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真実の愛を見つけてので、婚約破棄をします。

婚約者は聖女に口撃(こうげき)します

作者: あかり

「アレット・セブリテン侯爵令嬢。其方との婚約の破棄をここに宣言する。そして、ここにいる聖女サクラが新しい婚約者となる。」

 本日は、卒業式前日の生徒だけの記念のガーデンパーティー。卒業前の思い出作りと、ダンスでパートナーのいない男女が最後にパートナーを見つける戦場である。慣例でパートナーのいない男女は、青いバラの造花を身に着けることになっている。すでに、パートナーのいる者は赤いバラの造花を身に着ける。もちろん、私が身に着けているバラの造花の色は赤である。

 そこで、馬鹿をしでかしたのは私の婚約者である、この国の第一王子のモーリス・アルジャンである。

 「はあ……」

 持っていた扇子を広げ口元に持っていきため息をついた。

 もう、ため息しかでない。

 私の時はこんなことが起こらないように気を付けていたのに。



 この国では数代続けて、卒業パーティーで当日に王族や上位貴族の婚約破棄が続いている。4代前の卒業パーティーは「血の卒業パーティー」として有名だ。「血の卒業パーティー」を元に作られたロマンス小説は市民の間で現在も人気を博している。

 でも、まだ婚約破棄の発表がガーデンパーティーでよかった。ここには生徒と教師しかいない。卒業パーティーで婚約破棄を発表しようものなら、私の意思とは関係なく婚約破棄が確定してしまう。こんな、ガーデンパーティーで婚約破棄を発表してしまう、少しおバカな王子だけど、私はそれも含めて彼を愛している。もちろん、彼も私を愛している。これは私の妄想ではなく、確たる事実。

 だって、昨晩だって「卒業パーティーで一緒に踊ってくれるよね?僕以外と踊ったらだめだよ」と確認するくらいだ。

 そんな、彼が今この場で婚約破棄を発表するとは何か変だ。きっと、昨晩からガーデンパーティーが始まるまでの間に「聖女サクラ」との間に何かあったに違いない。

 私は、そう思いサクラを睨み付けた。するとサクラは勝ち誇った表情を浮かべて、鼻で私を笑った。その憎たらしい笑顔に、思わず扇子を強く握りしめてしまった。



 サクラと呼ばれる少女は、2年前この世界にやってきた異邦人だ。そして、教会により「聖女」認定を受けた。

 この世界には神から与えられた魔法が存在する。基本的に火・水・土・風の四つの属性があり、この世界の人々なら大小の違いはあれ、どれかの力を持っている。

 普通の人は生活レベルで使えない者が多いが、貴族は実践レベルで魔法が使える。この国の貴族とは「魔法の力を持ってこの国を導く者」である。一般市民でも実践レベルで魔法が使えて、国へ忠誠を誓えるものは一代貴族の爵位を与えられる。反対に、貴族でも一定の魔法が使えなければ国の要職に就くことができない。


 そのため、魔法の力の判定は人生を左右する。魔法の力の判定は、あらゆる国・組織から絶対中立を貫く「アウルム教会」が行うことになっている。この世界に住む人は、15歳を迎えると必ず教会で魔力判定を受ける。その結果により、この王立魔法学園に入学資格があるかきまる。大抵の貴族は入学できるため、そのまま自宅からもしくは王都にある別宅から学園に通う。


 一般市民の場合は国で保護され、学園内の寮に住むことになる。そして、卒業とともに爵位と適正と本人の希望により仕事が与えられる。

 しかし、サクラは違う。突然学園の湖に光を放ちながら現れた。あまりの神々しさにすぐに教会に保護された。大司教自ら魔力判定を行った結果、サクラの魔力は「光」だった。このことに世界は湧いた。「光」の魔力とは伝説の存在と言われているからだ。太古の昔、まだこの世界に「魔王」が存在していた時に、神が勇者に与えた魔力が「光」の魔力だと伝えられている。そのため、教会はすぐに彼女を保護し「聖女」の地位を与えた。そして、彼女にこの国の常識と魔力制御を学ぶためにこの学園に中途入学した。


 中途入学した時は、この学園に通うすべての令嬢は彼女に優しくした。特に上位貴族の令嬢たちは何かと気にかけた。か弱きものを守ることはこの国の貴族の義務である。

 しかし、彼女サクラときたら、こちらから声を掛けても返事をせず、殿方のほうに飛んで行き、こちらが先生と話しているときにわざわざ話しかけてきて、サクラの相手ができないと「私が異邦人だからって無視するなんて……なんてひどいの」と泣きながら走り去っていった。


 そんなやり取りが10回や20回くらいなら、この国の令嬢は笑って許せます。しかし、流石に100回を超えると……もう誰も相手にしなくなりました。

 令嬢だけでなく、良識ある貴族令息らは彼女から距離を置き、彼女の側に残ったのは、顔だけかわいい彼女と火遊びを楽しみたいと思っている良識のない貴族令息達だけです。もちろん、モーリス王子は良識あるお方です。モーリス王子も彼女から距離を置いていたのですが、どこで接点を持ったのでしょうか。不思議でなりません。


「申し訳ありません、アレット様、私とモーリス王子は真実の愛で結ばれているのです。賢いアレット様なら自ら身を引いてくれますよね?」

 と、全然申し訳なさそうではない表情で言われました。隣にいた、モーリス王子のほうが申し訳なさそうな表情で私を見ています。


「真実の愛?そんなの本当に、あなたとモーリス王子の間にあるの?」

「なんですって!!!」

 サクラを挑発するように鼻で笑うと、サクラは激怒しました。

「そもそも、あなたは何か勘違いしています。王妃に必要なのは真実の愛ではありません」 

「何よ!!真実の愛以外に何が必要なのよ!!」

 ヒートアップする私とサクラをハラハラと見守るモーリス王子。それと反対に、明日のダンスの相手を探す生徒たち。


「優秀な子供を産むことに決まっているじゃないの」

「!!!!!!」

 私の一言に顔を赤くし言葉の出ないサクラ、私の一言に頷くモーリス王子と令息・令嬢達。

 


 さて、口撃開始です。


「王妃に必要なことは、国王を陰で支えていける知識・健康で優秀な子供を産める体よ。何より、子供を産めることが重要よ。まぁそこに愛があればベストだけど……。この国にとって愛は必要ないわよ。だけど、心配しないで。私とモーリス王子の間には、きちんと愛が存在するから」

 私の言葉に頷くモーリス王子。


「そもそも、この世界の人間でないあなたは、モーリス王子の子供を産むことができるの?この世界は、あなたの元いた世界とだいぶ違うのでしょう?生殖器は私達と同じなの?生理はあるの?子宮はあるの?姿かたちは似ているかもしれないけど、生殖行為が違うかもしれないでしょう?ここで『聖女』なんてよばれ女性扱いを受けているけど、もしかしたらあなたは男かもしれないでしょう?」

「私は、女よ!!!」

私の「聖女男疑惑」発言に、叫ぶサクラ。しかし、わたしは言葉を止めない。


「モーリス王子と結婚したかったら、子供ができることを証明しなさい。手っ取り早い方法は、実際に子供を産むことだけど……。そうなったら、処女ではなくなったあなたは、良くって妾妃扱いかしら?」

「わ、私は子供産めるわよ」

「すでに、子供産んだことあるの?それなのに王妃の座を狙っていたなんて




なんて図々しいの。


恥をしれ」

 サクラは私の迫力に押され、完全に黙り込んでしまった。

 もうサクラなんてどうでもいい。


「モーリス王子、なぜ私との婚約を破棄するなんて言い出したのですか?」

 サクラの隣で小さくなっていた、モーリス王子の手を両手で包みながら聞いた。

「昨日、サクラに言われたのだ。このまま、アレットと結婚するとアレットは死んでしまう。アレットを救うためには、婚約破棄をしてサクラと結婚するしかないと」

 モーリス王子はポツリポツリと話し始めた。

「彼女の言葉を信じたのですか?そんなの、彼女の妄想か狂言にすぎません」

「僕も、最初はそう思っていた。だけど、彼女はそのことが書かれた神託紙シンタクシを持っていたのだ」

「神託紙を?」

 私の疑問形の言葉に頷くモーリス王子。


 「神託紙」とは神からの神託が降りる紙だ。神託があったことは、大司教の夢の中で告げられる。そして、厳重に保管されている神託紙を上級司教数名と一緒に大司教が確認する。普通だったら、大司教の確認が終わったら、教会からその日のうちに神託が発表される。神託の発表が終わると100昼夜清められた水を使い新たな神託紙が作られる。

 教会から神託の発表がないということは……


「百々(ドウドウ) 咲良!!神託紙を盗んだ罪でお前を拘束する!!!」

 いきなり、レオ大司教と教会の私兵たちがガーデンパーティーに乱入してきた。



「放してよ!!私は何も悪くない。ただ、乙女ゲームのストーリー通りにモーリス王子と結婚しようとしただけよ」

 教会の私兵は逃げようとするサクラを拘束する。

「だまれ!!咲良。同じ世界から来た同士として大目に見ていたが、神託紙を盗み、それを私利私欲のために使うとは……反吐がでる」

 サクラと大司教はお互い叫びながら会話をしています。


乙女ゲーム?


 ストーリー通り?


 同士?

 など、私にはわからない言葉で会話をしています。


玲央レオ、私を見捨てるの!!同じ世界の住人だったのでしょう?私を助けてよ!!」

「もとは、同じ世界の住人だった。ゲームだと思い面白半分に愛し合う二人の仲を裂こうとするサクラと、すでにこの世界の住人として生きている私とはすでに違う世界の住人だ。

連れていけ!!」


「モーリス王子!!助けて」

 大司教の一言で、私兵に連れていかれるサクラ。最後の悪あがきにモーリス王子に助けを求めるように手を伸ばすが、モーリス王子はその手を叩き落としました。サクラは手を叩き落とされたことに茫然とした表情を浮かべながら、教会の私兵たちに引きずられるように連れていかれました。




「ねぇ、アレット……さっきの婚約破棄の発言だけど、取り消してもいいかい?あっ騙されていたとは言え、何も相談しなくって急に婚約破棄と言ってしまってごめんね。怒っているよね?

 アレットが本当に怒っていて、僕ともう結婚したくないって言うなら本当に婚約破棄をしても仕方ないか」

 サクラの姿が見えなくなってから、モーリス王子は申し訳なさそうに、婚約破棄も破棄を求めてきた。その様子がとてもおかしくてついクスリと笑ってしまった。

「モーリス王子、私は怒っています。許してほしかったら私にキスしてください」

 私の一言に表情が明るくなった。

「ん……」

 そして、モーリス王子は私の唇にキスをした。


 ガーデンパーティーの会場となっていた学園の中には、生徒たちの拍手が響いた。


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