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獏のゆま  作者: 海埜ケイ
6/9

5夢


 わたしの咆吼に世界が波立ち形を保っていられなくなった。わたしの身体が変貌し、巨大な爬虫類擬きになっていく。

 


――タオサナキャ、タオサナキャ



――ワルイヤツハ、タオサナキャ



 外下に広がる街のビルから人相の悪いオモチャの兵隊が現れ、青年に向かって長銃を向けた。

『打てーーっ!』

 隊長らしき兵隊の号令に合わせて、部下の兵隊達は次々に発砲していく。青年はマントを翻し、銃弾をいなそうとしたが、オモチャの銃弾はマントを突き抜け青年の身体を貫いていく。

「―――っ」

『怯んだぞ! 一斉攻撃―――っ』

 意気揚々と次の指示を飛ばす隊長の首を、“ゆま”は撥ね飛ばし、すぐに跳躍してオモチャの兵隊が打った銃弾を大鎌で受け止めた。銃弾は大鎌を貫くことはなかった。

「何やってんのさ、ショタコン」

「ふふふ、少し挑発させすぎたようですね。・・・というより甘く見ていました」

「子供の独創性を舐めるから、こうなるんだ」

 ゆまは大鎌を振るい、“わたし”と視線を交わした。

「桃香、聞いて欲しい。僕とナイトメアの関係をーー。僕とナイトメアは敵同士じゃない、共生関係にあるんだ」


――キョウセイ?


 わたしは首を傾げるつもりで、身体を斜めに捻った。

「その通りです。本来、私とゆまくんーーナイトメアと獏は、食べられる存在と食べる存在です。しかし、ただ無償で食べられるだけの存在のナイトメアは酷く哀れでしょう。食べられる為に生まれて食べられて死ぬ。そんな夢も希望もない人生、お嬢さんだって望んで生を受けることはないでしょう?」

 問われれば、誰だって嫌だ。わたしの首肯に青年は嬉しそうに笑う。

「だから、我々は人の夢に悪夢を作り、自分たちの代わりに悪夢を獏たちに食べて貰うことにしました。更に2つの種族にはある誓約を交わし合わせたのですが・・・」

「誓約と言うよりも呪いに近いね。獏一族には『ナイトメア一族の悪夢を食べないと成長しない呪い』。ナイトメア一族には『獏一族に乞われた場合、絶対に悪夢を作り提供しなければいけない呪い』。それに反したものには、常人では耐えられない罰を設けているんだってさ」

 ゆまは長く息を吐いてから、再びわたしを見上げた。

「つまり、桃香が作りだした悪夢で、このショタコンを倒してしまったら、非常に困るわけ。これはナイトメアと獏の戦いだから、桃香には手を出さないで欲しいんだ」 

 聞いた途端、爬虫類擬きになっていたわたしの顔面がドロリと溶け出した。

 ドロドロと溶けていく衣から顔を出したわたしは、振るえる腕を、拳を握って押さえつけた。

「・・・何よ、それ。それじゃあ、わたしは巻き込まれ損じゃん」

「うん」

「勝手にわたしの夢に入ってきて、乱闘して、意味分からないよ。わたしいる意味無いじゃん」

 ボロボロとこぼれ落ちる涙を、咄嗟に拭いてくれたのはナイトメアの青年だ。

「意味はあります。むしろ、君たちがいなければ私たち一族はとうの昔に滅びているのですからね」

「?」

「ふふっ、世の中、全ての謎を解き明かしてはつまらないでしょう。さぁ、そろそろおやすみなさい。小難しい話しは優しい子守歌。もう、君の夢は邪魔しません。安らかに心地よい夢をどうぞ・・・」



――パチリ、とナイトメアの青年が小気味の良い音を鳴らすと、桃香の身体はその場で横倒れ、目の前に白い粒が浮き出てきた。

「これ、は・・・」

「熟睡の時だね」

 世界が白い粉粒で満ちていく。ゆまの姿も、どんどん薄れていった。

「もう、会えないの?」

「会わない方が良い」

 淡々と答えるゆまと離れるのが名残惜しくて、思わず手を伸ばした。

 だが、その手が触れることはなかった。

「ゆ、ま・・・」

 せっかく会えたのに。まだ助けて貰ったお礼もしていないのに、こんな分かれ方は嫌だ。

 もう視界が真っ白で何も見えない。わたしはゆっくりと瞼を下ろしたーーー。



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