ウェールズ姉妹、異世界へ帰る。
この回は『DLばんえつ物語号』を降りたウェールズ姉妹が異世界へ帰る列車に乗り、荷解きをするまでの流れです。
姉妹の住んでいるプランタジネット王国の紹介と列車の経過が主な描写になるので、台詞は出てきません。
ノルマン駅のベースは作中にもあるように昔の上野駅です。
東北・上越新幹線が来る前の上野駅をイメージしてくださると大雑把な想像ができると思います。
ウェールズ姉妹の住む町は横浜か小田原あたりをベースにイメージしてくださると幸いです。
列車は1時間ほど超空間を走り、夜の明けぬチャクリー駅に停車する。ここはドゥイタン王国の駅だが、機関車と乗務員を交代させるだけで客扱いはなく、1時間ほど東に走った王都ラーマ駅に停車して乗客を降ろし、国境のロイゲーオ駅で中国風の機関車に付け替えて宇文帝国に入る。宇文帝国では爾朱駅に停車し、国都の堯舜駅に停車して帝国民の乗客を降ろし、国境で西洋風の機関車に付け替えてウェールズ姉妹の国、プランタジネット王国に入国する。ブルターニュ駅に着いた時点で夜が明けており、国都ノルマン駅に着いたときには既に朝の9時17分だった。
ノルマン駅は日本の年号が昭和だった頃の上野駅を西洋風にしたような雰囲気の駅である。
1番線から10番線までが島式で日本の宇都宮線や高崎線、上野東京ラインに当たる中距離列車や山手線・京浜東北線に相当する近距離列車が発着し、11番線から18番線までが頭端式で長距離列車を扱うホームである。
ウェールズ姉妹の乗った列車は18番線に滑り込み、乗客を降ろすと上野駅張りの推進運転で回送する。
俺はこの時知らなかったが、飛行船や飼いならしたドラゴンに乗る所、つまりは俺達の世界でいう空港へアクセスする鉄道も引かれており、空の交通も進んでいる。但し、魔法が使える国なので、石油の燃料が要らないのである。水素やメタノール、エタノールといったクリーンエネルギーは普及するに至っていない。
プランタジネット王国は豊かな国だ。議会制民主主義も成熟しており、国民の王室に対する尊敬の念もタイ王国張りに強く、若い王様は基本的に『君臨すれども統治せず』で、国会、内閣、最高裁の3機関で三権分立が進んでいる。余所者にも基本的には寛容だが、スパイと犯罪者には厳しく、公開処刑された時代もあったという。
エミリーとアンナは平民階級の生まれで父は会社員、母も働いている。こういうと現代の日本のように暮らしにくい社会のように思えるが、社会保障も充実しており、官営ないし民営の作業場も充実している。そして日本では悩みの種である汚職も頻繁に取り締まり、公金の出納では必ず記録を必要とし、カラ出張をしようものならすぐに嘘が判り、公務員としての資格も剥奪される。
国会議員や官僚の給料も民間のサラリーマンに毛の生えた程度であるが、彼らは袖の下を役得とは思わず、恥辱という意識で勤務しているので、日本の官公庁より清廉である。
選挙権は18歳から、被選挙権は22歳からで、国民の政治に関する意識も高く、日本のように硬化した左翼思想に毒されていないばかりか、国防と安全の問題を身近に感じているので、若者達は真面目に国のことを考え、投票にも積極的に参加する。憲法もあり、日本が70年間改憲できないでいる間に2度のリニューアルをしている。野党も締りがあり、ごねて国会を欠席したのにお給料が減らされないということはない。ごねて欠席すれば必ず減らされる。
『看板・鞄・地盤』の『3ばん』問題も薄い。ホームレスあがりの議員も出たことがあったそうで、与党も野党も絶えず市井から民政を窺い、党員を探している。
各政党の党員は加齢や病気による引退と国民の目で容易く世襲させてはくれない。
選挙制度自体も5年以上の下野期間を義務付けられているので続けて当選できないし、議員を出す家が特権階級化することも防いでいる。
国民は休む時は休み、働くときは働く、働けない国民は国から補助が出ているが、国庫が寂しいからと徴収額を増やし、給付額を減らすのではなく、不正受給を絶えず取り締まり、受給者の心身に合わせて業種を斡旋する制度も設けられている。
すなわち『資本主義の中の社会主義国』であり、『原理主義的ではないからこそ完成度の高い社会主義国』である。それを言うと社会が健全だった頃の日本に似ているが、国防に関しても人任せではなく、飼いならされないドラゴンや敵国と戦う都合上、軍にも騎士団にも絶えず緊張感が走っている。
この国の政治家は絶えず勉強している。何故かというと、『議員の子だからといって議員になれる保証はなく』、『政権与党だからといって今後も与党である保証は皆無』だからである。イギリスでいうところの『影の内閣』たる野党側の閣僚候補達も政権を取ったときに就くつもりの官庁のことを勉強する。官僚を監査する機関もあり、不正をした官僚は必ず、弾劾され、退職金どころか追徴課税が待っている。
この国の財務省は民間から引き抜きで何人かを入れており、期間を決めて雇用されるので、常に新しい風が入ってくる。通常の官僚達も若いうちは民間企業のようにいくつもの省庁を転勤させられ、絶えず新しい風を期待される。
国鉄の無料パスなどというものもなく、有料のフリーパスを買って国内を巡るが、飽くまでも視察という形態を取らなければならず、全額国庫持ちかつグリーン車が乗り放題で選挙区と国都ノルマンを往復できるなどということはない。このフリーパスチケットは日本でいうところの普通車用が基本でグリーン料金や寝台料金は別途払わなければならない。ただ、青春18きっぷのように桁違いに安いわけでもなく、特急料金も込みで発券される。
ここで文句を言われないのは政治家の側も『現場を見ることが政治の基本』であることを知っているからである。そのため、実質購買力を無視した増税など言い出せば、非難轟々、リコールか国会の解散か、である。
2院制の議会は上院が貴族院を改めた職種・業種ごとの代表者会議、下院が各地域の代表者会議である。決して日本のような言い訳だけの上院・下院ではない。
選挙は下院が選挙区制で、各州から複数の議員を選出し、上院では正規・非正規を問わぬ労働者と財界人が各々の代表者を選ぶ。農家の代表者も国会に登庁できるので生の声が内閣に伝わる。そのため、委任立法は禁止されており、内閣法などというものは可決どころか成立の芽を摘まれている。
ウェールズ姉妹が住む町は国都ノルマンから南に何キロか行ったところで、日本でいうと東京から浦安市ほどの距離があり、日本の京葉線とは異なり、郊外列車も便利な町である。
その町の駅は千葉県より神奈川県の方が近い雰囲気で、関西圏に於ける高槻駅や三ノ宮駅のような緩急接続もできる駅である。
特急列車は停まらないが、快速列車が速いのでそこまで不便さを感じない。
ウェールズ姉妹は郊外列車を降りてバスに乗り換え、自宅で荷ほどきした。
今回は紹介パートですが、次回は康太君の夏休み回を見込んでおります。