擬制を超えた情景
過去を思い返していた。
律業者となり、周りから無意識に目を逸らされる業――レイシクロワールを用いて殺戮を行った時のことを。
「……助けない方がいいって、忠告したよね……」
レムによって地面にたたき落とされたメアト。
だが、そのレムによって癒しの業光を注がれている。
ゴウレムの隣にはヨスガの姿。既に両目は治癒され、砡眼の冷砂よって負わされた傷が塞がっている。
「メアトさんだって、攻撃を外してくれました」
レムの一撃が見舞われた、その直前に放たれていた冷砂球は、ヨスガに直撃せずに施設の壁を破壊していた。
「俺は、見たくないものは視ない主義なんだ……」
メアトは左眼に手を添える。
「ずっとそうしてきた……目を背け続けてきた」
それは律業の力ではなく。メアト自身の業でもあった。
都合の悪い出来事に対し、見てみぬ振りをする。
「……なのに、どうしてか……ヨスガちゃんの姿が視えてさ……」
それで外してしまった。
眼を開けて、メアトはゆっくりと起き上がる。
それだけの動作でレムは過剰に反応し、ヨスガを守るようにメアトの間に手で阻んだ。
「認めてもらえたわけじゃ、ないんですよね……」
俯いたままのヨスガ。そこまで落ち込むかと、メアトは苦笑する。
「……顔くらい上げなよ」
「――え?」
焦点があってない視線。その先には誰もいないというのに、一直線に見つめ続ける。
「……なるほどね」
見えてないのか。
手甲を纏っていないレムの片方の手は、契約者の汚れた手に添えられている。
「はい……。これから先、レムにすごく迷惑かけそうです」
ヨスガは複雑そうだが微笑んでみせる。
「……はは、同情してもらいたい?」
「ワタシの契約者は、同情される状態なのですか?」
純粋な疑問だったのだろう。
飄々とした笑みを浮かべていると、レムに問われた。
メアトのうすら笑いは消え、表情が凍りついたように固まる。
いつからこんな、冷めた視点で物事を歪曲するようになった。
自分で嫌気がさしてしまう。
ヨスガは視力を奪われてもなお、己を否定する敵を視ようとしていた。
同情などではなく、尊敬に値する熱意だ。
俺は、そんな寒いことをする奴を認めてしまったのだ。
改めてヨスガとレムを見据えたメアト。
その視線の先に、白い業光が集まって人の形を成していく。
「――ッ!」
反射的に小径を接続し、業光の集合体に砡眼の冷砂を放つ。
レムも即座に反応したが間に合わず、青い閃光もすり抜けて、人型の光がヨスガの躰に片腕をめり込ませた。
「――ご苦労さま――」
「なに、が……」
律業の巫女はヨスガに微笑みかける。
「――たくさん頑張ったね――」
ヨスガから白い業光を吸い上げていく律業の巫女。
メアトは再びヨスガに狙いを定め、攻撃を仕掛けた。
「契約者は守れよ!」
ヨスガとミトロスニアを守るため、レムは拳で地面を貫く。
巨大な石腕に覆われる寸前に、巫女の業光を受け継いだ契約者は一瞬でその場から上空へ転移する。
そうして解放されたヨスガを、レムは抱えるように支えた。
「負傷――……していない」
治癒のため腹部に手を添えると、あるべきはずの傷跡がない。
「……やっぱり、律業の巫女がいる」
ヨスガ達を穏やかな表情で見下ろす律業の巫女。
「まだ終わってなかったみたいだよ、ヨスガちゃん」
「けど、擬制同化の柱は消えた。司教さんもいないのに……どうして」
「偽りの律業者とは別の柱です。彼女は元から、その柱で発生したセフィライトだった」
ヨスガに肩を貸しながら、レムは的確に状況を判断する。
「人間全てを同化させるなんて……まだそんな、寒いことをするつもりかな」
「――ふーんだ。とっても無礼な発言だけど、不肖の私だから赦してあげます――」
「あ、そんな赦しはどうでもいいよ。俺が聞きたいのは、まだフォルフヨーゼを支配する気かってことだ」
語気を強め、メアトは睨む。
「――支配……そう言われても仕方がないわね。確かに、多少お座なりな方法だったもの。世界を救済するって言うなら、もっと徹底したやり方じゃないとね――」
人さし指を立て、律業の巫女はしたり顔でヨスガ達に語り出す。
「――フォルフヨーゼだけじゃだめ。この世界全てのルーラハを昇華させて、消滅させなきゃ――」




