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「僕の殻、私の仮面』  作者: 藤沢 空
一章 「偽りの僕、本当の君」
2/9

「1−1」

「由美、今週の土曜日暇?」

(そろそろ誘っとかないと怪しまれそうだしな)

「うん、暇だよ」

(やったー! ゆうくんが久しぶりに誘ってくれた!)

「んじゃあ西の方の映画館集合で! いつもの映画館じゃ俺の見たい映画やってなくてさ)

(……ったく智花ともかがあんな場所でバイト始めるなんて、面倒くせぇ……)

「分かった!」

(どんな服着て行こうかなあ)


 ……朝から何てものを聞かされてるんだ……。

 教室の一番後ろの隅っこ。授業までの時間を平穏に過ごそうという僕の目論見は、席に着いた瞬間教室の前方から聞こえてきた会話によってぶち壊された。


 人の『本音』が聞こえてしまう僕は、学年屈指のモテ男である鶴橋祐つるはしゆうが前々から浮気をしている事を知っている。

 そして、高校二年になるが否や祐と付き合い始めたが故に心ない女子たちに「ビッチ」呼ばわりされている道坂由美みちさかゆみが、実は根っからの「清純派」であることも。


 だからといって、急にそんな事を周りに言っても当然信じてもらえないし、信じるに足る証拠をかき集めたとして、僕の手によって鶴橋くんと道坂さんの関係が壊れることは僕自身望んでいない。誰かの本音を暴くということは、その人の築いてきた関係を破壊することなんだ。


 そういうわけで、余りにも不遇な道坂さんを、不遇だと知りつつどうすることも出来ない僕は、そんな現状へのせめてもの抵抗として、誰にも届かないように細心の注意を払いながら出来るだけ大きなため息をついた。


『ん、どうした? でっけえため息なんかついて』

「うおっ!」


 唐突に聞こえた本心からの言葉に思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

 細心の注意を払ったつもりだったが、最後列の座席の更に後方のスペースまでは気がまわらなかった。

 慌ててバッと振り向くと、窓のふちに背を預けて空を眺めていた少年が、その大きな身体をスーッと起こしている所だった。


「ああ、つかさか。おはよう」

『おう、おはよう。んで、何でため息なんてついてたんだ?』

「……いや、まあ色々あってね」

「なんだよそれ」

(やっぱ変わった奴だな……)


 本音と建前、どちらにもリンクした苦笑を浮かべるこの男、小早川宰こばやかわつかさは、本来僕なんかと交わる事の無い様なクラスの中心人物だ。頭脳明晰、眉目秀麗、運動神経抜群。

 オマケに、これは本音が聞こえる僕だからわかる事だが、僕みたいなクラスの隅っこにいる人間も決して見下さず、心の底からフラットに接してくれる器の大きさを持っている。

 そんな絵に描いたような完璧人間が、今日は心なしかソワソワしている様な気がしたから、率直にその理由を聞いてみた。


「そんなことより、宰の方こそなんだか浮足だってない? 何かあったの?」

『あれ、聞かされてねえの? 今日からこのクラスに転校生が来るらしいぜ』

「へえ、そうなんだ。知らなかった。始業式から一ヶ月足らずって、何か変なタイミングだね」

『だよなぁ。まあ何にせよどんな奴なのか楽しみ』「……っともう時間か。んじゃあまた後で」

「うん」


 会話の途中でクラス前方の扉が開き、担任の先生が入ってきた為、本音で


(喋り足りねぇ……)


 何て言いながら宰は自分の席に戻っていった。




「早く席に着けー。朝礼始めるぞ」


 と、教卓に手荷物を置くなり生徒に着席を促した担任、篠原先生の本音は、(こいつら転校生見たら絶対騒ぐだろうな)だ。

 どうやら転校生はイケメン、あるいは美人らしい。


『よし、じゃあ早速だが転校生の女子が一人、このクラスに来ることになった』


 後者だった。にわかにザワつき始める教室。


(美人こい)

(可愛い女の子)

(頼む。清純派美少女であれ)

(転校生と俺……始まるラブコメ……)


 等等、思春期真っ盛り男子の不純な本音と、


(仲良くなりたいなあ)

(明るい子だと良いな)

(No more 美人 no more ビッチ……)


 なんていう女子のプラスマイナス様々な本音が飛び交い、僕にとってはてんやわんやの大騒ぎだ。

 そんな騒ぎを『うるさいぞ』の一声で一蹴した先生は、『よし、じゃあ入ってくれ』 と転校生に入室を促した。


 ガラガラと扉が開き、ピンと背を張って真っ直ぐに歩を進める少女。クラスの皆がその一挙一動に注目する中、教卓にたどり着いた転校生は、クルッと僕たちの方に向き直ると、笑顔で自己紹介を始めた。


『始まして。河合椿かわいつばきと言います。下の名前で椿って呼んでください。皆さんと少しでも早く仲良くなりたいです』


 ここまで一気に喋ってから一息ついた転校生、河合さんは最後にもう一度ニコッと笑顔を作り、『よろしくね』と挨拶を締めくくった。

 

 これが、後に僕の人生、あるいは僕自身を大きく捻じ曲げることとなる嵐の様な転校生、河合椿との邂逅だった。




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