ごっこ遊びごっこ
「あらあ! 見て見て奥さん。花嫁の衣装の綺麗なこと!」
「ホント。良く似合っておいでですわね」
「旦那さんが去年、東公園の池のほとりでプロポーズしたらしいわよ」
「あらまあ。それで会場が公園なのね」
「晴れてよかったわあ。お天気が悪かったら、大変なことになってたかも」
「あら。傘の下の結婚式なんてのも、風情があってステキじゃない?」
「やあよぉ。お化粧もお洋服もビショビショになっちゃうじゃない」
「あ、見て。新郎新婦がこっちに挨拶に来たわ」
きょうはきてくれてどうもありがとう! いいてんきになってほんとおによかったね! おいしいおりょうりにおかしにのみものもたくさんよおいしたからたくさんたべてね。あとでおっきなけーきもよおいしたから、たのしみにまっててね!
「……まあ可愛らしい。聞きました奥さん? 本当に子供みたいでしたね」
「ええ、本当に……まだ60歳なのにねえ」
「先生によると、アルツハイマーらしいわよ。それで、幼児退行起こしてるって……」
「結婚式ごっこってワケね。二人とも赤ちゃん返りして、無邪気で楽しそうなのはいいんだけれど……やっぱりちょっとお気の毒よね」
「こら君達」
「あら、先生」
「先生、ごきげんよう」
「ダメじゃないか、こんなとこでまた主婦の井戸端会議ごっこなんかして。ちゃんと病室に戻らないと」
「だって楽しいんですもの。ねえ?」
「ねー」
「はいはい。二人とも、もう90なんだから。お薬飲んで寝なきゃダメだよ、全く」
「はぁい」
「は〜い」
「やれやれ……」
「岸川先生」
「や、これは西条先生。どうも」
「どうしたんですか?」
「いやね、患者たちがまた廊下で、やれ”結婚式ごっこ”だの”井戸端会議ごっこ”だのやってたものですからね。全く参っちゃいますよ、ハハ……」
「クス……岸川先生も、そろそろベッドにお戻りになられては?」
「いえ、私は……」
「お医者さんごっこはもうおしまい。続きはまた明日ね。岸川さんももう120歳になるんですから、お身体を労らなくっちゃ……」
「はぁい……」