マルクティアの剣
長く綺麗な白髪と、澄みきって透明な瞳。
整った顔立ちで凝視され、ヨスガは思わず視線を逸らす。
「目を逸らすな。そこのゴウレムは、貴様が鋳造したのだろう」
フォルネリウスの言葉に驚き、視線を向け直す。全身を改めて見るが、どう見ても人間の異性にしか見えない。
そんな彼女を指して、フォルネリウスはゴウレムと呼んだのだ。
「この子が、ゴウレム……?」
「ワタシを、助けてくれた人間……キャストール」
驚くヨスガに、涼しげな表情だった女が僅かに微笑んだ。
「やっと、会えましたね」
女型のゴウレムに、ヨスガは優しく抱きしめられる。すると鍍金に覆われた躰の内側から、ある感覚が蘇ってきた。
それは体内の業光が失われ、存在そのものが消滅していく感覚。
人間としか思えない外見の彼女は、間違いなくグランドマルクティアだ。
ヨスガがそれを間違うはずがない。
「本当にグランドマルクティア、なんだね」
ゴウレム、グランドマルクティアはゆっくりと身体を離して肯定するように頷いた。
ヨスガを見つめる瞳が一瞬、虹色に発光する。
「こうして存在を赦されているのは、キャストールのおかげです」
感謝します。そう言ってゴウレムは丁寧に頭を下げた。
「……いいんだ。あれは、ボクがしたくてやったことだから」
目覚めてから初めて感じる温かな気持ちを覚えながら、ヨスガは考える。
原型鋳造の力を用いてゴウレムの修復をした。未熟な腕前で何か失敗していたとしても、こんな変化など起こり得ないはず。
「どうして人型に……」
「業欣で構成されたグランドマルクティアの核を、貴様が原型鋳造で本来の形に戻した。それだけのことよ」
無意識に口から漏れたヨスガの疑問。フォルネリウスは僅かに顔をしかめて、あっさりと答えた。つまりゴウレムと呼ばれていた存在は、人間の女の子で――
「妙な思い違いをするなよ。姿形は人間だが、ゴウレムである事実に変わりはない。それ故に貴様は、グランドマルクティアを守護する盾に選ばれ、同時にマルクティアの剣となった」
ヨスガの意識が、傍にいるゴウレムからフォルネリウス王との会話に引き戻される。
「貴様はゴウレムの、新たな契約者だ」
「契約……?」
「そう、かつての律業の巫女、セラフィストと同じ。貴様はゴウレムと小径で繋がり、人の身を超越した。降誕祭によって、グランドマルクティアに蓄えられた膨大なルーラハ。その多くは原型鋳造の際に失われてしまったが、未だ躯体には十分な業の光が満ちている。それが貴様の肉体にも流れ込んでいるのだ」
「そう……なんですか。本当なら、すごいことだと思います」
「疑う必要などない。貴様はゴウレムの鋳造を行い、その際に律業の力が覚醒した。小径を接続できるのは、系譜でなければ不可能だからな」
悪い冗談としか思えない。どこか他人行儀で、フォルネリウス王の話を聞いてしまう。
「王の敵を討つ矛として資格を得た。それ故に、フォルフヨーゼの脅威を排除することが貴様の命題となる」
更新されていく情報がとても多い。
頭に入ってきたのはイェフナや、律業の巫女と同じ存在になった。これまでにはなかった力を手に入れたことだ。
「今この国に、いや……余に仇を成す反逆者共がのさばっている。そやつらを消し、余は一刻でも早く、再び降誕祭を行わねばならない」
「――……は?」
思わず聞き返してしまう。
「なにを、言ってるんですか?」
あれだけの事態になったにも関わらず、フォルフヨーゼの王はすぐにでも降誕祭を行うつもりだと言う。
「降誕祭も確かに大事です。……だけど、それでも優先するべきじゃない」
広場の惨状。傷ついたイェフナの姿が脳裏をよぎる。
ゴウレムが暴走した原因、あのどす黒い光の正体だって分かっていない。再び同様の現象が起こる可能性は十分にある。
あの悲劇を繰り返す危険があるなら、現状で降誕祭をやり直すなどありえないとヨスガは思う。
「グランドマルクティアへの祈りは、この国の繁栄を維持するため。幾度も続けられてきた伝統の祭事。それを打ち切るなど、あり得ぬ」
「けど、だからって……――」
言いかけた途中。奇妙な感覚が、ヨスガの全身を駆け巡った。
「嫌な気配がします」
「……我が主、奴らを感知しました」
それは隣にいたゴウレムと、アレクセイも同様らしい。
グランドマルクティアに溶け込んでいった、どす黒い光の集合体。ヨスガに振り返って微笑んだ時の姿が、ふと脳裏に思い浮かんだ。




