7.勇者くんと魔道士くん
夜、宿屋にて勇者くんは寝てしまった。もちろんその前に俺のお手入れをしてくれた。あはん、気持ちよかったー。
のは置いといて。
『クラウスくーん……クラウスくんやい……』
と魔術でクラウスくんにだけ語りかける。
「……ちっ……なんだ魔剣……」
と起こされてイラついているご様子……怖い。
『俺の名前はアインザーですぅ……というのは置いといて、クラウスくんってば勇者くんに何かイラついてるでしょ?』
「……お前には関係ない……」
『……やっぱりイラついてるんだねぇ……それは勇者くんが自分が勇者だって受け入れきれてないからでしょ?』
「…………」
『黙りは肯定とみなすからね。……んでさ、勇者になりたかったクラウスくんはその煮え切らない態度にイラついてるわけだ……違うかい?』
「…………」
『また黙りかい……はぁ……。とにかくさぁ……君がそうやって勇者くんにイラついてるせいで、更に勇者くんは“勇者”って立場が受け入れにくくなってるんだよー勘弁してやってくれないかい?』
「…………勘弁しろも何も、俺は……レオンがさっさと勇者という立場を受け入れば何も問題無い……」
『でも勇者くんは……そうは思ってないみたいでさー……』
「どういう事だ?」
『……勇者くん……いや、レオンくんはクラウスくん、君の方が勇者に相応しいと思い込んで悩んでるんだよ……だから自分は場違いだってね……』
「ちっ……そういう事か……おい、魔剣!防音の術を解け!」
とクラウスは起き上がった。
その後の展開はだいたい予想がついたので、術を解くことにする。頑張れー。
『……解いたよー』
「おい!レオン!レオン!!起きろ!」
とクラウスくんは勇者くんを揺する。
「ん?んん?もう朝?」
と勇者くんはお寝惚け眼の様だ……。
「違う、とにかく話がある」
「え?……うん、何?」
とキョトンとする勇者くん。
「……お前……俺の方が勇者に相応しいとか思い込んでるのか?」
「えっ?……っ!アインザー!話したな!」
と俺を揺する。止めて酔う……うえっ。
『ごめん勇者くん……でもこれは早めに解決しておかないとだから……とにかくクラウスくんと話してよー』
とまだ揺すられている。だから酔うって……。
「そうだ、魔剣なんかと話してないでこっちと話せ。……で、どうなんだ?」
とクラウスくんは力強い眼差しで勇者くんを見る。
「……うん……。……クラウスの方が……勇者に相応しいと思ってるよ……」
と俯く。
「ちっ……このバカ!神託に選ばれたクセにうじうじすんじゃねーよ!お前が勇者なんだ!お前にしか出来ねーんだよ!だからさっさと覚悟を決めてしまえ!!」
と口調が荒くなっている……本性?
「えっ?……で、でも……クラウスはそれでいいの?」
「……どれだけ一緒にいると思ってる……幼なじみだろ……お前が勇者に相応しい性質なのはよく分かってる……悔しいけどな……」
「ぼ、僕が勇者に相応しい……?」
「そうだ……勇者の器はお前にある……だから……もっとシャキッとしろよ勇者っ!」
と勇者くんの背中をバシンと叩いた。
「で、でも……クラウス……僕を恨んでないの?」
「は?……何でそうなる?」
と眉間に皺を寄せる。
「だってクラウスも勇者になりたかったんだろ……」
「……このバカ……もう俺は割り切っている。……歴代一の勇者の相棒になってやるとな」
「っ……く、クラウスー」
と勇者くんは泣き出してしまった。
「おい……泣くなよ……」
「ご、ごめん……」
「んで、これで勇者としての立場を受け入れるな?」
「うん……うん、僕……受け入れるよ……!ありがとうクラウス」
とまだ泣き続けている。勇者くんは涙脆いなぁ。
「それでいい」
とクラウスくんは満足気だ。
『おめでとー勇者くーん。お二人さんにこれでわだかまりが無くなったね?』
「うん……アインザー……機会をくれてありがとう」
『いえいえ、どーいたしましてー』
「俺からも礼を言う……アインザー……」
『く、クラウスくんが名前を呼んでくれた!わーい!』
と俺も歓喜の涙を流しそう……泣けないけど。
「……うるさいぞ……魔剣」
と再び魔剣呼びに戻ってしまった……。
『はいはい……黙りますよぅ……後はお二人さんごゆっくりぃー』
それからしばらく勇者くんとクラウスくんは語り合っていた。仲が直ってなによりである。ふぅ。