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「僕の殻、私の仮面』  作者: 藤沢 空
一章 「偽りの僕、本当の君」
6/9

「1−5」

 僕と河合さんで話し合った結果、僕たちのクラスは文化祭で模擬店を出店し、焼きそばを売ることになった。


 文化祭の準備期間中、僕は河合さんのような行動を取れるように何度も試みたけれど、いざやろうとなると、どうしても心と体が萎縮してしまい、結局はいつも通りの自分になってしまっていた。

 一方、当の河合さんはというと、僕が抱えすぎてしまった仕事を引き受けてくれたり、持ち前のリーダーシップを活かしてクラスの皆をまとめ上げたりと、大車輪の活躍を見せていた。

 その結果、当初出し物に全く乗り気でなかったクラスが、模擬店での売り上げ競争でトップを取るためにと、焼きそば似合うサイドメニュー開発や、より効率的な販売方法の模索などを分担して行ったりと、大盛り上がりとなった。


 そして完成された「ヤキソバッキー」は、クラスの努力が実り、文化祭初日から他店の追随を許さないぶっちぎりの売り上げをたたき出した。

 この店名に関しても、河合さんは


『責任者の遼くんを差し置いて私のあだ名が使われるのはおかしい』


 と、猛反対したんだけど、クラス全体、そして当然僕自身も事実上のリーダーは河合さんだと理解していたため、最後には「転校してきた河合さんに歓迎の意もこめて」とか言って無理やり承諾してもらった。


 二日目となった今日も、河合さんは店頭で声を張り上げ、明るい笑顔で注文を取っては、厨房に指示を飛ばしている。

 テントで作られた簡易な店の隅で、作業過程で出たゴミを回収している僕は、その姿を見ながら改めて彼女の凄さを痛感していた。


 河合さんには、僕みたいに押し付けられるものとしてではなく、真の意味でリーダーの素質がある。

 彼女はありのまま思ったことを口に出すし、そのありのままの根源である思考回路が完璧すぎるまでに正しい。だから、裏表のない完全な正義に、皆安心して付いていくことが出来るんだ。


「おーい、遼。お前そろそろ抜ける時間だろ」

(完全にバッキーが店長みたいになってるなー)

「ああ、もうそんな時間か。ごめん、じゃあちょっと抜けるよ」


 やっぱり宰から見てもそう見えるか……。なんて当然の事実にちょっとだけへこむ。まあ当然のことなので、それ程気にせずテントの外に出ようとすると、店頭で森繁さんが河合さんに話しかけているのが目に入った。

 何を話しているのか気になって、その場で聞き耳を立てていると、森繁さんが河合さんの手を引っ張って僕の方へ歩いてきた。


「な、なに? どうしたの」

「吉岡くん、椿と一緒に文化祭回って来なよ」

(……ったく、宰の頼みとはいえ何で私がこんなこと……)

「ええ!?」


 咄嗟に依頼主の方へ体を向けると、何を思ったか彼は右の親指をピンと立て、その整った顔に似合わないヘッタクソなウインクを作っていた。


「いやいや! 流石に責任者と副責任者両方抜けたらマズイでしょ!」

『そ、そうだよ!』


 河合さんが珍しく動揺しながら、僕の意見に乗っかかって来たことに、とってもダサい僕はほんの少しだけガッカリする。


「大丈夫だって! 昼時の忙しい時間帯は終わったし、二人がいなくても普通に店回せるから」

(遼! 俺のアシスト無駄にすんなよ)

「そうだよ! ノープロブレム!」

(バッキー、応援してるよ!)

「行ってこいよ」

(羨ましい……! なんで吉岡が……!)


 僕にとっては「何をしているんだこの人たちは」とでも言いたくなる状況だが、最近クラスではこの流れが多発している。

 というのも、僕が出し物決めを押し付けられそうになった時、河合さんがブチ切れたことが、クラスでは「つまりはそういうこと」という風に受け止められてしまい、「二人の仲を取り持とう」なんていう誤ったおせっかいを焼かれまくっているのだ。


 そして、いつもは焼かれたおせっかいを、河合さんが『そういうんじゃないから!』と鎮火するまでが一連の流れだったんだけれど、今日は何故だが勝手が違った。


『え、本当に大丈夫なの?』


 クラスに改めて伺った河合さんは、確認が取れると


『じゃあ遼くん、一緒に回ろうよ』


 と照れ笑いを浮かべながら僕を誘ってくれたのだ。


 


 

明後日更新の次話で、一章完結となります!

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