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ゼンカの業――律業の聖煉者――  作者: 麻海 弘タカ
第1章
32/45

遠い理想

 草花が生い茂る大地に、穏やかな風が吹く。

 暖かな陽の光に照らされていると、ただ立っているだけでも心地よさを感じた。


 この世界には、何の柵もない。

 どこの誰が見ても、一目で美しいと思える光景。まるで楽園だった。


「――気に入ってもらえた?――」


 気づかぬ内に隣に立っていたミトロスニアに問いかけられる。


「――これが、不肖の私が目指す世界の風景。ヨスガくん達に邪魔されなかったら、訪れていた理想の未来――」

「……綺麗だね」


「――うん♪ クリフォライトが消えれば、幸せな未来が待ってるの。たくさんの子達が、笑顔で生きていける――」


 だからミトロスニアは、世界中の業光を消してもいいと思っている。

 生命に有害な業光が溢れる世界だ。無理に今を生きる必要はない。


 未来に生きる者達のために犠牲になった方が、世界中の人間は幸せに感じるはずだろうと本気で思っているのだ。

 だがそれは、幼い少女が思い描く理想の人情。


 現実に、そんなに人間はいない。誰もそんな風には割り切れない。

 ミトロスニアは純粋すぎて、分かっていないんだ。


 ヨスガは余計な言葉を発することなく、広大な草原を歩き始めた。

 その後ろを、ミトロスニアがひょこひょこと付いて来る。


「――この辺りは、元々アヴケディアがあったとこ。それで、あっちは――」


 しばらく歩いても、誰ともすれ違わない。ここには自分とミトロスニアしか存在していないのかもしれない。

 ヨスガがそう思った時、遠くに見知った人影が見えた。


「イェフナだ」

「――声をかけてあげたら? ちょっとなら、許容してあげちゃうよ――」


 背を向けて遠ざかっていくイェフナ。ヨスガは駆け足で追いかけていった。

 何度も名前を呼びかける。しかし、どれだけ声を大にしても振り向いてくれない。


 だから一生懸命に追いかけた。

 すると不意に、イェフナが立ちどまる。反射的にヨスガも足を止めると、振り返ることなく声をかけられた。


「ついてくるな」


 なぜか不機嫌そうな声をしていた。


「ガチで迷惑だぞ」

「――よかった」


「……なにが」


 イェフナを見る限り、怪我をしている様子がない。

 それを確認できて、心から漏れた安堵の言葉だった。


「イェフナ、元気そうだ」


 そう、こうして出会えたことがよかったのではなく。

 元気なイェフナを、この目で確認できたから。


 目の前の大事な人を、目に焼き付けておきたい。

 そう思い近づこうとすると、背後から両手で顔を掴まれる。


 無理やり振り返らされると、ミトロスニアが頬を膨らませていた。


「――はい、そこまで。これ以上は許さないもん――」


 イェフナとうり二つの顔が、ゆっくりと近づいてくる。

 どうしていいか分からず、ヨスガは思わず目を瞑ってしまった。


 ――………………


「よ……さ……ヨス……さま」


 目を開くと、視界がぼんやりと霞んでいた。聞き覚えのある声だけが、はっきりと聞こえる。


「ヨスガ様っ」

「この声……」


 広場で聞いた、凛とした雰囲気の少女。


「リーゼ、さん?」

「意識が戻って――っ! お待ちくださいませ! お医者様を呼んできますわ!」


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