頭もいい。ちょっと粘着質なところがあるけれど、大人顔負けの精神。
私も普通とはいいがたい子どもだったから、割れ鍋綴じ蓋でちょうどいいのかも、とよく思う。付き合いが長くなるにつれて、こいつはやべえやつだとは思うようにもなったけど。
彼はとんでもないチート持ちであった。
もしや私と同じ前世持ちではないか、といぶかしんで尋ねたところ、それも正解。
けれど決定的に違うところがあった。
コルキデの昔の記憶によると、異能力が普通の世界で生きていたらしい。それでもって今生でも脳をフル活用して並列思考しながら魔法開発や技術開発を行っているそうだ。
負担ではないかと心配してみたが、過負荷すぎなければ寿命も精神も問題ない、らしい。ちょっとファンタジーすぎて理解が及ばないけれど。
かみ砕いての説明をお願いしたところ、まあ大丈夫な範囲で好き放題できる程度の力を持っている、という。空も飛べれば水にも浮くし、攻撃も防御もなんなら自然現象も無重力でもなんでもござれ。
ひょっとすると、勇者とか魔王とかよりもコルキデのほうが凄いのかもしれない。
そういうわけで、私は頼りになりすぎる将来の婿を訪ねたのである。
他力本願だと笑えばいい。私は何をしても生き延びたい。
頼む! コルキデ! 世界の運命というより私の平穏な生活は君にかかっている!
祈りを込めてぎゅっとコルキデの手を両手で握って、ハニーフェイスを真っ直ぐ見つめる。
感情の起伏が薄いはずの顔が珍しくはっきりと動揺している。案外初心なところがあるのだなと微笑ましく思いながら、ゆっくりと口を開いた。
「あのね、私の勘違いだったらそれでいいのよ。でもね、その、すこし心配なことがあって」
「え、と。なに?」
「アルフ兄ちゃんのことなんだけど」
「……そう」
一気にテンション下がったわ。薄紅色に染まった頬と生気できらめいた目がスンッとおなくなりになった。
「今日、お姉さんを連れて帰ってきたの。見たことないくらい、きれいな人よ」
「へえ」
「このあたりに女の人が一人で……それも、お父さんみたいに冒険者じゃない人がいるのかしら」
「ふうん」
「あの、私の記憶、コルキデも知っているでしょう? まさか、まさかだけど、何かがおこったらどうしようって思って……村のみんなに何かがあったら嫌だし、コルキデに何かあっても嫌よ」
「そう」
「だって、私の村よ。大好きだもの。なくなるなんて嫌だわ」
「大好き」
「ええ、大好きよ」
ピクリとコルキデが反応する。
押して押して協力をつかまないと。うんうんと頷いてみる。説得力が増すならなんでもやろう。
「お願い、コルキデ。私、なんだって手伝うわ。そりゃ、私はあなたと比べると力は足りないかもだけど、でも、なんでもする!」
「なんでも」
「ええ、なんでもするわ!」
あっ、また目が輝いた。
きゅっと握ったはずの手が、逆に包み込まれるように握られる。
「イーズィ、僕の可愛い嫁。なんでもしてくれる?」
「するって言っているじゃない」
「じゃあ、僕のものになって」
ぱちりと目が瞬いてしまった。
「いつか結婚する、じゃなくて。誓ってくれる? 君は僕のだって」
「えっと、今? 結婚するの?」
「うん」
どうしよう。思った以上にコルキデが重たい愛を持っていたのかも。
なんとなくこれまで、片鱗は見え隠れしていたような気がしては、蓋を閉じて見えないフリをしていたけれど。
美少年の真顔の圧が強い。
「まだ小さいから、夫婦らしいことはできないから歯がゆかったんだ。我慢できなくて、ごめんね。ただ、契約だけはきっちりしておかないとイーズィはどこかに行きそうだから」
「そ、そうね、契約は大事だものね」
「うん、イーズィのあんまり考えないようにおおらかに受け入れるところ、好きだよ」
遠回しに大雑把で適当だと言われてないだろうか。しかし、顔はちょっと熱い。愛の告白は乙女の憧れなのだ。いくら小さいとはいえ、精神が熟しているとわかっている相手から真摯に言われると照れてしまう。
「じゃあ、契約だ……僕の目を見て」
榛色が穏やかに輝きを放っている。色鮮やかに黄金に輝く瞳が反射して、どぎまぎとした私の顔が映っている。
いや、映っているというかまるでコルキデから見た私が見えるように頭に思い浮かんだ。
不思議だ。うるりと高揚に目を濡らして頬をバラ色に赤らめた可愛い女の子が見える。
その女の子が近づいて、近づいて。
柔らかな感触がした。
顔の下、唇。
ふわふわする。
私の唇だっけ、コルキデのだっけ。一つになったような、まるで空に浮かんだような心地。
ぽうっと酩酊した気分でいると、コルキデの声が聞こえた。
「イーズィ。これで絶対に約束は違えないからね。君と僕、命をリンクさせたから」
「ほえ」
「なんだっけ……君の知識から借りると、健やかなるときも病めるときも、一緒だよ」
「はわ……」
「僕の嫁は眠そうでも可愛い。ほら、起きて」
ほわあ、今なら飛んでいきそう。ふにゃふにゃとあまり力が入らない体を動かしたら、やっぱり力が入らなくて体勢が崩れてしまった。
「あれ、イーズィ?」
ふにゃふにゃだわ~。頭が働かないわ~。
まどろみ始めた意識で、抱き留めてくれた小さな旦那を見て、呟く。
「おねがい、ね」
「……とりあえず、村に何も起こらないようすればいいってことかな?」
まかせて、イーズィ、僕の可愛い可愛い女の子。
都合良くそう聞こえた気がして、私は安心して意識を落とした。
「イーズィ、いつまで寝ているの?」
お母さんの声だ。
ぐっすり、すっかり、ばっちり眠っていた私は、優しく揺り起こされて飛び起きた。
「お母さん! 今、朝?」
「ええ、朝ですよ。あなたったら、昨日コルキデくんの家で寝ちゃって。わざわざうちまで送ってきてくれたのよ? 仲良しなのはいいけれど、迷惑はかけちゃだめじゃない」
「え、えへへ」
なんと、コルキデに背負われて家まで送られていたらしい。
そんな私は、いつものように惰眠をむさぼって寝坊した、ようだ。
昨日の焦燥感はなんだったのか、コルキデに相談して安心して、ただの子どものように寝落ちてしまった事実に、涙が出そうだ。
「でも、コルキデくん、また変わったことしていたわねえ。なんだかこの家の、せきゅりてぃ? だとか、くりあらん? とか、ゴーレムつれて歩いていたけど」
また、で軽い調子で済んでいる。というのも、規格外の行動が恒例化しているからだろうなあ。
ぼんやり思いながら、私はあいまいに笑って身支度を始める。
「あの、アルフ兄ちゃんは?」
「アルフ? メレンダちゃんと一緒に森に出かけたわよ」
「メレンダちゃん?」
「ああ、イーズィは歓迎会には参加しなかったものね。あのきれいな女の子、メレンダって名前なんですって」
私の朝食を用意しながらお母さんはにこやかに話している。きっと、昨日の夜は楽しい時間だったんだろう。私は寝こけていたけど。コルキデは参加したのかもしれない。
いいなあ。
自業自得とはいえ、ぷくりと頬を膨らませて用意してもらった朝食を頬張る。お母さんの料理は美味しいけれど、不満は消えない。
どうせなら物語の主人公だろう二人の様子を見てみたかった。なんだかもったいないことをしてしまった。
いつかの記憶は忘れてないけれど、今の私の体につられた行動をしてしまうこともあるのはご愛敬だ。
もそもそ食事を終えたタイミングで、キイイインと金属音が高らかに響いた。
緊張を促す大きな音にびくりと体を震わせると、お母さんは不審な顔をして家を出て行った。
異変だろうか。
だとしたら、早すぎやしないか。まだ、一日しか経っていない。
生唾を飲み込んで、両手をいのるように握ってみる。ドキドキとしながら待っていると、意外にも早くお母さんは戻ってきた。
「コルキデくんが何かしてたわ」
「あ……コルキデが」
それで通じるのが奇妙だけれど、コルキデは規格外の男の子なのでしょうがないといえばしょうがない。単なる美少女の私よりも一回りも二回りも癖が強い。
「せっかくだから、イーズィ、昨日のお礼をしてきなさいな。送ってくれたんだから」
「うん」
ほっとした気持ちで食事の片付けをして、家から走って出る。
今日はいい天気だ。カラリとした空気と青々とした空に白い雲。爽やかな気候。日溜まりがぽかぽかとして小鳥もさえずっている。
そして、何故かそれに混じるアンドロイドめいた機体が動いていて、昨日はなかったはずの堅牢な高い壁ができている。
レンガとか石ではない謎の光沢をもった物体が規則的に並べ立てられている。おそらく村をぐるりと囲むように伸びた壁に、まるで巨人が埋まってそうだわ、と意識を飛ばしながら思った。
「イーズィ。おはよう」
ぼうっと見上げていると、上から声がかかってきた。
前でも横でもなく、空中、空の向こうだ。
きょろりと見渡すと壁の上あたりから顔をのぞかせたコルキデが降りてきた。ふわふわと羽が生えているように滑空してきて、だ。
何でもありなコルキデは距離を詰めて私の前に立つと、鳥がついばむみたいに軽いキスをしてきた。
「は」
キス?
「おはよう、間の抜けた顔も可愛いね、僕の嫁」
キス。
ぽかーんとした顔のまま見つめると、またされた。昨日の結婚らしき何かの儀式を思い返して、大分あけすけになってはいないだろうか。
しかしそんなことは些細なことだ。
それ以上に景観をぶち壊しているロボットや壁が目について仕方がない。
「あの、コルキデ。これは」
「うん? ああ、だってイーズィが言ったから、頑張ったんだ」
甘やかな表情をすると、本当にとろけるような美少年になるコルキデは、上機嫌に言う。褒めて褒めてと副音声が聞こえた気がしたので頭をなでると、うれしそうに目を細めて笑う。感情の起伏が少なかったのが嘘のようにデレデレな様子に、こっちが戸惑ってしまいそうだ。
「僕はね、僕を見てくれる嫁が望むなら、徹底的にやるよ」
「徹底的に」
「防衛装置を作成してから空間を固定化して異界移行措置もしたから、並大抵の侵略はされないはず。外界と隔絶しようと思えばできるけど、それだと君の言う物語? だっけ? そういう場合だったらイーズィが困ると思って抑えておいたよ」
「ごめん、何を言っているのかよくわからないわ」
「村は僕が守るから安心してね、ってことだよ」
これで安心でしょう。
間違っていないよね。なんて言いそうな様子に、とりあえず私はうなずいた。
その後なんだかんだの末に旅に出たアルフ兄ちゃんは勇者になったけれど、村に危機は訪れなかった。
代わりに、秘境幻の村と噂されるようになった、とメレンダちゃんと里帰りに来たアルフ兄ちゃんが遠い目をしながら教えてくれた。元凶である私は視線をうろつかせ、実行犯であるコルキデは興味なさそうに相づちを打っていた。
とりあえず、村の平和は守られた……でいいのかな。いいのだろう。多分。
スキンシップが激増した旦那様を相手にしながら私は空を見上げる。
相変わらずいい天気の辺境の村には、謎の機械生命体やら合成獣が飛び交いメタリックな謎成分の壁が高くそびえていた。
コルキデのいつかの記憶は無味乾燥な関係や無機質な環境だったので、親しく接してくれた同年代の異性であるイーズィの印象が鮮烈すぎてベタ惚れした模様。
なんでもかんでも全肯定幼馴染。
誤字報告、ご感想ありがとうございます。拙いお話ですが、一時の楽しみになれたら幸いです。