-02.拍手で迎えられた
俺たちは翌朝、日本に届いていた高校卒業検定の合格通知書とそのコピーをもって再びMITの事務棟に向かった。
するとユリウスさんが俺に近づいてきて、ついてくるようにと促された。
俺は意味が分からず、全員でユリウスさんの後をついていった。
結構大きめな講堂のようだ。こんなところでみんなは授業を受けてるんだろうなと感動してみていた。
扉を開けて促されるままに教室に入ると拍手をもって迎え入れられたようだ。
見ると本来なら生徒が座っている席に柾田教授とほかにも大人の人が座っている。
え?結構多いぞ?
一人の男性が歩み寄ってきた。
「君が君たちの代表者かね?」
「はい、NorioTamadaと言います。日本の高校一年生です。こちらの仲間は…。」
「ああ、紹介はあとでいいよ。君たちは一体何者かね?どういう目的で我がMITに乗り込んできたのかね?」
と、ケンカ腰で尋ねられた。
う~ん。確かに日本かどこかから送られたスパイにも見えるのかな?
このあたりははっきりしておかないとね。
MITはアメリカの兵器技術を研究しているところでもあるからね。
「何者かという質問には日本の高校生ですとお答えします。目的については世界一の頭脳が集まるここMITのすべてを学ぶために来ました。」
「すべてを学ぶ?どういうことかね。」
「私たちは日本でいつも一緒に行動していて、マジカル・ワールドという会社を作っています。日本で高校の勉強はすでに終えています。そしてその時、大学はどうするかと考えた時、できるなら世界最高峰の授業を受けてみたい。そこの知識を学びたいと考えて今日まで努力してきました。そして先ほど私が言った「すべて」とは、できればすべての学科をそれぞれが網羅して勉強していきたいということです。」
「う~~ん。そんなことした生徒は今まで一人もいない。なぜそこまで学びたいのかね?」
「単純な話です。「興味があるから」です。それ以外に意味はありません。あ、もし何か思いつけば商品を開発して売ることはあるかもしれません。」
教授たちは笑った。
「なるほど。確かに単純な動機だね。それにしてもすさまじいね。君たちの入試結果は全員満点だったよ。所要時間も含めて100年以上の歴史を誇る我が大学で初めての快挙だ。おめでとう。」
再び皆さんから拍手をいただいた。
「ありがとうございます。ここまで話をしていて申し訳ないですが、あなたは誰ですか?」
この質問に大人たちは全員が笑った。
「これは失礼した。私はMITの大統領、R.ラファエルレイフという。気軽にリチャードと呼んでほしい。」
そう言って握手を求めてきたので応えた。
「光栄です、リチャード。そしてごめんなさい、MITのプレジデントだとは知らなくて。申し訳ないです。」
「ハハハ。知らなくても仕方がないよ。ここに通ってる生徒でも私のことを事務員とでも思っている奴らは大勢いると思うよ。」
と、又笑いが起きた。
「君たちの入学は許可された。本来なら理事会のみんなにも紹介したいところだけどあいにく夏休みでバカンスに出ているものも多くてね。今も大学の研究室にこもっている奴らを引っ張り出してきたのが彼らなんだ。」
ようやくその他大勢の大人の意味が分かった。
「それで一つ質問があるんだけどいいかね?日本の大学模擬試験の会場で君は実に興味深い話をしたと聞いている。「教え方で人はもっと理解できる」と。これは教育に携わるものすべての悲願でもあるんだよ。それをここにいるぼんくら教師たちに教えてくれないかね?」
そう言って世界最高峰の教授陣を前にして言い放ち俺にウィンクしてきた。
「そうですね。わかりました。少しだけ話をさせてもらいますね。」
俺はすぐ横にある教壇に立って、話し出した。
「これは、特別な事じゃないと思うんです。生徒の興味を引き、理解を深めるためのヒントを与え、そして自分で考えさせる。こんなことはとっくに皆さんはされていると思います。もし私がそれに付け加えるとしたら「演技(Act)」です。」
みんなが真剣に聞いているのを見て、ラーニングと以心伝心を発動した。
「演技といってもおどけたりピエロになることじゃありません。人の気を引き付けるための演技、人の興味を湧かすための演技なのです。例えば手の使い方。こうする、こうする、こうする。すべてアメリカ人がよく使うジェスチャーだと思いますが、それも実は演技の一つなのです。もう皆さんにはお分かりだと思いますが授業中寝ないで真剣に教授の話を聞き、考え、たとえ間違っていても自分で答えを出す環境作りが欠けていると私は日本の高校教師に話したのです。そしてこれはビジネスの場やエンターテイメントの世界でも通用することだと考えています。ここで教鞭を執っている世界最高峰の頭脳集団の皆さんは人生の大半をその研究にささげていることと思います。だからこそ人を引き付ける話術、ジェスチャーなどを含めた演技が必要と思います。ぜひ皆さんでタイツを履いてアクタースクールのバレエのレッスンから始めてみてください。」
俺はそう言って演壇を下りた。
みんなは大笑いでそれぞれがタイツを履いて踊っている姿を想像したのだろう。
「君はその理論というか実践をどこで学んだのかね。」
「日本の小学校、中学校、高校までの詰込み学習で、です。」
「ハハハ。辛らつだな。そんなにひどいのかね、日本の教育現場は。」
「そうですね。共産主義者が教育委員会という教科書を作る組織を牛耳っていますからね。そんな中では私たちのような生徒は突出してしまうのです。」
「…なるほどね。いや、実に有意義な講義だったよ。みんな改めて拍手しよう。」
俺はみんなからの拍手を受けた。
「さて、君たちはいつから我がMITに通ってこれるのかね?日本の教育は4月が始まりと聞いているが、来年の4月までまたないといけないのかね?ここにいる教授たちに結構せかされていてね。」
「私たちは8月末に一度日本に帰ります。私たちがいる学校にまだ退学届けも出していないのです。それと高校卒業検定の合格も伝えていません。」
「なるほど。では9月中頃ならキャンパスに戻ってこれそうかね?」
「まだ少し予定が見えませんが、それぐらいになら戻ってこれると思います。それとこれはお願いなのですが…。」
「なんだね?言ってみなさい。希望があれば寮へのあっせんもしているぞ。」
「いえ、住むところはすでに買い取っています。リフォームも終わり昨日バイクの免許も取ってきています。お願いというのはMITの入学を許可したという証明証を書いていただきたいのです。」
「なるほどな。このままでは君たちのテストでの結果を疑う教師には大ウソつきにされてしまうな。通常の生徒が入学するときに発行する入学許可証と我が校の学生証(ID)を発行しておこう。もう君たちはここの生徒だ。」
俺たちは全員で頭を下げてありがとうございますと日本語で言った。
「しかし、君のお母さんたちや君の妹もテストを受けに来ないかね?」
「それは日本に帰ってから聞いてみますね。妹ならすぐにでも来るといいそうですけど。」
「なるほど。では試験の準備をして待っておこう。日本の教育界には申し訳ないが、認めないのならそれ以上そこにいても仕方がないからね。遠慮なく我が校で獲得させてもらうよ。」
そう言って笑いながら各々が教室を出ていった。
ユリウスさんが最後に残り、これからの手続きのことを教えてくれた。
それから俺たちは学生証を作るブースに連れていかれて、学生証を発行してもらい、入学許可証を発行してもらった。
9月からの入学カリキュラムを渡されて、9月半ばに来るのならそれまでに単位の申請は終わってしまうので、8月中の日本に帰るまでに提出することと言われた。人気のある教授のところは競争率も高いけど君たちはフライングの上に教授たちが来てくれというだろうから構わないと笑っていった。
アメリカ人ってジョークをはさまないとしゃべれない人種なのかな?
しおりが
「紀夫みたい。」
ときつい言葉を吐いた。
学生証発行の際、拠点としている家を教えた。いつでも議論したいときに立ち寄ってくださいと教授に伝えてもらった。
ユリウスは大笑いしてMITの教授にいつでも寄って議論していけっていう学生は君ぐらいだよと言われてしまった。




