3夢
まず、この場所は私の夢の中の東京を再現した場所。
そこで私は犯人に殺され掛けた。
次に獏のゆまと出会う。
ゆま曰く、ここは私の夢の世界だから、思い通りになるのだろいう。
私の知る限りの情報はここまでだ。
「・・・あのさ、ゆま。一つ聞いて良い?」
「何?」
ゆまは持っていた飴玉を自分の口の中に入れる。
「獏って何?」
ゆまの口の中からカラコロと、飴玉の転がる音がする。
青い色をしていたが、何味なのだろう。見た目から言って、サイダーかブルーハワイだろう。と場違いなことを考えながらゆまの言葉を待った。
「夢の狩人、みたいなものかな」
「夢の、狩人?」
聞き返すと、ゆまは静かに頷いて続きを紡ぐ。
「簡単に言えば、獏というのは人の悪夢を食べて成長する夢世界の生き物なんだ」
「人の悪夢を食べる? それじゃあ・・・」
ここは私の夢の世界。そしてゆまは悪夢を食べる存在。
さっき私は夢の世界で殺されかけていた。その出来事が私の見ている悪夢だとすれば、ゆまはソレを食べなければいけない。
けれど、ゆまが悪夢を食べている風には見えず、むしろ、追い払っているような感じに見えた。
そもそも獏はどうやって人の悪夢を食べるのだろう。眠っている人の夢の世界に入ってから悪夢を食べることができるのだろうか。
「訳が分からない・・・」
「まあまあ、ちゃんと説明するよ」
ゆまは帽子の鍔を指先で弾き上げた。
「悪夢って言ってもさ、その人の見る夢を食べるわけではなく、悪夢を作り出す元凶を食べるんだ。僕たちはその元凶を“ナイトメア”と呼んでいる」
「ナイト、メア?」
「ナイトメアは人の純粋な夢を自分たちの好きなように塗り替えていき、それが夢を見ている人と夢世界の反発を行い、悪夢へと変換してしまうんだ」
「変換って・・・。でも、夢は人の思い通りになる世界なんだよね、なら、その思いでナイトメアを退けることはできないの?」
「それこそ無理難題だよ」
ゆまは大鎌の刃から降りて、大鎌の付け根を肩に乗せる。
「いいかい? もう一度言うけど、ここは君の夢の世界。夢を見る時って、人生で一番無防備になっている状態でもあるんだ。それに、お姉さんだってさっきまでは、ここを夢世界ではなく現実世界だと思いこんでいたじゃないか」
言い返せず、ムグッと口に一線引いてると、ゆまは肩を竦めた。
「だから無理なんだよ。ここを現実だと思いこんでいる人に、悪夢を作るナイトメアの存在を教えたとしても、「ああ、そうですか」の一言で終わるか、僕と会っている記憶すら忘れてしまうかもしれないからね」
確かにゆまの言う通り、みんな自分の見ている夢に夢中だ。
そんな時に、楽しんでいる夢に水を差す真似をされたら堪ったものではない。夢の世界が自分の思い通りになる世界なら、まず間違いなくゆまと出会ったことなど忘れて、無防備になり、ナイトメアの格好の餌となるだろう。
「じゃあ、どうやってナイトメアに対抗すればいいのよ」
打つ手無しではないか。
「・・・君、馬鹿?」
「ばっ!?」
「何のために僕たち獏がいると思っているの?」
ゆまは大鎌の柄を手の平で回し、ピタリと一定方向に向ける。
「ナイトメアに対抗できる唯一の種族であり、夢世界を自由に飛び回れる存在。年を取ることも、死ぬこともなく、ナイトメアを狩って食べる事を生き甲斐とする。それが“獏”さ」
ゆまはニッと私の方を一瞥した後、正面に睨みを利かす。
「そろそろ出てきても良いんじゃないかな? 隠れているつもりだろうけど、僕にはバレバレなんだけど?」
誰に言っているのだろう。
私が首を傾げると、ゆまの正面の景色がグニャリと歪む。渦を巻き、しばらくすると歪んだ景色の中から人が現れた。