1夢
闇が世界を包み、静寂が広がる。
空を仰げば、少しずつだが点々とした光が瞬いて見える。
星と部屋の灯りに差違はない。
全ての色が統一されている。
俯くと、地面はまるで絵の具で塗り潰されたかのように真っ黒だ。
昼に見た灰色の大地は姿を消していた。
道並みに沿って歩いているのは偶然か、必然か。どうして歩いているのかも思い出せなかった。
十字路に差し掛かった時、目の前を誰かが駆け抜ける。
少し遅れて、警察のような格好をした人が肩を上下させながら、ゆっくりと走ってきた。
「ま、待てぇ」
必死に声を上げるが、警察のような人は、息を切らせて十字路の真ん中でへたり込む。
「どうしたんですか?」
尋ねると、警察のような人はつっかえながらも答えてくれた。
「あの、殺人犯を、逃がしたくなく、走って、追い掛けて、仲間は呼んだ」
警察のような人は本当に警察だったらしい。深く息を吐き、呼吸を整えるので精一杯だ。
先ほどまで暗くて見えなかったが、警察の人は額と首周りに大量の汗を掻いている上、手が小刻みに震えている。
相当な時間を走っていたに違いない。
そう思うと、すぐに走り出した。
後ろの方で警察の人の声が聞こえたが、内容までは聞こえなかった。
恐らくは無茶な行動を止める言葉だったのだろう。
しかし、何故だか止まるわけにはいかなかった。
早く犯人を捕まえないと。その思いで私の心は一杯だ。
一つに纏めた髪をなびかせて、黒いジャケットの前を開ける。
犯人の後ろ姿を目視した。
「待て! 止まれ!」
私が叫ぶと、犯人は女だからと油断したのか、振り返って立ち止まる。
私は犯人と対峙する形となった。
「どうして逃げる」
「・・・・・・」
「何故、人を殺した」
「・・・・・・」
「答えろ!」
犯人の黒い顔に白い歯が浮かび上がった。
その口は確かに笑っている。
「あばよ」
はじめて犯人の声を聞いた瞬間、腹部に激痛が走った。
「な・・・・」
ドンドンドンッ
仰向けに倒れる私を見て、犯人は何かを呟き去っていった。
何を言ったのだろう。
白いシャツに穴が三箇所空いて、そこから赤い血が流れる。
五感が鈍っているのか痛みがないのが救いだ。
痛いのは嫌だ。
(このまま死ぬのかな?)
ぼんやりと思いついた言葉に目を閉じて否定したい。
喰らい考えをしているときに見上げる空は、まるで全てを飲み込むブラックホールのようだ。
意識しかない私を飲み込んでくれないだろうか。
目尻に光るものがこぼれ落ちた。