表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獏のゆま  作者: 海埜ケイ
7/9

6夢



「今回は引き分けですね」

「そう、だね・・・。ところで身体の方は大丈夫なの?」

「はい。・・・しかし、夢とはいえ当分はワルツを踏むのは難しいかもしれません」

 ナイトメアの青年が苦笑を漏らした直後、彼の首筋に大鎌の刃が当てられた。

「チャックメイト、今回は勝たせて貰うよ」

「なっ!?」

 ナイトメアの青年が驚愕に顔を歪めた瞬間、ゆまは大鎌を振るい、彼の身体を一閃する。

 わたしは閉じかけていた瞼を押し上げ、ゆまを見上げた。

 ナイトメアの青年が黒煙に変わり、引き裂かれた煙はまるで吸い寄せられるように一つの塊になった。ゆまはその塊が落ちる前に、手で掴み口に放り込む。

 悪夢を食べたのだと、直感的に理解した。

「ゆ、ま・・・?」

 視界が段々と鮮明になり、浮いていた白い粒たちも姿を消していた。ゆまはわたしを見下ろし笑みを浮かべる。

「ありがとう、桃香。お陰で無事に悪夢を食べることができたよ」

「え? 今、ナイトメアの人を食べたんじゃないの?」

 ナイトメアの青年が黒い塊になり、それをゆまが食べたと言うことは、ゆまはナイトメア本体を食べたのではないだろうか。

 素朴な疑問に、ゆまは肩を竦めて答える。

「そうじゃない。そもそも、ナイトメア本体は人の夢にはいることができないんだ。外から夢を操り、自分に模した“ナイトメア”を作り出し、それを悪夢の中核にする。その中核を倒して食べることができたら獏の勝ち。反対に獏が悪夢の中核を食べれなかったり、途中で宿主が目を覚ました場合、ナイトメアの勝ちになる。ここ最近、負け続けだったからスッゴく嬉しいよ」

 はしゃぐゆまの姿は、クラス内ではしゃぐ同級生達と同じだ。

そこで新たな疑問が浮かぶ、

「ねえ、悪夢を食べたら成長するなら、どうしてゆまは小さいままなの?」

 ゆまはピタリと動きを止め、不満気に唇を尖らせた。

「そんなの当たり前じゃん。悪夢を一つくらい食べた程度じゃ、あんまり成長しないよ。・・・多分だけど、悪夢一つにつき人間にとって一日分くらいしか成長しないんだ」

「え、じゃあ・・・」

 ゆまの現在の年齢は?

 聞くのも口に出すのも恐ろしかった。

 ゆまはニパッと笑い、その姿が薄れてきた。

 今度こそ、わたしの意識は限界に近い。

「お別れだね。現実世界に戻れば、この世界であったことは忘れるよ。だから言っておく。―――サヨウナラ」

 最後の言葉は完全に棒読みだ。わたしはかれのいじっぱりな性格に笑ってしまった。

「最後に、一つだけ聞いても良い?」

「・・・・・」

 沈黙を校庭と受け取り、聞いてみる。

「どうして、わたしの夢だったの? 地球には六十億人以上も人がいるのに、なんでわたしが選ばれたの?」

 素朴な疑問だ。

 どうしてわたしがナイトメアに悪夢の器として選ばれたのか。何となくなのだろうか、それとも何か理由があったのか。

 知りたい。

 理由が欲しい。

 数秒の沈黙の後、ゆまは困ったような笑みを浮かべた。



―――わたしの夢はそこで途切れた。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ