1.呪いの魔剣、勇者様に出会う
俺はとある王国の宝物庫に保管されている剣だ。うん、こうして思考して喋るだけあって呪いの魔剣である。名をアインザームカイト。通称アインザー。……そして保管ではなく封印である……ちょっと格好つけたかったのである。
俺は残念ながら聖剣ではないのだ。誠に残念だ。と言うか遺憾である。何故生みの親は俺を聖剣に作ってくれなかったのか……くっ。
呪いの魔剣という身は結構辛いんだぞ。俺自身の意識が至って一般的であるから。呪いの魔剣だけど意識は狂ってはいないのだ。マジ普通。マジ正常。
ただ生まれと今までの使い手が悪かったのだと言い訳をしてみる。……確か、前の使い手は勇者に倒された魔王だったような……。昔過ぎて覚えていない。……それだけ長い間封印されているのである。ひどい。
……そして、俺の横にあるのが伝説の聖剣様ですよ……けっ。俺の邪悪さを打ち消す為だとかで横に安置されているらしい。
……う、羨ましくなんて……あるけど……。くそぅ……くそぅ……。聖剣に生まれたかった。
で、聖剣は無口だ。と言うか喋れない。聖剣にのくせにな……けけけ。
まあ剣同士なんで普通に会話は出来るが。……結構暇つぶしに付き合ってくれている良い奴だ。……と言うか聖剣お人好しぃ!俺呪いの魔剣よ!?とたまになる。
やはり聖剣は聖剣様なのだ。ぐすん。
しばらくえぐえぐ泣いていると、宝物庫の扉が開かれた。……どうせいつもの点検だろう。
「聖剣ってどこにあるのかな?」
と一人の少年の声が聞こえた。
ん?なんだ聖剣くんをお探しか?
「……勇者のお前なら何か分かるんじゃないのか?」
と少年の連れが言う。
は?勇者?勇者様が来てるの?うっそ……。何年ぶり?何百年ぶりなの??とウキウキしてしまう。
……でも勇者が持ち出してくれるのは……いつも隣の……聖剣くんだ……。俺じゃない……。ぐすん。
そこで俺に邪念が湧きました。……俺を持ち出す様に誘導すればいい……と。
だ、だめだ横に聖剣くんもいるし……で、でもでも……俺だって……俺だって勇者様に使ってもらって聖剣になりたいよー!!と邪念がはち切れた。
ふひひ……持ち出してもらおうじゃないか……勇者くーん。
『勇者……勇者……こっち……こっちへ……』
とちっちゃく語り掛けてみる。ちなみにお連れには聞こえない様にちょっとした魔術を使っている。ふひひ。
「ん!……聞こえた!声だ!!」
と勇者の少年。
「本当か?……で、どこだ?」
とお連れの少年。
「えっと……奥みたい」
と勇者が近づいてくる。ほお?十六ぐらいの少年だな……。茶髪に緑眼でなんか元気そうだが、ちょーっと頼りない雰囲気が……。
『そう……こっち……こっち……』
と語り続ける。
そして勇者が聖剣君と俺の目の前に立った。
「どっちが聖剣?」
と勇者は首を傾げる。……結構おマヌケさんか?
「問うまでもないだろう……」
とお連れさんは聖剣君を指す。ああん、勘のいい子。ダメぇー!俺を指して!!
『違います……そちらは……聖剣に見える呪いの魔剣です……勇者よ、その横の私を手に取ってください……見た目は悪いですが聖剣です』
と黒銀に赤の装飾が煌めく俺に触れる様に頑張ってみる……お願い勇者くん!
「なるほどー!」
と勇者は躊躇いなく俺を手に取ってくれた。……やっぱこいつどこか抜けてんな。
「は?おまっ……バカ!それは聖剣じゃないだろ!明らかにヤバイ剣だ!手を離せ!」
と焦るお連れくん。
『ふふふ……んくくく……ふははは……これで俺も遂に聖剣だー!!!』
と歓喜あまって叫んでしまった。
「えっ……聖剣じゃないの?」
と固まる勇者くん。……しまったー。
「やっぱりな……レオン……そいつを離せ」
とお連れくん。ふむふむ勇者くんはレオンと言うのか。
「う、うん……あ、あれ?離れない?」
と俺を手から頑張って離そうとする勇者レオン。
『ふははは……離れんよ』
と俺は嬉しくて笑う。
「クソッ……魔剣の類か」
とお連れくん。
『大正解ー!俺は伝説の呪いの魔剣アインザームカイトなり!勇者はもう俺の依り代だー!!』
「ええっ!……クラウス……どうしよう」
と勇者レオンはお連れくんを見る。
「……とにかく国王陛下に相談しよう……それか聖堂教会だ……」
とお連れくん……いや、クラウスくんは言う。
『んふふ……無駄だよー勇者くーん。俺は死ぬまで勇者くんから離れれませんっ!』
「何だって?」
とクラウスくんは眉根を寄せる。
「えっ?どうしよう……」
と不安そうな勇者レオン。……頼りない……。
『説明しよう!俺は呪いの魔剣中の魔剣である!したがって使用者……つまり、依り代が死に絶えるまでその身を離れませんっ!あっ手から離れて鞘に収納は可能だからね。じゃないと不便でしょ?まあとにかく一生頼むよー勇者くーん。ちなみに他の剣も使えませーん!剣が溶けるよー……聖剣でもね』
「ま、マジで……?」
とポカンとする勇者レオン。
『いえーす。いえーす。嘘じゃないぞー。ちなみにどんな聖魔術とか聖職者でも本当に無理でーす。ガチで離れません。ムリムリ』
「ちっ……本当に呪いの魔剣だな……」
と舌打ちするクラウスくん。……美形さんが台無しですよー。うん、本当に美形な少年だなぁ。銀髪に蒼眼でローブ姿だ。魔道士か?
「と、とにかく国王陛下に報告に行かなきゃ……これじゃあ魔王討伐なんて無理だよー」
と泣きそうな勇者レオン。……おいおい勇者が泣きべそかよ。
『報告に行ってもどーしよもないと思うぞー。さあ、そのまま魔王討伐に行っちゃおうぜー!そして、俺を聖剣の仲間入りさせてくれ!!』
「そう言えば……さっきからお前は聖剣になりたいとばかりに言っているな……本当に魔王を討伐したいのか?」
と胡乱気なクラウスくん。
『そうよ!そうよ!俺、魔剣に生まれちゃったけど聖剣になりたいの!お願いしますよー勇者様ーちゃちゃっと魔王討伐しちゃおうぜー?』
「……どこまで真実なんだか……」
と胡乱な目を続けるクラウスくん。
『聖剣になりたいのはガチなんだけどなぁ……どーやったら信じてくれんのー?』
「レオンから離れたら……」
『あはは。そりゃ無理……俺からでも離れれませんっ!それにもしも離れたら君は俺を即封印するっしょ?』
「ああ……とっとと離れろ……この魔剣っ」
とクラウスくんは勇者くんの手から俺を引っぺがそうとする。危ないよ?
『無理だっていってんじゃーん……呪いなんだって……』
とちょっと自分でも凹む。
「うわーん。離れてよー」
と勇者くんも必死だ。てか、泣いてるか?あらら……。ごめんよー。
「ちっ……クソッ……とにかく国王陛下の元へ行こう」
とクラウスくんは勇者くんを引っ張って宝物庫から出た。
おお!何百年ぶりの宝物庫の外っ!!あー何か感じる空気も新鮮。外っ素晴らっしい!