2話 モヤシフルデイズ
僕はモヤシ! マメから生えたシャッキリさんさ! 周りにも沢山の兄弟がいるけど僕はこんな有象無象どもと違って天下を取ってやるんだ!
目指せモヤシ帝国なのだ! ぐわはははー。
そしていつかは……スプラウトハーレム! 色んな豆っ娘集めてハーレム王になってやる!
「そんな訳で死にさらせ悪のきな粉大帝!」
「いや、そんな理由でここまで来たのか、モヤシの勇者よ」
ふん、それくらいのご褒美を考えないと単身で悪の帝国に潜入、トップの暗殺なんて出来ないよ。やってることは犯罪だし。でも仕方無いんだ。豆神様から勇者に選ばれた哀れなモヤシにはこれくらいしか手段が無いんだ。
「まさか我が部屋に侵入するとは」
あっさり入れてちょっとビビった。鍵くらい掛けときなよ、まったく。てなわけで殺ったるで!
「お前らの悪事もここまでだ! 世界をきな粉まみれになんてさせない!」
「いや、さっきハーレムって言ってたよな? お主」
「…………問答無用! モヤシナイフひげ落とし!」
食らえ必殺のモヤシ流奥義を! そして散るがいい! 悪の首魁め! 抉るようにモヤシをお前の腹にねじ込んだる! いてまえ、おらぁ!
「……ふむ、モヤシ如きがこの大帝に届くと思っておるのか?」
なっ! なんで効いてない! そんな馬鹿な。あっ、折れてる?!
「くはは、モヤシ流なんぞ屁の役にも立たんわ。どれ、ワシのきな粉派基本技で沈むがいい」
ぐわー。体がー! 急に現れた大量のきな粉の雨に埋まっていくー。いやー、きな粉臭いよー。
「きな粉に水分を吸われモヤシのミイラになるがいい」
そんな……僕は……こんな、こんなところで終わるのか。
「だぅ」
ヤバイ。変な夢見てた。なんかモヤシの勇者が旅するストーリー。モヤシに手足が生えて歩いているのは、とんでもなくシュールで……あれか? オレ疲れてる? 精神的に疲れてる?
きな粉大帝なんて粉の山がもっさり動いてたし。てか豆っ娘ハーレムって…………うん、忘れよう。あれは夢だ。ただの夢なんだ。
「あうあうー!」
誰ぞ居らぬか! 余は人恋しいぞよ? 今は……まだ朝の時間かな? 誰か居るといいけど。今はとにかく人肌が恋し……
「……抱っこ?」
「ぅだっあ!」
うひゃあ!? なになになんで頭上に待機してるの貴方?! 白さん、あーた、マジで勘弁してよ。ビビったから……全部……出たね。うん。出た。オムツがリバイアサンだよ?
「……オムツ替える」
はい、お願いします。でもね? ベビーベットから見える巨大で、そびえ立つ白さんはビビるのよ。仰ぐように頭上に待機してるのは泣くって。
まだ慣れないなぁ。体が小さいから全てがビックに見えるぜ。元々白さんは母ちゃんよりおっきいから。……ダブルの意味でな!
うーん、やっぱり白いなー。これ、髪の毛っぽいけどメッチャ長くね? さらさら音がしてるし、手に当たってる。うん。素敵な手応え。いや、手触り? さらさらのつるつるのたばたば。
ロングの白髪って……気合い入ってんなー白さん。
おっと。パオーヌはアンタッチャブルで頼むぜ? あんまり伸ばすと、なんか……こう……怖いの。どこまで伸びるのか不安になるんだよね。髪の毛と違って伸ばしちゃダメな気がするの。
「……パオーン?」
駄目だってば! ってガン見しないでー! メッチャ恥ずかしい……くもないか。まだ羞恥心とか生まれてないのかな。このこそばゆい感じは前世の心か。なんか変な感じ。ちぐはぐで違和感。今なら赤ちゃんプレイの真髄が心から分かるよ。
山田の父ちゃん……あんた、間違って無かったよ。お祭りで暴露した勇者に我輩はなんて事をしたんだ。……いや、何もしてないな、そう言えば。まるで接点無かったし。山田は尻ニストだったし。
山田……元気かな。地震で死んでなければいいけど、あれでも友達だし。
「……」 つんつん。
「あぶぁ!」
何してんの!? パオーヌはおさわり禁止よ! へ? あっ、拭くの? あっ、お願いします。
「……ふふ」
「だ!?」
何その微かな笑い声は!? 抑揚無いから感情が読めないって! って今思うと別にパオーヌをつつく必要って無いよね。
「…………」 ふきふき。
……赤ちゃんって大変だ。かぶれたりするのかな? お尻とか。いちいち替える度に拭かないといけないなんて面倒臭いのに。……お母さんは大変……なんだね。
母ちゃん……あっ、前世のね。……多分我輩が先に死んでるよね。ゴメンよ母ちゃん。でも後悔はしてないよ。ちゃんと生きたよ。我輩、胸を張って自慢できるよ。
「えるえる~。どう~? 起きた?」
むっ、この声と足音は今世の母ちゃんか。白さん、えるえるって呼ばれてるんだ? ……確かにLLだよな、色々と。
「オムツ替えた」
「おっ、ありがと~。それで……どう?」
「あうー?」
どう? 何がどうなの?
「……ぞうさん、可愛い」
ぐはっ! お前もか!? お前もなのか!
「あはは、まぁそうだよね。魅惑のぞうさんだよね~?」
ちょっ! あんたら覚えておけよ! いずれ進化して荒ぶるマンモスにパオーヌするんだからな! 今だけ……今だけだよね? これ、一生このパオーヌとか無いよね?
「ずっとこのサイズだと良いのにね?」
「はい」
待てこら。
「だうだう!」
激しく抗議すんぞ! 学校とかでいじめられるからね! パオーヌって結構大切なんだからね!
「なんとか出来る?」
「……今は無理です」
「詳しそうな人に聞いてみるかな~」
マジで勘弁して下さい。既に伸びるのが確定してるからこれ以上の問題は堪忍して下さい。
「あっ、そっか。伸ばしてみた?」
「だう?!」
おい待てこの母ちゃん! 何言ってんのさ!
「伸ばす?」
「そうそう。すっごい伸びるから感動するよ?」
母ちゃん……すっごいって、そんなに興奮して話さなくても。そんなに強調したら白さんが真似しちゃうでしょ!
「何が伸びるのですか?」
「ぞうさんだよ」
「……既に欲情するのですか?」
しねぇよ!
「あ~、そうじゃなくて、え~と皮?」
止めろや! 何この会話。人のパオーヌを弄ばないでよ!
「皮……」
「うきゃあ!」
なんだと! 早脱がしされた? 白さんが本気出したのか!?
「……ここですか?」 むにょーん。
「だきゃあ!」
ひぎゃあ! そこ違う! けどすごく伸びてる!? なんで!? 何このパオーヌ!? 前世と全然違うんですけど!
「あっ、そっちじゃないけど、そっちも伸びてるね」
助けてよ! 母ちゃん!
「……こっち?」 うにょーん。
「うん、普通そっちを選ぶよね。でも全部伸びるのが分かったから別にいっか」
良くねぇよ!
「おお……すごい……伸びる」
白さんが感動しているだと!? そんな……そんなに……いや、伸ばしすぎ! ちょっ! 痛くないけどこれおかしいって!
「まさかこれが女神の祝福?」
「……分かりませんが普通ここまで伸びるのですか?」
「アレンで試してみるね。対比的に身長ぐらいかな?」
ははは、とんでもなく伸びるパオーヌにショックを受けた我輩。気付いたら夜だった。寝おちしたのかな。あのあとの記憶もまるで無いし。何か母ちゃん達が話していたような気もするけど、そんなことよりパオーヌだ!
たしか、生まれつきで皮が伸びやすい人が居るって何かで見た気がする。ほっぺも伸びるのかな。パオーヌ限定だったらどうしよう。
「ぎゃーーー!」
うん? 何か悲鳴が聞こえたような? 聞いたような声だったけど、まさか父ちゃん? 薄暗い部屋からでは何も分からないけど。豆電球なのかな、このぐらいの光なら分かるけど。
「死ぬ死ぬ! 千切れる! ちょっ! そんなに伸びないから!」
……父ちゃん。父ちゃんも犠牲者になったんだね。母ちゃん……容赦ねぇな。
「エルエル! お前もか! やめろ! にじり寄るなー!」
白さん。あなたもですか。乙女の恥じらいとか無いのかな。
「ひぃぎゃーーー!」
あっ、終わった。父ちゃん……我輩、父ちゃんの分まで強く生きるよ。
このくらいならR15も要らないかな? パオパオ。