6夢
「今回は引き分けですね」
「そう、だね・・・。ところで身体の方は大丈夫なの?」
「はい。・・・しかし、夢とはいえ当分はワルツを踏むのは難しいかもしれません」
ナイトメアの青年が苦笑を漏らした直後、彼の首筋に大鎌の刃が当てられた。
「チャックメイト、今回は勝たせて貰うよ」
「なっ!?」
ナイトメアの青年が驚愕に顔を歪めた瞬間、ゆまは大鎌を振るい、彼の身体を一閃する。
わたしは閉じかけていた瞼を押し上げ、ゆまを見上げた。
ナイトメアの青年が黒煙に変わり、引き裂かれた煙はまるで吸い寄せられるように一つの塊になった。ゆまはその塊が落ちる前に、手で掴み口に放り込む。
悪夢を食べたのだと、直感的に理解した。
「ゆ、ま・・・?」
視界が段々と鮮明になり、浮いていた白い粒たちも姿を消していた。ゆまはわたしを見下ろし笑みを浮かべる。
「ありがとう、桃香。お陰で無事に悪夢を食べることができたよ」
「え? 今、ナイトメアの人を食べたんじゃないの?」
ナイトメアの青年が黒い塊になり、それをゆまが食べたと言うことは、ゆまはナイトメア本体を食べたのではないだろうか。
素朴な疑問に、ゆまは肩を竦めて答える。
「そうじゃない。そもそも、ナイトメア本体は人の夢にはいることができないんだ。外から夢を操り、自分に模した“ナイトメア”を作り出し、それを悪夢の中核にする。その中核を倒して食べることができたら獏の勝ち。反対に獏が悪夢の中核を食べれなかったり、途中で宿主が目を覚ました場合、ナイトメアの勝ちになる。ここ最近、負け続けだったからスッゴく嬉しいよ」
はしゃぐゆまの姿は、クラス内ではしゃぐ同級生達と同じだ。
そこで新たな疑問が浮かぶ、
「ねえ、悪夢を食べたら成長するなら、どうしてゆまは小さいままなの?」
ゆまはピタリと動きを止め、不満気に唇を尖らせた。
「そんなの当たり前じゃん。悪夢を一つくらい食べた程度じゃ、あんまり成長しないよ。・・・多分だけど、悪夢一つにつき人間にとって一日分くらいしか成長しないんだ」
「え、じゃあ・・・」
ゆまの現在の年齢は?
聞くのも口に出すのも恐ろしかった。
ゆまはニパッと笑い、その姿が薄れてきた。
今度こそ、わたしの意識は限界に近い。
「お別れだね。現実世界に戻れば、この世界であったことは忘れるよ。だから言っておく。―――サヨウナラ」
最後の言葉は完全に棒読みだ。わたしはかれのいじっぱりな性格に笑ってしまった。
「最後に、一つだけ聞いても良い?」
「・・・・・」
沈黙を校庭と受け取り、聞いてみる。
「どうして、わたしの夢だったの? 地球には六十億人以上も人がいるのに、なんでわたしが選ばれたの?」
素朴な疑問だ。
どうしてわたしがナイトメアに悪夢の器として選ばれたのか。何となくなのだろうか、それとも何か理由があったのか。
知りたい。
理由が欲しい。
数秒の沈黙の後、ゆまは困ったような笑みを浮かべた。
―――わたしの夢はそこで途切れた。




