25.お転婆姫様
翌日、勇者くんは朝食をとり終わって一人王城の自室にいる。
クラウスくんは魔法剣士としての訓練で俺の分体を使って街の外へ移動して魔物と対峙中であるし、ハンナちゃんは聖堂教会へ顔を出しに行ってしまった。
つーわけで、勇者くんは手持ち無沙汰なのである。……勇者くんも訓練しろよ……とは病み上がりなのであまり言えないし……。
と思案していると部屋に誰がスルッと入ってきた。……その誰かとはまさかのエミリア姫である。うそん……。
……窓際でボケーッとしている勇者くんはまだ、気付いてない……。アホだ……。
『ゆ、勇者くん……後ろ見てみ……』
「……何?アインザー……」
と勇者くんは振り向いて固まった。
「……勝手に失礼してごめんなさいね勇者様、ちょっと御用があって来ましたの」
と可憐に微笑む。
「……え、エミリア姫!?えっ?用事ってな、何ですか?」
と勇者くんはフリーズから直った。そしてアタフタしている。
「私の望みを聞いていただけますか?勇者様……」
と勇者くんを上目遣いで見つめる。……勇者くんはノックアウト寸前だ。
「は、はいっ!喜んで!!」
と勇者くんは内容も聞かずに快諾してしまった……おバカー。
「ふふ……言質は取りましたわよ……」
とエミリア姫は楽しそうにニヤリと笑う。
勇者くーん。まずったんじゃないの?
「で、姫様……内容は?」
「えっと、その……私を城下へコッソリ連れて行って欲しいんです!お願いします勇者様!お忍びと言うものがしてみたいんですわ!」
と勇者くんの手を握りしめる。
「ええっ!そんなの……危ないよ」
「……さっき快諾して下さったのに?酷いですわ勇者様……」
と姫様は目を潤ませる。あっ、泣きそう。
「えっ、ええっ……あ、アインザー……助けて……」
『快諾した勇者くんが悪いんだからねー。もう連れて行ってあげなよー』
「まあ!アインザー様ありがとうございます!さあ勇者様……城下へ連れて行って下さいませ!」
とずいずい勇者くんに迫る。
「わ、分かったよー……」
と勇者くんは遂に折れた。今回は君が悪い。
「さあ、勇者様!どうやって城下へ行きますの?……正攻法なら兵に止められてしまいますわ……」
「……うーん……アインザーの移動術……とか?」
『……勇者くん……俺頼りなのね……』
「ごめん……でも正攻法以外だとそれしか思いつかなくて……」
『しゃーない……俺は勇者くんの剣だしぃー手伝ってあげますよー。ほらとりあえずこの陣へお入り……王都の路地へ移動させてあげるよ』
と陣を出現させる。
ありがとうと、二人は陣に入った。
そして、とある路地移動したのだった。
「ここが城の外なんですね……勇者様……」
と辺りをキョロキョロする。
「うん、そうだよエミリア姫」
『んんんんん……勇者くーん、姫様ー。城の外でそのお互いの呼び方は不味くない?変えた方が良いと思うよー?』
「まあ、そうですわね……レオン様?……私の事はエミリアとお呼びください」
と微笑む。
「う、うんエミリア……俺も呼び捨てで良いよ」
と勇者くんはデレデレである。
「はい!レオン!」
『むふふ……良きかな良きかな……ついでに勇者くんは人相が知れ渡ってるからそれを誤魔化す魔術を二人共に掛けてあげましょう……それっと!』
と二人に魔術を掛ける。姫様も人相が多分城下には知れ渡ってるだろうし。
「ありがとうアインザー」
『いえいえー。ついでに姫様に守護を掛けるね。何かあったり、怪我されちゃたまらないから』
と姫様に守護魔術を掛ける。まあこれで大体の事から守ってくれるだろう。
「ありがとうございます。アインザー様」
『さあ、二人共……これから日が暮れるまで城下を楽しみなよー。むふっ』
ついでに城にも姫様と勇者くんがいない事に気付かない様に……ゴニョゴニョしといてやろうっとー。ふふふーん。俺ってば有能!
そして二人は大通りへと繰り出した。
が、勇者くんは王都の事をあまり知らないぞ……と思っていたら、勇者くんはそれを直ぐに姫様にカミングアウトした。
姫様はそれを微笑んで受け止め、では一緒に知りましょうと勇者くんの手を引いた。
おおっ?いい感じじゃーん。ふひひ。
後は俺は黙って二人を見守ろうっと……。
姫様は案外?お転婆で勇者くんを色々振り回した。
マーケットだったり、ちょっと危険溢れる下町ったり……。とにかくお姫様では行けない所をどんどん楽しんでいる。
「さあ、レオン!あちらへ行ってみましょう!」
と今も勇者くんをグイグイ引っ張っている。積極的ぃー。
「うん!」
と勇者くんは引っ張られて満更でもなさそうだから幸せなんだろう。Mなの?
とにかく姫様も勇者くんも大分砕けて接することが出来るようになってきた。良い感じじゃーん。ひゅー。
そして今は買い食いをしている。……姫様からの要望だからねっ!
「ふふふ……本当に城下って楽しい所なのね」
とクレープをお上品に食べている。
「うん、僕も……た、楽しいよ」
と照れを隠す様にクレープをむしゃむしゃ食べる。
「レオン、クリームが付いているわよ?」
と勇者くんの頬からクリームを指で優しく掬った。
「えっ……あ、ありがとう……っ」
と勇者くんは真っ赤になった。
「ふふふ……」
「えへへ……」
としばらく二人は微笑みあった。
そしてクレープを食べ終わった二人は次の場所へ行く様だ。
そうして仲良くしている内に夕暮れが来てしまった。
『……お二人さーん……そろそろ戻らないとだよー?』
と仕方なく口を挟む。ごめんよー。
「まあ、そんな時間なのね……。レオン、今日は本当に私の我儘を聞いてくれてありがとう!とってもとってーも楽しかったわ!私はこの日をきっと忘れないわ」
と夕焼けを背に綺麗に笑う。
「……僕こそ……沢山楽しかったよ……ありがとうエミリア。僕も忘れないよ」
と勇者くんも笑う。でもどこか寂しそうだ。……姫様との最後の思い出とか思ってるのかな?もっと押せよー。もどかしいわー。
『……んじゃあ……戻ろっか?』
と陣を出現させる。
二人は黙って目配せをしてゆっくり陣へ入った。そして城の勇者くんの自室へと移動した。
「……ではレオン……またね?」
と姫様はちょっとだけ躊躇って部屋から出ていった。
「うん……また……。…………行っちゃった……」
としょんぼりとため息を吐く。
『でもさー、またねって言ってくれたじゃん?また会えるさー』
「うん……そうだね。そうだと良いなぁ……」
『で、勇者くーん……おデートの感想は?』
「で、デート!?……そんなんじゃ……」
と真っ赤になった。
『いやいやアレをデートと呼ばずして何をデートと呼ぶのかね?……さあさ……感想を……』
「うっ……とにかく幸せでした!これでいい!?」
とヤケになった様だ。……これ以上つつくのは可哀想だな。
『まあ、良いとしますかー。むふふ……』
そうして勇者くんが夕食をとったり色々しつつ夜が更けた。
勇者くんはそれは幸せそうに眠りました。
連載を土曜日(24日)から週1に変更しますのでお知らせをご覧下さい。
すいません。