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ゼンカの業――律業の聖煉者――  作者: 麻海 弘タカ
第1章
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まだ終わってない

 イェフナのことを想う。

 ミトロスニアの意志に導かれる感覚に身を任せ、気がつくと、かつて収容されていた施設に似た場所に立っていた。


 青い渦に乗って眼を閉じているメアトに、ヨスガは話しかける。


「ミトロスニアは止めた」

「どうして、ここに――」


「もう、イェフナは関係ありません」


 メアトに見下ろされながら、ヨスガはただ、事実のみを語る。


「マルクティアに広まった擬制同化は消えた。もう、全部終わりました」

「いや、なんでヨスガちゃんに分かるのかな……」


 冷たい視線を、ヨスガは真っすぐに受け止める。


「イェフナを見つけるために、ボクも同化を受け入れたからです。だから分かります」

「……そんな業を背負い込んでまで、イェフナちゃんを守りに来たってわけか」


 空中に漂う渦から、砡眼の冷砂が数発放たれる。 


「なら、まだ終わってないよね」


 その場から一歩も動かずにいたヨスガの頬を、閃光がかすめた。


「ミトロスニアの暴走が収まったとして……」


 傷ついた頬の傷は修復されていく様を、メアトは左眼で捉えている。


「ヨスガちゃんがいたら、また同じことになるかもしれない」

「分かってます……その時は、ちゃんと受け入れる。これ以上迷惑は――」


 メアトを見上げていた瞳から、衝撃と共に光が失われた。その後遅れて、神経が焼け切れるほどの激痛が奔り、ヨスガは膝を折る。

 苦痛の声を大きく漏らしながら、ヨスガは閉じた瞼の下で傷ついた両目を手で覆う。


「グランドマルクティアとヨスガちゃんは、俺からしたら十分迷惑な存在だよ」


 うずくまるヨスガに対し、容赦なく降り注がれる砡眼の冷砂。


「フォルフヨーゼが救われたのは結果論だ。正直に言って、俺は別にどうでもよかったんだけどね。この国の連中がどうなっても」


 業光を纏った飛礫が、幾度も打ち付けられる。


「俺だけが助かるなら、それでいい。俺はこんな寒い世界でも、自分を見失うわけにいかないんだよ。……だからさ、今はミトロスニアの危機が去った安心感より、怒りの方が強いんだよね」


 立て続けに全身を傷つける石の雨に打たれながら、ヨスガは立ち上がろうと足に力を入れる。


「立たなくていいよ」

「……いや、だ……」


 立ち上がり、潰れた両目を閉じることなくヨスガは顔を上げる。


「ボクに出来ることは、信じてもらうこと……怒るのも、許せないのも当然だけど……それでも、信じてもらうしか、ない……」

「……そういうの寒いわ。もういいから、こっちを視るな」


「メアトさんに、認めてもらえるまで……何度でも立ちます――」


 一際重い衝撃を腹部に感じ、片膝から崩れ落ちる。


「他の奴が認めても、俺は認めたりしない。だからさ……」


 空気が震え、全身が寒気に包まれる。目の前で何が起こっているのか知ることは出来ないが、とてつもない圧力を感じた。


「グランドマルクティアみたいに、この世界から消えてくれ」


 それでも再び両足で大地を踏みしめる。そこで聞こえた名前に、思わず反応してしまう。


「レムが……」


 メアトの発言に違和感を覚えた。ヨスガはそれが思い違いだと分かる。

 何故なら、聖域から戻ってきてからずっと、レムの存在を身近に感じているからだ。


「慈悲なき冷気の業――砡眼の冷砂球。レイシクル・ラウ――」


 今まさに放たれようとする必殺の業。視力を失ったヨスガには知る由もない。

 絶体絶命の状況でメアトの頭上に現れた、翼が彫刻された鎧を纏う救世主。


 神々しい外装のゴウレムが、律業の系譜、メアト・フリジエルに狙いを定めて急加速で拳を振り下ろした。

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