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輪廻カンカン  作者: サーモン横山
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4話 宇宙戦争

 気にしてはならない。本編はあまり長くないことを。


 時は遥か未来の銀河都市。


 突如として現れた異星人によって数多の惑星が落とされ侵略されていった。ここ第七宇宙の地球「夏子」もその脅威に脅かされていた。


 この星の惑星守備隊が「夏子」の衛星軌道からの侵略に備え、艦隊を宇宙に並べている。その様子は「夏子」に住む人、全ての希望の象徴である。地表から光の粒として見えるガーディアン達に人々は祈りを捧げていた。


 艦隊の中心は護衛艦。攻撃特化の戦艦は既に戦闘で全て宇宙に散っていった。それでも彼らは諦めなかった。人としての種を守る為に。旗艦「安藤」には船長のみが乗り込み、敵の異星人に特攻を仕掛けようとしていた。


 今年で五十歳を迎えた船長の胸に去来するは愛しき妻と産まれたばかりの二人の孫。双子の女の子であった。旗艦のメインディスプレイに画像データを浮かべ、船長は椅子にかけてお酒を飲んでいた。


 既に散っていった多くの戦友と双子の孫を残して戦場に消えていった息子に捧げるように。



「敵影捕捉しました」


 軍用AIまち子さんが滑らかなアナウンスで船長に警告をしている。サブディスプレイには画面を埋め尽くさんばかりの異星人の宇宙船が映されていた。


「……来たか。旗艦安藤、最終モード起動」


「最終モード起動します。……よろしいのですか? 今なら脱出挺に乗れますが」


 まち子さんのAIとは思えない程の自然な発音からなる言葉に船長は、琥珀色の液体の入ったグラスを掲げていた。


「長年のパートナーだ。最後も一緒だよ」


 優しく微笑む船長がグラスを傾ける。


「……艦長」


「船長だよ。お前さんは守る為の船だ。最後も守るために戦うんだ」


「……了解しました」


 船内のディスプレイが色を変え最後モードへと移行する。


「やつらに目にもの見せてやろうか。二人でな」


「はい、船長」


 二人の間にはそれだけで良かった。



 旗艦安藤が「夏子」から一隻だけ離れていく。


 その後ろ姿を見守る護衛艦の中ではディスプレイに映る姿に向けて船員達が敬礼をしていた。泣きながら、顔を歪めながら。


「これより当船は旅に出る。みな、達者でな」


 旗艦安藤より通信が全ての艦に届く。異星人の軍勢に飲まれる一隻の船。その姿は大海に翻弄される小さな船に見えた。


「あいつらに我らの誇りを見せつけてやろう」


 通信が続く。


「あのおっぱい星人達にな!」




「ばぶぅあ!」


(はぁはぁはぁ。なんて夢だ……。なんて……なんて恐ろしいオチなんだ。おっぱい星人が侵略しているなんて。しかもすごい軍勢。あれか? ちっぱいは認めない! とかそんなんなのか? でもあれもおっぱいではあるし)


 びくんと痙攣して声をあげた赤ちゃん。端から見たら心配になるレベルである。


(ヤバイ続きが気になる! めっさ気になる!)


(夏子って誰よ! 安藤って何よ! あの後どうなったのさー! 船長ー! まち子さーん!)




「あっ、起きた!」


(おっ? おおお? なんか囲まれてる? 元から木製のベビーベットの枠に囲まれてるけど、それよりでかいのが四方にガッチリマークって感じ。三人? あっ、更にでかいの発見)


 赤ちゃんの眠るベビーベットを取り囲む大人達。エルエルのおいたによって寝込んだ赤ちゃんを心配して見に来ていた。幸い後遺症もなく起きるまで待つ事にした大人達が赤ちゃんを見守っていた。


(うわぁ。天井に手を伸ばしたら届くね。でかぁ。白さんよりでかいって。パパンはたしか白さんと同じくらいだった気がするから、誰だろう?)


 かなり大柄な人は何かを腕に抱いていた。しかし赤ちゃんにはそれを見ることは出来なかった。目の前にもう一人いたからである。


「良かったよ。目を覚ましたなら問題ないな」


(うゆ? 鈴を鳴らしたような声……でも荒っぽいなぁ。誰だろう? また母ちゃんのレディース仲間かな。綺麗な声なのに、もったいないなぁ)


 白い装束を着た女性が赤ちゃんのほっぺをつつきながら赤ちゃんの顔を覗きこむ。


「おい、誰がレディースだって? あたしは巫女だっつーの。あんな半端もんの連中と一緒にすんなよ」


(近いっす! これは……白い服に金髪……なのか? 外人っぽいけど、いやそんなことよりも)


「……だう?」


(巫女? こんなに口が悪いのに……まぁ巫女服着たら誰でも巫女だけど外人さんの巫女? なんで外人の巫女さんが此処に?)


「はぁ~。良かった~。もし何かあれば、えるえるを抹殺してたから」


 全身を脱力させて深く息を吐く母親は物騒な言葉も吐いていた。


「おいおい、それはいくらなんでも物騒じゃないか?」


 体を起こして赤ちゃんから離れた巫女が母親に向き直り反論する。さすがにやりすぎだと。


「えるえるの気持ちも分かるけどそれはそれ。むしろまだ生かしてることに自分でもびっくりだよ?」


「あんたも相変わらずだね」


 肩をすくめる巫女と腕をブンブン振り回す母親に少し引いている残りの二人。赤ちゃんの父親と巫女の夫である巨漢の男性は無言で目線による会話をしていた。


(母ちゃんが白さんを抹殺? なに言ってるの? それに……この巫女さん、テレパシー的なもので我輩の考え読んでね?)


「やっと気付いたか。どこまで記憶があるのか分からんが……どこまで覚えてるんだ?」


(あっ、パパンだ。生きてたんだ。つーかもろバレてね? パパンにもテレパシー的なものがあるの?)


 ベットの上の赤ちゃんがジェスチャーのように手足をバタバタさせていたがそれはどう見ても踊ってる様にしか見えなかった。


「もー! 私が最初なの! ね~お兄ちゃん」


 今度は母親がベビーベットを覗きこむ。そして赤ちゃんのまだよく見えてない目を見て話しかける。


「だう?」


(お兄ちゃんだと?……まさかお前は……夏子か!)


「誰よそれ!」


(まち子さんなのか!?)


「違う!」


(えー? 僕の妹は紫の頭をしてなかったからなー。こんなにグレてしまったなんて……およよ)


「だうう」


 赤ちゃんが踊りを止めてしょんぼりしていた。


「くっはははは! 変わんねぇな、あんたも」


(だう? いや、違う。俺を知ってるのか? その口ぶりだとまさかお前が夏子なのか!?)


 豪快な笑いをあげる巫女に赤ちゃんが問い掛ける。その姿勢は魔都おおさかの人間に相応しいボケの塊だった。


「ちげぇよ! 誰だよ夏子って」


(それじゃあ……まち……)


「お兄ちゃん……どこまで覚えてる? 私が転生したことは覚えてる?」


 しびれを切らした母親が遂に赤ちゃんへと核心に触れて行く。確認したいけど怖い。どこまで覚えていてどこまで忘れているのか。母親にとって兄の意識がどこまで在るのかは大きな問題であった。


(…………は? 転生?)


「やっぱりこの世界に来てからの記憶は無いの?」


(は? いや、まて涼子、何言ってんだ? 転生なんて在るわけが……)


「お兄ちゃん! やっぱりお兄ちゃんだよ!」


 飛び上がる程に喜んだ母親が赤ちゃんをベビーベットからすごい勢いで抱き上げる。


(ぐへぁ! 待ってー! いきなりだっこからの頬擦りは……マミー擦りすぎ!)


「自分も転生してるだろうに。でもこれなら……」


 赤い髪の父親が顎を撫でながらジタバタしている我が子を見ていた。どう対応したものか悩みに悩んで最近お酒の量がぐんと増えたパパンである。妻の前世の兄。それが自分の息子になる。恐らくこの物語で一番の苦労人になっているパパン。


「別に気にしなくていいじゃねぇか。ありのままに接したらいいだけだろ? うちの娘なんてなかなか大変でよ。いっそのこと一緒に育てるか?」


 巫女と巨漢の間にも子供が出来ていた。今は巨漢の腕をベットに幸せそうに寝ている女の子である。エルエルが時折両家を行き来して子供の世話を手伝っていたが隣近所とはいえそれなりに距離があるので不便であった。


「そうだな。その方が楽だよな。つまり前と変わらないって事になるか、折角家を貰ったのにな」


 英雄達の活躍によって神魔大戦は終わりを迎えた。静かに子供の世話をしたい二組の英雄夫婦は田舎に移り込み派手な生活とは無縁のささやかな幸せを堪能していた。


 多くの英雄達は大戦から一年経っても一向に減らない魔物を退治することに駆り出されており、この田舎においても数が増えた魔物を夫達がペアで狩りまくっていた。


 神魔大戦の影響で戦士から多くの死者が出ており魔物を退治するハンターの需要が以前より遥かに増していた。田舎でハンター募集中の依頼があったのでこれ幸いと晴れ舞台から退いた英雄達。引き留めるものも多かったが紫の女性が拳で説得して事なきを得た。


 残された英雄達は悟った。英雄にも差があるのだと。


 拳で解決した英雄夫婦はハンターとして、そして新たな住民として田舎の村に引っ越して家を貰ったのであった。


「家が広すぎて落ち着かねぇんだよ。これでも巫女として質素な生活に慣れてるからな。あっでもダーリンはどうする?」


 巫女の女性が巨漢に振り返る。そこにはデレデレなお父さんがいた。娘の寝顔に厳つい顔がよく分かんない顔になっていた。あえて言えば肉を前にした猛獣のような、でも目は優しく見えなくもない。そんな顔であった。


「……別に気にしないみたいだな、子供が居れば」


「だばぁ!」


(助けてよパパン! というか説明してよー!)


 まだ母親に過剰なスキンシップを受けている赤ちゃんからの必死なヘルプが父に飛ぶ。


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんー! 愛してるー!」


(それは家族愛だよな? パパンが微妙な顔してない?)


「大丈夫! 愛は色々あるから!」


 笑顔で言い切る母親にドン引きする赤ちゃんであった。


「分かっていたけど、これが妻を子供に取られるというものなのか」


 落ち込む父親は妻にボロクソに愛されている赤ちゃんを眺めていた。なんとも言えない表情で。しかし彼の心には羨ましいよりも被害が分散されて助かるな~という思いが真っ先に涌き出ていた。紫の女の子に幼い頃から振り回されてきた彼の心は複雑だった。


「おいおい、夫婦仲良くやってけよ?」


「うん、分かってる。でもお兄ちゃんが一番だよ! 赤ちゃんなんだし、二番でもちゃんと愛してるもん。じゃなきゃ結婚なんてしないし」


(ああ、あの妹は人妻に……てか母親ってどう言うことなの? 偶然にしてはおかしいよな?)


「話すと長くなるからまずはえるえるを解放してからみんなで話そっか、お兄ちゃん」


「だうー」


(お兄ちゃんと呼ばれると変な気持ちなんだけど……名前はどうなってるの? やっぱりキラキラネームなの?)


「あ~、その辺もみんなで話そうよ。名前は前と変わらないよ?」


「うきゃあ!」


 喜びのあまり踊り出す赤ちゃん。手足がバタバタと動くが母親に抱かれているのであまり動けなかった。悔しかったのでとりあえず紫の髪をさわさわして気を取り直す。


(よし! へんてこな名前は回避出来た! ……ん? 開放?)


「えるえるは縛って庭に転がしてあるから」


 特に何の感情も無しに出された言葉にしばし固まる赤ちゃん。再起動したのは五秒後だった。


「だばぁ!」


(母ちゃんなにしてんの!? 早く助けないと!)


「え~? 本人も望んでたから私の趣味じゃないよ?」


(白さんの性癖が明らかに!? そっち系なの?!)


 慌てふためく赤ちゃんに呆れながらも自分の心と対話していた父親が説明をしてくれた。


「エルエルも反省しているんだよ。別に趣味で縛られて庭に転がってる訳じゃない」


「だうー?」


(エルエル……白さんだよね。なんかやったの? パパン)


「……覚えて無いの? えるえるがおっぱいからエーテルを出してお兄ちゃんがオーバーフローして気を失ったのに」


(…………エーテルってなに?)


「その辺もみんなで話すんだろ? うちの子もそろそろご飯の時間だし居間にでも移動すっか」


 巫女さんの提案でそういうことになった。

 べ、別に前半で文字数をか、稼いでる訳じゃ無いんだからね! 勘違いしないでよね! ふんっ!



 うぅ、堪忍してくだせぇお代官さま~。つい出来心でやっちまいました。

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