表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼンカの業――律業の聖煉者――  作者: 麻海 弘タカ
第1章
31/45

嫌悪

 業光樹は霧散して消滅し、ヨスガは解放される。

 手探りで辺りを探ると、長細い物体に触れる。それが業剣だと分かり、握りしめた。


「レム……メアトさん」


 躰に力を入れて、何とか上半身だけを起こす。


「律業の巫女は、まだいる。まだ感じる……」


 戦う意志を証明するように剣をかざす。だが微かに気配を感じても、律業の巫女がどこにいるのかは分からない。

 疲労、焦り、緊張。様々な要因が呼吸を荒く、浅くさせる。暗闇に満ちた視界で、ヨスガは意識を集中させ、神経を研ぎ澄ませようと奮闘する。


 そして背後に感じた僅かな気配。ヨスガはタチガネの業剣を力任せに振るった。

 しかし、その気配はすぐに消える。代わりに大地を踏みしめる音が、ヨスガにゆっくりと近づいてきた。


 その正体はすぐに分かり、ヨスガは剣を下げる。


「ヨスガ、さん……」

「レム……よかった、無事だった……生きててくれた」


「ゴウレムに死はありません。あるのは、業光を失って活動を――」


 的外れの方向に躰を倒そうとするヨスガ。レムは気づき、急いで支えた。


「それでも、心配なんだよ……レムが無事で、嬉しいんだよ……」

「う……わ、ワタシには、よく分かりません」


「律業の巫女は?」

「……消えました。ですが、完全に消滅はしていません」


「ならメアトさんも無事に――」

「第4罪徒、メアト・フリジエルは消息不明です。彼女と同時に、姿を消しました」


「……そっか」


 安否が気になるが、今は確かめようがない。他にすべきこともある。


「レムにお願いがある……イェフナのところに、連れて行ってほしい」


 ここに大事な人がいる。目が見えなくても、無事でいることだけでも確かめたかった。


「傍に行きたいんだ」

「……はい、お任せください」


 レムの肩を借りて、ヨスガはゆっくり足を進めていく。そしてしばらく歩いたところで、歩みが止まった。


「ここからは、ヨスガさんお一人を先に……最上部まで運びます」


 何かが破壊されて崩れる音と、地面にぶつかった音が聞こえる。


「今のワタシではルーラハが足りない。大気中のルーラハを吸収する必要がありますので」

「ごめん、無理させて」


「気にする必要はありません。……後で報酬をいただくので」


 ヨスガの足元が僅かに揺れる。


「業剣を抱えたまま、膝をつけてください。王国の残骸で腕を発現させます」


 微かな衝撃と共に、浮遊感に包まれる。再び衝撃が伝わると、浮遊感も消えた。


「やっと、会える……」


 もう何年もあっていない気がする。イェフナの姿を想像しながらレムの到着を待った。

 本当はいち早く会いに行きたいが、視界を失った状態では難しい。


「  いや  」


 イェフナの声が聞こえた。


「  来ないで  」


 辛く、苦しそうな声。


「  助けて  」


 助けを求めている。それを聞いて、じっとしてはいられない。


「助ける……今、助けに……」


 不安定でおぼつかない足取りで、声がする方向へ進んでいく。

 そうして辿り着いた場所。


 手のひらを前方に突き出して押すと、壁のような隔たりを感じた。

 その先でイェフナの声がする。


 手で押して動いた壁を、さらに押し込もうと力を込める。


「あ、れ……」


 そこでヨスガの体力が底をつきた。壁に手をついたまま、前のめりに崩れ落ちる。

 目は見えず躰はピクリとも動かせない。意識があるのか失っているのか分からなくなってくる。


 この先にいる。大事な人が。もう少し力を込めれば会える。

 何のためにここに来た。何のために戦って、頑張って来た。


「生き、て……会いたいと、思ったからだ……!」


 躰中が軋む。ひび割れる音が響く。でも先のことは考えない、今出来ることに全力を出す。

 手のひらに感じていた反発が消えて前によろけたのは、最後の障害を乗り越えた証明だ。


 目の前には、完全に阻むものがなくなった。


「これで……」


 会える。助けられる。

 目は視えない。だが、助けを待っているイェフナの姿は鮮明に想像できた。


「イェフ……――」


 前に進もうとするヨスガ。


「な……――ッ!?」


 その歩みを許さない者がいた。何者かに後ろ首を掴まれ、乱暴に引き離される。

ヨスガは抵抗できずに、力なく地を這った。


 そして何者かの足音がヨスガの横を通りすぎ、すぐに引き返して去って行く。


「  お願い  」


 同時に遠ざかっていくイェフナの声に手を伸ばし。


「  気持ち悪いから、もう来ないで  」


 明確な拒絶の言葉と共に、張り詰めた意識が限界を向かえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ